おかあさんにとって男の子は異星人?

 おかあさんがたから多くいただく相談の一つに、男の子の扱いかたがわからないというのがあります。少子化のあおりを受け、男きょうだいがいない環境で育ったおかあさんが多いことが原因でしょうか。「勉強にまるで計画性がなく、やることなすことがでたらめで、注意しても全然効果がありません」「叱ると、言い訳ばかり。ちっとも反省している様子がないんです」などのように、コミュニケーションがうまく機能せず、途方に暮れているおかあさんがたくさんおられました。

 みなさんのおたくではどうですか? 小学校4~5年生頃の男の子は、口は達者になるものの、考えが安易で実行力も足りないのが普通です。そして、注意をされると言い訳や口答えをします。そこでさらに腹を立てたおかあさんが怒鳴ったりすると、息子さんも興奮して大声で反抗する。そうなると、男の子はきちんとした理屈で自分のしたことを説明できません。そんな男の子の様子は、おかあさんにはまるで別の生き物のように見えます。

 なぜこのような事態になるのでしょうか。アメリカの研究者の書物に、「なるほど」と思う記述があるので、その内容をかいつまんでお伝えしてみましょう。男の子のネガティブな感情を司るのは扁桃体と呼ばれる古い脳部位です。昂った感情をコントロールし、おかあさんに自分の思いをきちんと伝えるためには、知性の座と言われる大脳新皮質との連携が不可欠です。しかし、扁桃体と大脳新皮質との連絡網は存在しません。そこで、何かのきっかけで興奮状態になると、なぜ腹が立つのか、納得できないのかを言葉で理路整然と伝えることが全くできない状態になり、感情に任せた短い声を張り上げることしかできなくなってしまうのです。

 おかあさんにとって、男の子は異星人のようにわかりにくい生き物であるのに対し、女の子は同性であるために心を通じ合わせ易い存在です。実際、以心伝心という言葉がぴったり当てはまるような、仲睦まじい母娘関係のご家庭も多いようです。ただし、互いの気持ちがわかり易いがゆえの問題もあります。成績不振が長引いたり、成績が下降線をたどって自信喪失に陥ったりしたとき、女性にありがちなネガティブな思考が親子共々働き、「このままじゃ、志望校合格は無理だね」などと一緒に落ち込んでしまいがちです。本来なら、おかあさんが「あなたなら絶対大丈夫よ。今までの努力は絶対に無駄になんかならないよ!」と勇気づける役割を担うべきですが、いったん流れが悪くなると、娘さんばかりかおかあさんまで悲観論者に陥ってしまうのです。

 ところで、何をするにつけややアバウトで実行力が不足しがちな男の子に対して、おかあさんはどう対処したらよいでしょうか。何はさておきおかあさんに必要なのは、男の子特有の欠点を前提として受け入れることです。そして、「いろいろ言い訳をしたり逆らったりしているけれども、親の気持ちは伝わっているはず」と気長に構えることです。そういう気持ちのゆとりをもったなら、感情に任せて叱ることは少なくなるでしょう。たとえば、男の子の言い訳の常套文句の一つに、「今やろうと思っていたのに!」というのがありますが、やるべき時間だという意識があるから出た言葉ですから、あながちでたらめな言い訳ではありません。「そうか、やろうと思っていたんだね。じゃ、つぎはちゃんとやれるよね」と返したなら、子どもにもメンツがあるので、しばらくはがんばることでしょう。この「気長に見守る」という点をまずはクリアしたいですね。

 そして、折を見て息子さんと話し合い、家庭生活上の約束やルールを設けてはいかがでしょうか。無論、親子で落ち着いて話し合い、互いの納得のもとでルールを定めるべきなのは言うまでもありません。そして、もし破ったら子どもに結果を引き取らせるべく何らかの対処をします。「約束を守らなかったんだから、見逃すわけにはいかないよ」と、冷静に実行に移しましょう。そのいっぽうで、勉強のことに限らず、普段の息子さんの様子を見て、やるべきこと、望ましいことを率先してやっていたときにはすかさずほめてやりたいですね。その繰り返しを通して、息子さんは自分への期待がどういうものかをおのずと理解し、おかあさんが促したり叱ったりする必要はなくなっていくことでしょう。

 とにかく、男の子はよい行為を見逃さず、おだてに近いくらいほめることです。根拠のあることならほめられて悪い気がするはずがありません。気分が乗ったら男の子の行動は変わります。「決めた時間になったら机に着く」ということが習慣として定着するまで、とにかくなんであれ「自発性的行動」が見られたらほめたたえてやりたいですね。それがあったなら、たまにガツンと叱ったときの効果も大いに増すことでしょう。意外と、男の子はきっぱりと叱られるのは好きなのですから。

 無論、親子関係は家庭によっていろいろです。たとえば、おかあさんと息子さんの対立が一切ない家庭もあります。ある年、無口でまじめな男の子のことが妙に気になったことがあります。時々おかあさんが相談に来られるのですが、息子さんの勉強にやや過剰な関与をされているように感じられました。そして、いつも決まって「今のままじゃ、志望校合格は難しいですよね」「私も昔、中学受験で失敗しましたから、息子も無理でしょうか」「うちの子には力がないようですね」など、口をついて出てくるのは悲観的な言葉ばかり。ひょっとして、息子さんに自分の思いをそのまましゃべっているのではないかと心配したほどです。時折、彼に「おかあさんにあれこれ言われて嫌なんじゃないかい?」と声をかけましたが、彼は何も言いません。やがて6年生の秋を迎えると、彼の成績は下降線をたどり始めました。そして、入試はおかあさんの心配通りの結果になってしまいました。「やはり、カエルの子はカエルなんでしょうね」――これは、最後にお会いしたとき、おかあさんが私におっしゃった言葉です。もしこのおかあさんが自分のネガティブ思考を改め、息子さんを勇気づける励ましをしておられれば入試結果も違っていたのではないかと思い、残念でなりませんでした。

 子どもを勇気づけたりがんばらせたりするための方法はいろいろあるでしょう。うまくいかないことも多々あります。うまくいかないと感じたときには、男の子と女の子の特性を念頭に置き、効果のある対処法を試みることが大切でしょう。また、父親的視点、母親的視点いずれかに偏り過ぎるのも望ましくありません。お子さんとの関係がうまくいかない場合には、親としての視点のありようも再確認するとよいでしょう。

 近年の傾向ですが、学習塾の催しにおとうさんの参加がかなり増えているように思います。子どもの勉学や進路について夫婦で一緒に情報を得て、どうサポートするかも夫婦で相談して決めるのは喜ばしいことですね。今回は、主におかあさんと息子さん、娘さんの関係について書きましたが、機会があればおとうさんと息子さん、娘さんの関係についても話題に取り上げてみようと思います。