児童期の親子の会話で大切にしたいこと

 明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 年明け最初の話題は親子の会話です。みなさんは、毎日お子さんと会話をされていると思います。そのとき、お子さんと近い距離で互いの目を見て話す時間がどれぐらいありますか? 家庭でおかあさんは忙しく働いておられます。キッチンやリビングなどで作業をしながら会話をされることも頻繁にあるでしょう。そうなると、おかあさんの目は手のほうに向けられます。しかし、親子が互いの目を見て話すことは、児童期の子どものコミュニケーション能力の発達にとって重要な意味をもっています。

 まずは、コミュニケーションツールとしての目の重要性について考えてみましょう。日本には、「目は口ほどにものを言う」という諺があります。これは万国共通の認識のようで、英語では「目は心の窓である」「目は世界中のどこでも通じる言葉である」などのような諺があり、フランス語では「目は魂の鏡である」、ドイツ語では「目は心の鏡である」などの諺があるそうです。

 人間は目を通して外界から多くの情報を得ています。その目は、会話の相手の目にも向けられ、相手の目を通して言外の心の内を想像したり理解したりしています。つまり、目は口に匹敵するぐらいコミュニケーションの道具として重要な役割を果たしているんですね。

 それを裏づけるのが右の資料です。これによると、人の顔写真を見せたとき、顔のどの部分に目を向けるか、その合計時間を調べたものです。圧倒的に目に注意が注がれています。人間の子どもは1歳半から2歳頃になると、人の目を通して意図を読み取ることが可能になると言われますが、これも目を通したコミュニケーションの重要性を裏づけるものでしょう。互いの目を見て会話を交わすことを忘れないでくださいね。

 もう一つ、親子の会話でおかあさんがたに気をつけていただきたいことがあります。それは、子どもにとっておかあさんはすべての行為の手本であり先生だということです。子どもが親に似るのは、遺伝子を受け継ぐからだけではありません。子どもは毎日親の行動の様子を観察して学んでいます。そのとき、子どもの脳の発話中枢(ブローカ野)とその周辺のニューロン集団が特有の反応を示しています。親の様子を目で捉えると、子どもの脳内でそのパターンを模して同様の動きをします。これをミラーシステムと言います。まるで親の行動をなぞるように再生し、親の行動様式を取り入れているのです。会話のとき、親子が互いの目を見ることは、互いのミラーシステムが相互に絡み合い、子どもの対人姿勢の形成に強い影響を及ぼすことになります。

子どもの目を見ながら、親の気持ちを愛情込めて伝えてやりましょう。おかあさんが子どもの目を見て話すと、「おかあさんは、自分のことを思ってくれている」「おかあさんは真剣に話をしている。ちゃんと聞かなきゃ」という心理が働きます。それが聞く態度や姿勢を育てるのは疑いないことです。

 以下は、互いの目を見ながらの会話の際に、おかあさんに配慮いただきたい点を挙げたものです。

 グローバル化が叫ばれて久しい年月が経過していますが、相変わらず「英語ができないと外国で通用しない」という考えがはびこっているようです。無論、語学力も重要な要素ですが、外国に長く滞在し、活躍されたかたの著述を読むと、もっと大切なことの存在に気づかされます。それは、自分の考えを理路整然と伝えることであり、他者に共感したり、他者の気持ちを汲み取って行動したりすることです。その基盤を形成するうえで大切なのは親子間の会話に他なりません。

 ともすれば、親は「どうすればわが子が学力の高い人間になるか」に気を奪われがちです。しかしながら、学力は他者との関係性を上手に保ってこそ正当に評価されます。そのことを保護者の方々は十分ご承知でしょうが、直接能力形成に関係ないと思われがちな要素は、いつの間にか忘れられてしまいがちです。学を修めることと、人間性を磨くこと、この二つのバランスこそ、人生を有意義に歩んでいくうえで重要なことです。ぜひおかあさんがたにはこのことを忘れないでいただきたいですね。

 なお、「会話の際に何を話せばよいの?」というかたもおありでしょう。低学年のうちは、「今日何があったのか」についての報告を約束事にし、そこから会話を発展させるとよいでしょう。子どもが高学年になると、それでは子どもが嫌がるかもしれません。その場合、親子それぞれの趣味やスポーツ、プロのサッカーチーム・野球チーム、ニュースネタ、アニメ、読書、受験勉強で扱う理科や社会のネタ、好物の食べ物、料理など、親子間で話が盛り上がりそうなものを話題に組み入れてもよいと思います。

家庭内会話こそ子どもの人間性を育む場。そのことを念頭に置き、互いの目を見ながらの会話を通して親の愛情をたっぷりと注いであげてください。
※目に関する諺についての著述は、「ことわざと心理学」 今田寛/著 有斐閣 2015 の著述を引用しています。資料のグラフも、この本に掲載されていたものを使用しました。
 

<押さえておきたい!> 親子の会話は互いの目を見て交わしましょう。

1.目は心の窓。相手の心を読み取る大切な役割を果たしています。
 人と人が会話を交わすとき、相手の気持ちを慮るうえで重要な働きをしているのが目です。相手の目の輝きや動きを見ることで、ほんとうの心の内を理解することができます。この能力は自然と培われるものではなく、子どもの頃の親子の会話を通して身につくものです。家庭で親子が一緒にいるとき、少しでもよいですから互いの目を見て会話をする時間を設けたいものです。

2.子どもの目を見て話すと、子どもは親の真剣さや愛情を感じ取ります。
 親が子どもの目を見て話すと、子どもはいい加減な受け答えをしなくなります。というのも、おかあさんの真剣さや、自分への愛情を直接に感じ取るからです。嘘をついたとき、子どもはおかあさんの目をまともに見られなくなるものです。それは、目が心を映す鏡になることを無意識に感じ取っているからではないでしょうか。互いの目を見て交わす会話は、子どもに誠実な対人関係の形成能力を築くうえでも多大な貢献をしてくれるでしょう。