児童期に、何はさておき確立しておきたいこと

 厳寒期がまもなく終わり、外出しても頬にあたる空気にどことなく春の訪れを予感させるようになるのがこれからの季節です。とは言え、まだまだ寒い日はしばらく続きます。お子さんの体調管理には十分気をつけ、お子さんがインフルエンザなどに罹らないようにしてください。

 さて、今回の表題を見て、みなさんはどんなことを思い浮かべられましたか? 児童期までに、ぜひとも確立しておきたいことって何でしょう。一つに絞るとなると大概の人は困惑されたり迷ったりされることでしょう。かく言う私も例外ではありません。しかしながら、小学生の学力形成に関わる仕事を長くやっているうちに、「まずはこれだ!」と思うようになっていることがあります。それは、「毎日の“基本的生活習慣”を確立しておくこと」です。なぜなら、これこそが子どもの将来の歩みを決定づけるものであり、それゆえ親が子どものしつけにおいて最も大切にすべきものの一つだと思うからです。そこで今回は、「生活において自分のことは自分でできるようになる」ことの意義について少し掘り下げて考えてみようと思います。

 基本的生活習慣が早くから自立した子どもの特徴として注目すべきことがあります。それは、何をするにつけてもエネルギッシュで、行動に自発性や積極性が備わっているということです。そのことは、学業面の成果につながりますし、対人関係の構築、物事をやり遂げる力の涵養においても多大な影響を及ぼします。わが子を主体性のある人間、リーダーシップのある人間に育てたいと願う保護者はたくさんおられると思います。それなら、まずもって「自分の身の回りのことを自分でやる姿勢を築くこと」を、日々の子育ての重要な柱に据えていただきたいですね。

 そもそも、自分のことを自分でするのは当たり前です。ただし、生まれて間もない赤ちゃんにはとうていできません。親の世話やサポートを受けながら、幼児期、児童期へと移行するにつれて少しずつ自立が進み、やがて大概のことは自分でできるようになっていくのが普通でしょう。しかしながら、近年は少子化が定着し、過剰に子どもの手助けをする親が増えていると言われます。本来なら、子どもが自分でやって当然のことなのに、親が代わりにしていることが少なくありません。その結果、子どもの自立が遅れてしまい、子どもの将来の歩みにもマイナス影響を及ぼしていることもあるようです。

 

 右の資料は、小学生の朝の起床の状況について調べたものです。低学年期は相対的に親への依存度が高く、朝の起床も親がかりになりがちですが、成長とともに親に起こしてもらうのと自分で起きるのとが半々ぐらいになっていくようですね。ただし、上級学年になると一人で起きるのが当然になるかというと、そうでもないようです。

 
 
 

 私がこの調査結果で着目したのは、自分で起きる子どもの比率が最も高いのが1年生だったことです。1年生の段階で親の助けなしに起きるようになった子どもが、進級するにつれて親がかりになるケースは少ないと思います。ということは、大半の小学生は、親に起こしてもらう全面依存の状態から多少の自立は果たすものの、中途半端な状態に終始しているケースが多いのではないでしょうか。私の知る限り、自ら学ぶ姿勢をもち、勉強に気合の入っている子どもは、親に起してもらうような受動型の生活を送っていません。このことに照らして考えると、低学年のうちに自分で起床する習慣を身につけておくことは大変大切なことだと言えそうです。


 右の資料は、自ら勉強に取りかかる子どもの割合を調べたものです。こちらのほうは、自分で意思決定をする子どもの割合が年齢とともに少しずつ増加しています。ただし、自分から勉強に取り組むのと、親に言われて勉強に取り組むのが半々ぐらいの子どもは、学年を問わず半数ぐらいいます。上級学年になっても、なかなか勉強の自立を果たせない子どもが多いようですね。しかしながら、そのいっぽうで1年生でも勉強の自己決定が可能になる子どもが2割強ほどいます。低学年でも、うまく導けば自分から勉強に取り組む姿勢は築けるのですね。

 
 

 二つの資料を見比べてみると、生活習慣の自立も勉強の自立も中途半端な状態の子どもが多いということがわかります。生活習慣の自立と勉強の自立は連動しており、自分の身の回りのことを自分でできない子どもは勉強の自立も果たせないのだと思われます。繰り返しになりますが、1年生でも朝自分で起きられる子ども、自分から勉強を始められる子どもが一定数存在します。要は親の水の向けかたしだいなのではないでしょうか。低学年時から何事も自分でやるよう促せば、子どもの自立は早くなります。それが勉強にも好影響をもたらすのは間違いないでしょう。

 そういえば、以前もご紹介したかもしれませんが、私立一貫校の先生から、以下のような話をお聞きたことがあります。「本校では、保護者に『朝、お子さんを親が起こさないようにしてください。それが習い性になると、寝坊して遅刻してもそれをおかあさんのせいにしてしまいます。そんな生徒が自立した勉強などできるはずがありません。遅刻して恥をかかせればいいんです。そうすれば、直に自分で起きるようになります』とお願いしています」 ――まったく、その通りだと思います。

 おたくのお子さんの生活習慣は自立しつつあるでしょうか。たとえば、つぎのようなことがらについてはどうでしょうか。ほぼOKのサインが出せるでしょうか。

1.朝、親の声掛けや手助けがなくても自分で起きている。
2.自分の机の周りの整理整頓ができる。
3.学校や塾にもっていくものの点検や準備ができる。
4.自分で衣服の整えができる。
5.テレビ視聴や遊びは、決めた時間内に切り上げることができる。

 いかがですか? 確かな生活習慣は、学業成就に欠かせない自己コントロール能力を築いてくれます。毎日の生活を通してお子さんが己を律する姿勢を育んでいけるよう、粘り強くサポートしてあげてください。その成果は、お子さん自身の貴重な財産となって人生の歩みを助けることになります。

※今回ご紹介した資料は、「小学三年生の心理 次へのステップアップ」落合幸子/著 大日本図書 から引用しました。資料にある調査データは筑波大学の新井邦二郎教授(現名誉教授)によります。