“声かけ”は子どものやる気を支える特効薬

 9月も半ばにさしかかろうとしていますが、相変わらず夏の余韻が色濃く残っており、秋がやってきたという実感がありません。地球温暖化へのささやかな抵抗をと、私の家ではこの20年あまりエアコンのない生活をしていましたが、夏の暑さに音をあげ、昨年はとうとう設置しました。もしもそうしていなかったら、今頃どうなっていたかと思うとぞっとします。

 さて、今回はわが子への声かけをテーマに取り上げてみました。本コラムをお読みの保護者の多くは、お子さんの中学受験を視野に入れておられると思います。小学生の受験生活は、中学生や高校生のそれとはずいぶん異なり、安定感や継続性を欠きがちです。その場の雰囲気に流されたり、衝動に左右されたりしがちで、やるべきことを自分でコントロールする姿勢や力が足りない年齢ですから、保護者の見守りやフォローが欠かせません。わが子への声かけは、その意味でも大変重要であり、適切なタイミングで実践したいものですね。

 また、受験準備にあたっては常にテストが繰り返され、他者との学力比較が繰り返されます。誰もが受験での合格を夢見て勉強に励んでいますから、学力は伸びていてもそれがなかなか実感できないものです。アメリカなどでは、今までできなかったことができるようになると、それを子ども自身の進歩としてとらえ、「good enough(グッド イナーフ)」と評価されますが、日本や東アジア諸国などでは他者との比較で優れていて初めて評価されます。「very good(ベリィ グッド)」の視点に偏っているように思います。この違いが子どもの自己評価に大きな影響を及ぼしているのです。相対評価の落とし穴にはまってしまわないよう、周囲の大人の十分な配慮とサポートが求められるのではないでしょうか。

 この大人の配慮とサポートのなかで、子どもが歓迎するとともに最も効果があるのが“声かけ”です。みなさんは、わが子への声かけを常に意識し、実践しておられますか? 児童期までの子どもにとって、何よりも信頼できる存在であり、心の支えとなるのが親です。その大切な親が自分のことをしっかりと見守り、適切に励ましたり注意を与えてくれたりすることが、どんなに心強いかは言うまでもありません。改めて、この夏休みの親子の関係を振り返ってみてください。夏休み中のわが子の過ごしかたや勉強の取り組みにどのぐらい関心を寄せ、声をかけたでしょうか。

 ここまで、子どもへの声かけの重要性についてお伝えしました。しかし、「何について声かけをしたらよいかがまだぴんと来ない」という保護者もおられるかもしれませんね。そこで、わが子の勉強面に限定し、「どんなときに声かけが必要か」について多少の例をあげてみましょう。

1.勉強するはずの時間になったのに遊んでいるとき。
2.成績が下がったとき(テストで悪い点を取ったとき)。
3.学習意欲を失っていると感じたとき。
4.苦手科目に悩んでいるとき。
5.自分から机に向かって勉強に取り組んだとき。
6.学校や塾の宿題を最後までやり遂げたとき。
7.やり残した勉強を、朝早めに起きてやり遂げたとき。
8.自分でその日にやるべきことを算段して取り組んだとき。

 声かけをするときに心がけたいのは、「ああしたほうがいいよ」「こうしなさい」という指示や命令にならないことです。また、困った状況(1~4)に対する助言や勇気づけだけでなく、子どものよいところ、がんばっていること(5~8)を指摘し、「自分はOKなんだ」という自己肯定の気持ちをもちあげる言葉かけをすることにも配慮しましょう。それが今抱えている問題を乗り越えようというエネルギーを引き出すからです。どうすべきか、対処法に気づかせることも必要ですが、このほうが子どもの成長にとってより貢献できる親からのサポートになると思います。

 親からの声かけと子どもの努力とを連動させ、子どもの大いなる成長を引き出すために、ここで一つ私から提案をしてみようと思います。それは、子どもに当面の小さな目標をもたせ、その実現に向けたプロセスを見守りながら声かけをすることです。

 目の前に目標があると、子どもにとって大きな励みになります。その目標を親子で共有すれば、親も声かけのチャンスが増えるでしょう。一口に目標といっても、様々なタイプがあります。そのなかで代表的なものは、「遂行目標」と「熟達目標」です。前者は「テストで何番を取るか、何点を取るか」など、結果が明確に判断できる目標です。いっぽうの後者は、「算数の苦手単元をやり直す」とか「毎日1時間は勉強する」など、努力すれば誰でも実行可能な目標です。

 前者は問題の難易度や他者との比較など、自分ではコントロールできない要素があり、必ずしも手ごたえの得られる結果に至るとは限りません。それに対して、後者はその気になれば必ずやり遂げられる目標である点が大きく異なります。子どもが自信を失いかけていたり、やる気がしぼみつつあるようなときには、「熟達目標」を掲げて努力することをお勧めしたいですね。

 どんな目標を設定するかにあたっては、子どもの性格も考慮すべきでしょう。また、男子は数値目標や他者との競争に発奮する傾向がありますが、女子はそうとは限りません。そのあたりも加味し、親子でじっくり話し合って、当面の目標を設定してみてはいかがでしょうか。

 「目標があると人(子ども)は変わる」とよく言われます。適切な目標を掲げ、日々努力することの繰り返しは、子どもを大いに成長させることでしょう。そこに親の愛情深い励ましの声かけが加われば、ますます成果があがるのは疑いありません。親からの声かけは他の何にもまさる特効薬なのです。声かけで目標に向かってがんばるわが子を応援してやりましょう!