子どもの学習意欲は何によって高まるの?
前回は、子どもが早くから勉強嫌いになってしまう原因の一つに、大人(おもに親)による勉強の強制があるということをお伝えしました。逆に、親が上手に勉強のよさに触れさせるよう導けば、子どもは勉強を受け入れ、熱心に学ぶようになるということもお伝えしました。
このことは、小学生の学びは親しだいであるということを意味するでしょう。ご存知のように、児童期までの子どもにとって親は絶対的な存在です。何しろ体も心も未熟であり、親なしにはとうてい生きていけません。したがって、親が強く出れば大概は親の言うままになります。だからこそ、親はわが子に対して何を期待として差し出し、何を評価軸にするかをよく吟味する必要があるのではないでしょうか。わが子がどんな人間に成長するかも、そのことが少なからず関与するからです。
そこで今回の話題に移ります。何につけ親の影響力が強い児童期の子どもですから、勉強に取り組む際の意欲(やる気)にも親が深く関与しているのは間違いありません。今回は児童期の子どもの学習意欲を話題に取り上げてみました。
大学の研究者によると、子どもの学習意欲の源となる要素には、大まかに言って4つあります。一つは、目標実現に向けた意欲(目標の実現を励みに湧きあがってくる意欲)です。二つ目は、自己向上心にもとづく意欲(知りたいという欲求に突き動かされた意欲)で、心理学用語では内発的学習意欲と呼ばれるものです。三つめは、賞罰(ほめられたり叱られたりすること)で引き出される学習意欲です。四つ目は、親の期待に支えられた学習意欲(親の期待に応えたいという気持ちから湧き出る意欲)です。これらの意欲の源泉は、それぞれ子どもの年齢と内面の発達に伴って強さが変わっていきます。
そこで質問です。A~Dは①~③の年齢期の子どもの学習意欲の源を強い順に並べたものですが、それぞれに当てはまるものはどれでしょうか。
①小学校低学年(小1)
②小学校高学年(小5)
③中学生(中3)
判断のポイントは前述したとおりです。小学生、特に低学年までの子どもは、賞罰や親の差し出す期待が子どものやる気に大きな影響を及ぼします。自分が何に向いているか、何をめざすべきかについての判断ができるようになるには、相応の人生経験が必要ですから、目標を実現したいという願望が学習意欲に転じるのはもっと年を重ねてからのことです。そのことも参考にして考えてみてください。
それでは答えを確認してみましょう。①の小学1年生がC、②の小学5年生がA、③の中学3年生がBです。すべて正解できたでしょうか。なお。学習心理学などでは、自己向上心に支えられた意欲(内発的学習意欲)が最も大切なものとされていますが、子どもの年齢とともに学習意欲の源としては存在感が低下しています。これはどういうことでしょうか。研究者によると、それは子どもの内面の成長とともに自己向上心にもとづく学習意欲が社会性を帯び、自分のめざすものを実現したという意欲に転じていくからのようです。つまり、目標達成に向けた学習意欲に統合されていくのでしょう。
ただし、重要なのはこの知見をどう生かすかです。そうでなければ、今回の話題をご提供した意味はありません。本コラムをお読みのかたはおもに小学生の保護者だと思いますので、小学校の低学年と高学年について、これからともに考えてまいりましょう。
まずは低学年から。1年生の段階では、賞罰が子どもの意欲に最も強く影響します。親にほめられたいという欲求、親にほめられることの喜びが勉強のやる気に直結します。また、「叱られたくない」という気持ちも奮起につながるのでしょう。こうしてみると、「子どもはほめて伸ばすべし」という格言は的を射ているように思います。ただし、大切なのは「何を見てほめるか」です。プリントで多く○がつくか、テストでよい点を取るかでほめたり叱ったりしておられるご家庭もあるでしょう。ですが、できるなら子どもの努力や学ぶ姿勢を見てほめるようにしたいものです。これならお子さんは、がんばったなら結果にかかわらずほめてもらえることに気づき、前向きな学びの姿勢を築くことができます。親にしても、このほうが子どもをほめ、励ましてやれるチャンスが格段に増えるのではないでしょうか。良好な親子関係を築くことにもなるでしょう。
また、叱ってがんばらせようとすると、お子さんは勉強嫌いになる恐れがあります。上述のようにがんばりを見てほめると、子どもは心を落ち着けて勉強に向かうことができますから、自己向上心に支えられた学習意欲(内発的学習意欲にもとづく学習意欲)もおのずと強くなっていくことでしょう。
つぎは高学年です。高学年になると、賞罰の影響はだいぶ後退し、「親の望むような人間でありたい」という思いが学習意欲に強い影響を及ぼすようになります。ただし、いずれにしても親が子どもの学習意欲に強く関与している点においては変わりません。子どもの内面が成長し、単純に親にほめられたいからがんばるのではなく、親の期待や意向を理解し、それに応えられるような人間でありたいという思いが意欲に反映されるようになるのでしょう。そこで親にとって重要なことは、「何を期待として差し出すか」ということになるでしょう。親が努力することを重視し、結果よりもどれだけがんばったかを評価軸に据えたなら、子どもはそれを受けて迷うことなく努力の人であろうとするでしょう。子どもの内面は、児童期後半に著しい発達を遂げます。親の期待が筋の通ったものであれば、親を信頼する気持ちも高まり、それがやがてくる思春期の親子関係の崩壊を未然に防いでくれることにもなります。
もう一つ。目標実現に向けた意欲が児童期にはあまり効力をもたないのはなぜでしょうか。それは、人生経験がまだ少なく、世の中について十分な知識が備わっていないためであろうと思います。たとえ、何かになりたいと思っても、限られた知識に基づくものなので、長続きしないし、いろいろと知識を得るうちに他のことに興味の対象が移ったりしがちです。中学受験においても、「○○中学へ行きたい」という気持ちをもったとしても、確たるビジョンに基づく目標ではないため、長期の努力を後押しする原動力にはなりにくいのです。今、お子さんにもっとがんばってほしいと願っておられるなら、子どもの内面の成長度を把握したうえで、子どもに励みを与えるような期待を差し出してあげることが大切でしょう。
<押さえておきたい!> 児童期の子どもの学習意欲は親しだいです
1.低学年(1~2年生)のうちは、何をほめるかが重要です
前述のように、低学年児童期は親が絶対的な存在です。親がほめてくれること、認めてくれることがやる気にいちばん大きな影響を及ぼします。そんなときだからこそ、「何をほめるか」を間違えないようにしたいものです。先々前向きに生きる姿勢を携えた人間に成長していくことを期待するなら、結果よりもがんばり(努力)を見てほめるようにしたいものです。これが心の安定にもつながり、知ることに熱心な姿勢を育むことにもなるでしょう。
2.中~高学年になったら、親が何を期待するかがポイントです
中~高学年の児童期になると、子どもの内面の成長が進み、親にほめられることを励みにがんばるのではなく、親の意向に沿った人間になりたいという願望を胸に学習に励むようになります。低学年期と変わることなく、結果よりも努力を評価軸に据えた見守りをし、「努力する人であれ」という期待を指し示せば、子どもは納得し、親を信頼するとともに、努力する姿勢を自分の信条とする人間へと成長していくことでしょう。このプロセスは、自立した健全な人間に育てるための要(かなめ)となるものです。