親の声かけのちょっとした変化が子どもを救う!

 前回は、親からの声かけがなぜ必要かについてお伝えするとともに、声かけの機会をふやし、子どもの学習を活性化させるための方法として、子どもに小さな目標をもたせることをご提案しました。今回はこのことに関連して私の心に浮かんだことを書いてみようと思います。

 まずは、中学受験に挑戦するプロセスには思わぬ落とし穴があることについて再度確認しておこうと思います。前回ふれたことを蒸し返すようですが、お子さんの受験を成功へと導くために重要なことであり、ここでもう少し詳しくお伝えしておきます。心に留めていただければ幸いです。

 努力はうそをつきません。受験勉強に一生懸命取り組めば、どの子どもも相応に進歩し学力を伸ばすことができます。しかしながら、テストでの得点や順位などのデータが期待外れだったとき、子どもは無論のこと親ですら落胆し、努力して得た成果を肯定的にとらえたり、よかった点や悪かった点を丹念に分析したりすることを忘れてしまいがちです。誰もが合格をめざしてがんばっているのですから、がっかりする成績が度重なることも珍しくありません。なかには、それが原因で自信や自己肯定感を失ってしまう子どももいます。冷静に振り返れば、ちゃんと力はついているというのに…。

 このような状態が続くと子どもの自信は揺らぎ、勉強に集中できなくなってしまいます。志望校に合格したいのは誰しも同じ。それを成し遂げるために欠かせないのは自己信頼の気持ちや意欲です。それなくして勉強は成り立ちません。テスト結果が思わしくなくても、努力を継続していけば力はつくし、道が開かれる可能性は必ずあります。決してあきらめてはいけません。子どもにこのような轍を踏ませないようサポートできるのは親だけです。なにしろ、親からの愛情深い声かけは子どもの揺らぎがちな心を支える砦であり、なくてはならないものなのですから。わが子がテスト結果に落胆していたら、まずは日ごろの努力をねぎらい、親はどんなときにも味方であり、応援者であることを伝えてやりましょう。

 そこで保護者の方々には、お子さんとの会話の現実を振り返ってみることをお勧めするしだいです。毎日お子さんとどんな内容の会話を交わしておられますか? 実は、親が子どもに語りかけることの多い話題と、子どもが親との会話で望んでいる話題との間には大きなギャップが存在します。教育関連の書物につぎのようなエピソードが紹介されていました。ある学者が小学校のPTAを通じて、「家庭での会話時間を、親子それぞれに依頼して計測してもらってください」という依頼をしました(対象学年や調査家庭の数は不明)。その回答を集計すると、思わぬ結果が判明しました。


 親が報告した親子間の平均会話時間は1日あたり20~30分だったのに対し、子どものそれはわずか3~5分だったそうです。これはどういうことでしょうか。

 原因は、親と子どもの「会話とは何か」に対する認識の違いでした。子どもにとっての親子の会話とは、楽しい時間を共有する会話であり、掛け値なしに心の安らぐものなのです。しかし親にとっての会話には、わが子に伝えるべきことを話して聞かせる時間も含まれていたのです。

 日頃忙しく働いている親は、なかなかわが子とゆっくり会話を交わす時間がありません。そこで、わが子と話す機会があると、まずは気にかかっていたことや、子どもに注意や反省を求めるべきことが先に口をついて出てしまいます。それはわからぬわけではありません。しかし、子どもにしてみれば、せっかく大好きな親と心の弾む会話のできるチャンスに、耳の痛い話ばかり聞かされてはたまりません。だから、子どもにとって親からの一方通行の話は会話の時間とは思えないのでしょう。

 ここで、親からの声かけに対する子どもの反応を調査した結果をご紹介してみましょう。これは私が勤務していた進学塾でかつて実施したアンケートでの子どもたちのコメントです。

 どうでしょう。やはり、子どもの期待する声かけと親の声かけとには相当な乖離があるように感じますね。親の気持ちは十分にわかります。しかし、声かけの効果を引き出すうえで最も重要なのは、子どもに「親から愛されているんだ」ということを実感させ、「がんばろう!」「自分はやれる!」という意欲や自信を取り戻させることです。子どもに改めてほしいこともあるでしょうし、もっとがんばってほしいと思うこともあるでしょう。しかし、それを伝えるのは子どもが勉強の勢いを取り戻してからのこと。まずは子どもの心の状態を慮り、元気づけること、勇気づけることに注力していただきたいですね。

 なお、上記でご紹介したアンケート結果は、子どもからの不満をピックアップしたものですが、実際には親の声かけへの感謝の言葉も多数ありました。「親も大変なことがあるのに、元気づけてくれてありがとう」「毎日声をかけてくれてありがとう」「成績が下がったときに怒らず、やさしい言葉をかけてくれてありがとう」など、泣かせるようなコメントもありました。声かけのしかたしだいで、親の気持ちは子どもにちゃんと伝わるのです。これからみなさんのお子さんが、成績不振などで落ち込んだり自信を失ったりすることもあるかもしれません。そういう兆候が少しでも感じられたときには、いつにもまして子どもの気持ちを慮り、心からの声かけを実践していただきたいですね。

 今回お伝えしたことをもとに、声かけのもつ重要性や効果をもう一度とらえ直し、明日からの受験生活や子育てに役立てていただければ幸いです。