子どもを叱るときのメンタルコントロール

 先月2回のコラムでは、怒ることと叱ることとの違い、望ましい効果ある叱りかたとはどういうものかについて考えてみました。参考にしていただけたでしょうか? それでもなお、叱ることに対して精神的負担を感じるかたもおありであろうと思います。

 その理由としては、「叱った後、自己嫌悪に陥ってしまう」「子どもと揉めると、しばらく親子関係がぎくしゃくしてしまう」など、メンタル面の負担が少なくないからでしょう。実際、これまで多くのおかあさんがたからこのような悩みを打ち明けられたことがあります。そこで今回は、叱ることをテーマとするコラム記事の仕上げとして、叱るときのメンタルコントロールを話題に取り上げ、効果があってしかも後を引かない叱りかたについて一緒に考えてみようと思います。

 叱るとき、自分の感情を完璧にコントロールできる人などいません。わが子といえども別の人格をもった人間です。言いにくいことを告げたり反省を促したりする際に、平静を保つのは容易いことではありません。しかしながら、前回もお伝えしたように、わが子を叱るのは親としての重要な仕事です。それを回避し続けていると、その付けは必ずわが子自身が先々の人生で払わされることになります。それもただ苦労を強いられるだけでなく、間違った世界に足を踏み入れることにもなりかねません。

 では、親はわが子を叱るときどんな点に留意したらよいのでしょうか。いくつかポイントをご紹介してみましょう。

 
 

子どもを叱るときのメンタルコントロール

① 「わが子は思うに任せないもの」という現実を前提に接する。
 叱って即効き目があるなら、そもそも叱るような事態には至りません。「親の思い通りにはならないものさ」など、ある程度達観することも必要です。そうすれば、イライラや興奮も随分軽減されます。子どもを意のままにコントロールしようと思うから腹も立つのです。
 このことを念頭に置き、何が問題かを辛抱強く伝えてやりましょう。「そのうちよくなるさ」と楽観的に構えれば、その通り子どもはよくなっていくものです。子どもだって自分に非があるのはわかっていますから、親の気持ちにゆとりがあれば少しずつ変わっていきます。
 
 
 

② 子どもの未熟な点を受け入れ理解してやる。
 いけないことをしたら叱るのは当然ですが、「あなたはだからダメなのよ!」「これはいったいどういうこと!?」などと一方的に咎めると、子どもは反発し、感情的対立が生じてしまいます。
 子どもなりにやむを得ない理由がある場合だって考えられます。また、「もう少し遊んでいたい」という誘惑に負けることも子どもにはありがちです。もう一つ。そもそも子どもとは未熟なものです。それを理解してやる寛容さも必要です。そういう親のゆとりが子どもの過度な反発や衝突を未然に防ぐことになります。
 
 
 
 


③ うまく叱れない自分にがっかりしない。
 冷静に話そうとしても、そのときに限って感情が昂ってしまうことがあります。子どものいけない点をきちんと指摘して叱るつもりが、うまく伝えられないおかあさんもおられます。
 しかし、それを気に病んで落ち込む必要はありません。冷静さを失ったとしても、あるいは親の気持ちをうまく伝えられなかったとしても、「親が本気で叱っている」ことに気づくほうが子どもにとって重要です。叱った後に落ち込む人は、特にこのことを胸に留めてください。信念をもち、毅然とした親を子どもは尊敬します。

 
 
 


④ 子どもに迎合し好かれようと思わない。
 叱るときに子どもの反発が気になりますか? 子どもに嫌われるのを恐れると、叱るときの説得力が失われてしまいます。そもそも、子どもに迎合しても子どもに好かれるわけではありません。
 「これは、わが子のために譲れない」と思ったときは、きっぱりと叱りましょう。そもそも、子どもはそういう親のほうが好きです。このような姿勢を一貫させると、やがてそれが親の子育てスタンスとして定まるでしょう。わがままを許されて育った子どもは、他者の批判に傷つきやすい人間になりがちです。わが子のために叱りましょう!
 
 
 
 

 どうでしょう。上記のいずれかについて、「これは自分に必要な観点だ」と思われたでしょうか。叱るのを苦手にする人は、おそらくある程度どれも当てはまっているのではないかと想像します。子どもに厳しく対応するのをためらう理由は、大概多くの親に共通するからです。

 ですが、子どもは叱られる経験を通して善悪の判断やルール意識も学んでいきます。それを経験しないまま大人になっていくのがどんなに不幸なことかはすでに十分お気づきでしょう。また、親が興奮して怒ることを繰り返すと、他者への愛情や思いやりを欠いた人間に育つ恐れもあります。完璧な親になろうとする必要はありません。いけないことを愛情深く子どもに伝えてやればよいのです。すぐに効果を得られなくても、あきらめずに一貫した姿勢で親の考えを伝えてやればいいのです。勇気をもって実行しましょう。子どもに宿るまっとうな価値観は、こうした親の苦労の賜物なんですね。叱るという行為は、児童期までの子ども時代に経験すべき最も重要な体験なのだということを踏まえ、叱ることを恐れない親であってください。