子どもをほめることに難渋しているかたへ
子どもは「ほめて伸ばせ」と昔から言われます。小学生と言えば、親を信頼し親の意向に沿おうという気持ちがまだ色濃く残っている年齢期ですから、わが子を適切にほめることは親の方針を子育てに反映させる意味においても重要な役割を担っているのは間違いありません。本コラムでも、「わが子をいかにほめるか」ということを何度も話題に取り上げてきました。
しかしながら、児童期の子どもはまだ行動規範を学ぶ途上にあり、逸脱行動がしばしばあります。したがって、叱らねばならない場面も絶えないことでしょう。さっきまでほめるつもりでいたのに、いつの間にか子どもの態度に腹を立てて怒鳴っている自分に気づき、気の滅入る思いをされたかたも少なくないでしょう。また、中学受験をめざして勉強している子どもの場合、勉強で行き詰ったり、自信を失ってしまったりすることも結構あります。そういう子どもにこそ、適切なほめ言葉による励ましが必要なのですが、どうほめたらよいのか当惑する場面もあると思います。そこで今回は、ほめるのが困難な状況をいくつか想定し、対処の方法を共に考えてみようと思います。
わが子をほめるのが困難な状況にどう対処するか
1.成績が落ち込み、子どもが自信を失いかけている場合
子どもが成績不振で自信を失いかけると、多くの親はほめることよりどうアドバイスして巻き返しを図るかに心を砕くでしょう。しかし、それでもほめて元気づける方法はきっと見つかります。また、そのほうが子どもの学力伸長をはかるうえで有効です。では、何をどうほめればよいのでしょう。
たとえば、とりあえずは成績面を度外視し、子どものメンタルの立て直しを図るのです。子どもの勉強のプロセスや、テストの答案から進歩している点や優れた点がきっと見つかります。それを指摘してほめてやるのです。具体例をあげてみましょう。
・成績はやや残念だったが、テストに備えた勉強に一生懸命取り組んでいた(努力こそ親が望むことだ!)。
・難しい問題からちゃんと〇を取れていた(優れているところがちゃんとある!)。
・本来ならできていたはずの問題を、いくつもミスのために失っていた(力はある!問題は注意力)。
子どもはちょっとしたきっかけしだいでずいぶん変わります。子どもの成長力を信じましょう。
2.やる気がしぼみ、勉強に勢いが失われている場合
子どもの気持ちが落ち込んで無気力な状態になっているとき、とってつけたようなほめ言葉をかけても効果はありません。そうかと言って奮起を強要しても逆効果を招きます。前述のように、小学生の子どもはきっかけしだいでやる気や自信を取り戻します。勉強面以外にも目配りをし、子どもの美点をとらえ直すことをお勧めします。
たとえば、子どもが家庭生活のなかで何らかの役割を果たしていたなら、それを話題にしてさりげなく感謝の気持ちを言葉にしてみるのも有効でしょう。「いつも妹の面倒を見てくれてありがとう」「弟の遊び相手になってくれて助かっているよ」など、ご家庭それぞれに伝えかたを工夫してみてください。 また、親が促さなくてもやるべきことをやろうとしたとき、そういう自発的姿勢をほめ称えてやりたいものです。何事も自分からやろうとすることが物事の成就に欠かせないのですから。
3.どうしても叱らねばならないことがある場合
子どもをほめてやりたいものの、叱らざるを得ない案件も同時にある場合にはどうすべきでしょうか。片方を控えるのは適切ではありません。両方とも重要なのですから。
問題は「ほめる」と「叱る」の順序をどうするかでしょう。二つの相反する働きかけをする場合、後のほうが印象に残るものです。それを踏まえて対応を考えましょう。たとえば、お調子者で明るい性格の子どもなら、先にほめてから、その後で改めるべき点を指摘してきっちり厳しめに叱るのです。逆に、性格が控えめでおとなしい子どもの場合、先に叱ってから、後でよい点を大いにほめたたえたなら、よくなかった点を反省しつつ、前向きにがんばろうという意欲ももつことができるでしょう。
子どもそれぞれに個性がありますから、上記の方法で効果がない場合、子どもの反応の様子を振り返り、試しに逆の順序でやってみると意外な効果があるかもしれません。
4.不得意科目が子どもを苦しめている場合
誰にも不得意な科目があります。ただし、苦手意識が極端だと勉強全体に悪影響を及ぼしがちです。そんな状況にある子どもに対し、親がいろいろと注意をしたり発破をかけたりするのは得策ではありません。それよりも、苦手意識が勉強全体の足を引っ張らないよう配慮すべきでしょう。
人間には誰にも苦手があるいっぽう、好きなことや得意なことが必ずあるものです。中学受験をめざす子どもですから、勉強のすべてを苦手なはずがありません。
まずは得意科目があることに意識を向かわせ、どうして好きなのか、得意なのかを子ども自身に問いかけながら、成果を上げている科目があることをほめてやりましょう。そのうえで、苦手な部分はどこなのかを考えさせ、やれる範囲での巻き返し作戦を親子で練ってみてはどうでしょうか。
誰にだって不得手はあります。要はそれが極端な弱点にならないようにすればよいのです。子どもにそのことを伝え、自分の長所を大いに伸ばし、生かすことを勧めてやりましょう。
5.そもそも、子どもをほめるのが苦手なおかあさんはどうしたらいい?
「私はほめるのが照れくさくて苦手です」「そもそも、ほめようにもうちの子にはほめるべきところがないんです」――こんなことをおかあさんから言われたことがあります。謙遜の意味もあったのかもしれません。しかし、もしほんとうならぜひとも子どもへの接しかたを変えるべきでしょう。
親にほめられない子どもは、どうやってがんばりのエネルギーを得ることができるのでしょうか。面と向かってほめるのが苦手であれば、直接のほめ言葉を使わなくても同等の効果を得る方法があります。たとえば、勉強と無関係な話題でもいいので、親子一緒に楽しい会話の時間を過ごすのもよいでしょう。こういう場があると、子どもが一人になったとき、必ず「おかあさんはぼくに(私に)どうすることを望んでいるのだろう?」と思いを巡らします。気持ちにゆとりができるからです。また、子どもが何か家のなかで役割を引き受けて実行しているなら、折を見て「いつもありがとう。助かっているよ」と伝えるのも、ほめるのと同じ効果をもたらすでしょう。
わが子をほめるのが苦手かどうかに関わらず、親子の信頼関係を築くための努力は絶対に必要です。親の愛情や期待を伝える工夫を怠らないようにしたいものですね。
中学受験へのプロセスは順風満帆ではありません。子どもが困難に直面したとき、欠かせないのは親のサポートです。そのときに必要なものは、指示や注意、励ましの言葉などではなく、親ならではの愛情深いほめ言葉ではないでしょうか。親の関わりが重要な役割を果たすのは後わずかの期間です。子どもに自信や勇気を吹き込む、とっておきの言葉をかけてあげていただきたいですね。

