望ましい叱りかたってどんなの?

 前回は、「怒る」と「叱る」の違いを確認し、「怒らずに叱れるおかあさん」になることをご提案しました。子どもは、叱られること自体が嫌なのではありません。明確な理由があってきっぱりと叱られるのなら、むしろ歓迎します。嫌がるのは、感情的に怒られたり、くどくど同じことを言われたりすることです。今回は、望ましい(効果のある)叱りかたとはどういうものかを一緒に考えてみませんか?

 叱るのが苦手なおかあさんには、まずもって「親に叱られない子どもは不幸だ」ということを肝に銘じていただきたいですね。「なぜ?」と思われましたか? 子ども時代にいけない行為をしたとき、親に愛情深く叱られた経験が、まっとうな人生を歩む人間になるために欠かせないからです。何がいけないのか、どうすべきなのか――そのことを繰り返し教えられた経験のない人間は、自分を適切に律する姿勢を築くことができません。大人になる過程で、さらには大人になってから、人間関係でトラブルを頻繁に起こす恐れがあります。このこと一つとっても、叱るということは子育てのなかでも大変重要度が高いテーマであることがおわかりいただけるでしょう。

 ただし、叱ると子どもの反発にあったり、親自身も平常心を保てなくなったりしがちです。そこで今回は、望ましい叱りかたとはどういうものかを共に考えてみようと思ったしだいです。

① 「何に対して叱るか」の基準を明確にしましょう。
 親が自分を叱るのはどんなときか、何をしたら叱られるのかを子どもが理解したなら、叱られた経験をもとに、親の期待する行動規範を身につけることができます。そうなれば、叱る機会は必然減っていきます。たとえば、成績が悪いとき、その理由に関わらず叱られるのと、成績が悪かった理由を確かめ、努力不足だったときに叱られるのとでは、子どもの気持ちも全く違ってきます。叱られる理由に納得がいけば、子どもは素直に反省するし、よくない行動を改めようとするものです。

② 叱るタイミングを逃さないようにしましょう。
 子どもがいけない行為に及んだとき、すぐその場面で叱るのがベストです。後になっていけない行為を蒸し返されても子どもはピンときません。「うるさい」と思うだけです。ただし、前回お伝えしたように、親が平常心を失いかけているときは一呼吸おいて気持ちを切り替え、そのうえで叱るほうがよいでしょう。そのときは、いけない場面を具体的に説明し、愛情をもってきっぱり叱りましょう。そうすれば子どもの反発も回避できるでしょう。

③ そのときの気分に左右されて、叱ったり叱らなかったりはNGです。
 同じことをしたのに、あるときは叱られ、あるときは叱られないでは、子どもの行動規範は育ちません。叱るときには一貫した姿勢が強く求められます。親にも体調面、心理面でコンディションを一定に保つのは難しく、「今は叱りたくない」という気持ちになるときもあるでしょう。しかし、ここで踏ん張らないと今までの苦労が台無しになってしまいます。がんばりましょう!

④ 親が子どもの行為について、どう感じたかを冷静に伝える。
 最初の項目で、まずは何がいけないのかを具体的に子どもに伝える必要性をとりあげました。それに加え、親として子どもの行為をどう思ったかを愛情をこめて冷静に伝えてやりましょう。そうすれば、子どももその場では口答えをしても、親の言葉は胸にしみていますから、同じことを繰り返すことはなくなります。児童期の子どもは基本的に「親の期待するような人間になりたい」と思っていますから、ただ叱るのではなく、親の思いをしっかり伝えてやることが大切です。

⑤ 「何を言うか」だけでなく、「どういうか」も大切に!
 同じ叱る言葉でも、子どもの反省を引き出す場合と反発を招く場合とがあります。なぜでしょう。それは、ニュアンスに違いがあるからです。たとえば、「さっき、おかあさんが話しかけたとき、ずっとテレビのほうを向いていたよね。そういう態度でいいの?」と、同じ言葉を発したとしても、とげとげしい怒りを込めた言いかたをしたのと、優しく言い含めるような言いかたをしたのとではずいぶん印象が違います。ため息を交えたり、口をすぼめたりといったしぐさも、子どもを不快にさせるので禁物です。

 

 そのほか、子どもに逃げ道を一切与えず、窮地に追い込むような叱りかたをするのも望ましくありません。子どもの言い分に耳を傾けてやることも忘れないようにしていただきたいですね。そのとき、大人にすれば言い訳に過ぎないことを子どもが言ったとしても、最後まで聞いてやりましょう。感情が高ぶりがちな会話のときも、冷静に話し合う姿勢が子どもに身につきます。学校で先生に厳しく注意を受けたことを知って叱っていたら、意外にも先生の勘違いが原因(例:ほかの子の行為だった)だったりすることもあります。

 叱るという行為は、子どもに望ましい価値観や行動規範を植えつけることを目的とします。ですから、一方的に叱るのではなく、子どもの釈明に耳を傾けてやる姿勢も大切にしていただきたいですね。親の気持ちを伝えた後には、「あなたはどう思う?」と、子どもの気持ちも聞いてあげてくださいね。上述のように、会話を通して自分がいわれのない理由で先生に叱られたことを親が気づいてくれたなら、子どもは親に対して信頼や尊敬の気持ちを一層強めることになるでしょう。

 叱るという行為は、親にとっても心理的負担を伴います。叱った後、重苦しい雰囲気を引きずらないようにするには、叱った後、「わかったよね」と子どもの目を見て笑顔で念押しし、明るい雰囲気のもとで話を切り上げるとよいでしょう。

 最後に。以前もお伝えしたかと思いますが、やるべきことに率先して取り組むしっかりした子どもを育てているおかあさんには共通点があります。それは、生活を共にするなかで、おかあさんのことを「普段は優しいけれど、いざというときには厳しい」と子どもに感じさせているということです。子どものよい行為は大いにほめてやり、いけないことをしたときには厳しい姿勢で臨む。そういう子育てが子どもの確かな行動規範と自律的な行動姿勢を育てるのでしょう。いつもは優しいおかあさんだからこそ、たまに叱られたときには子どもにとって怖く感じられるのですね。そんなおかあさんっていいですね。