反対の視点に立つと、違った世界が見えてくる
あるところでは望ましいとされているのに、別のところではよくないと思われていることがあります。今回は、そのことについて書かれた書物を読んでいて、ふと頭に浮かんだコラムのテーマについて書いてみようと思います。まずは、そのテーマに関わる記述をご紹介しましょう。
ある国や、ある文化圏で絶対的と思われていた「正義」や「常識」が、異文化の発想法や価値観の光を当てられた途端に、あるいは時間的経過とともにその文化圏そのものが変容をとげたせいで、もろくも崩れさる現場に何度立ち会ってきたことだろう。(中 略)
西洋人が忌み嫌う13という数字だって、東洋では、少なくとも中国や日本ではおめでたい数字でさえある。宋代に確定した仏教法典は十三経にまとめられたし、中国の仏教は、十三宗あるといわれている。また、旧暦3月13日に、13歳の少年少女が盛装して、福徳・知恵・音声を授かるため虚空蔵菩薩に参詣する「十三参り」という行事が『広辞苑』に紹介されている。(中 略)
こんなに13を好むなんて、中世のヨーロッパ人から見たら、日本人は悪魔にうつったかも知れない。「ところ変われば、品変わる」。同じ事物や現象に対してさえ、異なる歴史を歩み、異なる文化を育ててきた社会集団によって捉え方や意味付けが180度変わってしまう。
上記引用文は、「魔女の1ダース」新潮文庫 2000(H12)によりますが、著者の米原万里(ロシア語同時通訳者 故人)氏は、このあと、この話題の〆として次のようなクイズを出しておられます。何のことを言っているのかわかりますか?
「豪奢で華やかで気品があって威厳がある。これぞ余が探し求めていた理想の車じゃ」というわけで、さっそく買い求め、今も国で愛用しているという。たしかにいっさいの先入観なしで見るならば、王子様の用いた形容詞はこの車を描写するのにピッタリかもしれない。でも、おそらく日本人には、この車を毎日乗り回す気は絶対におこらないだろうと思う。さて、この車は何でしょう。(答えは末尾に)
上記の部分を読んでいたとき、ふと私の頭をよぎったのは、発想を変えることの重要性を教えてくれる事柄の存在です。考えてみたら結構ありました。そのなかで、みなさんの子育てやお子さんの学習に役立てていただけるのではないかと思ったことを、いくつかご紹介してみようと思います。
① 理解したり覚えたりするのに時間がかかる子は頭がよくない? →NO!
難しい問題をたちどころに解ける子どもがいます。うらやましい話です。しかし、学ぶのに苦労したほうが習熟度は高くなるという、アメリカの学者の報告があります。早く理解することと、深く理解することは別だというのです。簡単に理解できると楽ですが、うわべの理解で終わる恐れがあるからです。忘れる可能性も高いそうです。
いっぽう、理解に苦労し時間がかかるほうが、却って応用力が身につくのだそうです。とかく親は「もっと早くできないの!?」と、せかしたり叱ったりしがちですが、時間がかかるほうが本物の力を養えるのですね。努力の大切さはそこにあるのではないでしょうか。人が30分で済ませる勉強を2時間かかる。でも、その努力さえ惜しまなければ、やがて高いレベルの学力に到達できるのです。
②「あなたは~」を、「私は~」という言いかたにすると子どもは変わる? →YES!
子どものやることに苛立つと、親はつい「あなたは~だからダメなのよ!」という言いかた(Youメッセージ)で叱ってしまいます。これを続けていると子どもは親の言葉に耳を貸さなくなってしまいます。いっぽう、「私は~と思ったよ」などのように、親の思いを告げる言いかた(Iメッセージ)をすると、子どもは親の言葉に耳を傾けるようになります。なぜでしょうか?
「あなたは」という言いかたは、ほめるにせよ叱るにせよ‟上から目線”の評価のニュアンスがつきまといます。いっぽう、「私は」という言いかたなら、親の率直な気持ちとして受容できます。それが、「私は嬉しかったよ。だってあなたが、おばあさんの肩たたきをしてくれたんだもの。ありがとう」など、喜びや感謝の気持ちを伝える言葉ならなおさらでしょう。子どもは自分のことをOKだという、自己肯定感をもつことができます。親の言葉を聞かないはずがありません。
③ ゲーム三昧の息子に、時間制限やゲーム機の取り上げは効果なし。どうすればいい?
幼いころから、子どもが静かになるからという理由でゲーム機を買い与えていると、暇さえあればゲーム三昧の子どもになりがちです。小学校の中~高学年になって、慌てて「1日1時間までにしよう」ともちかけても、大概は効果がないと言われます。思い余ってゲーム機を取り上げても、大きくなった子どもの強い抵抗にあって再び許してしまう家庭も少なくないとか。どうすればいい?
この種の問題の専門家によると、ゲームの制限や取り上げという発想でなく。子どもの興味関心の対象を他のものに転換させようという発想による働きかけのほうが効果的だそうです。世の中には、ゲームよりもおもしろいものが数多くあります。スポーツもよし、文化的体験もよし、ものづくりもよし。何が子どもにフィットするかわかりませんが、体や頭を使うことの楽しさに気づかせると、子どもは自然とゲームにこだわらなくなるそうです。試してみませんか?
④ 授業を聞かないのは、子どものせいではなく・・・・・・実は親が原因かも?
「子どもが学校や塾での授業をちゃんと聞いていない」と嘆いておられるご家庭と話をしてみると、意外と原因が保護者にあることが少なくありません。一つ例をあげてみましょう。子どもが家にいる時間帯は、おかあさんにとっても忙しい時間帯が多いものです。食事の支度、洗い物、片付け等々・・・、子どもが「ねえ、ねえ」と話しかけてくると、つい「あとで」とやり過ごすことになりがちです。
おかあさんがたの集まりの際、「そんなとき、『さっき何を言いたかったの?』とフォローしていますか?」と尋ねたら、ほぼ全員が首を横に振っておられたことを思い出します。もしもそんな体験が繰り返されたならどうでしょう。「人の言うことは聞かなくていいよ」ということを、おかあさんが自ら教えていることになりはしないでしょうか?
子どものことになると、親は無意識のうちに支配的に振る舞ったり、感情的になったりするものです。そういうときには解決策は見つからないものです。冷静になり、「何が原因だろうか」、「どこに問題があるのだろうか」と思いを巡らせていると、意外に今やっていることを逆の視点で見つめ直すとよい解決策が見つかるかもしれませんよ。今回の記事が参考になったなら幸いです。
※上記クイズの答え…霊柩車
<押さえておきたい!> うまくいかないときは逆転の発想もアリです。
1.子どもは親の欠点を写し取るということを忘れずに!
子どもは親、特におかあさんを見ていろいろなことを学んでいます。何しろ一番身近にいて、いちばん長い時間接しているのはおかあさんですから。おかあさんと一緒にいるとき、子どもの脳内で活躍しているニューロン群(ミラーニューロン)があります。ミラーニューロンは、相手の表情や言動をまるで鏡にように写し取り、同じことを脳内で反芻します。その結果、子どもはおかあさんの長所も短所もそのまま写し取ることになります。「子どもは親の言いつけを守らないが、親のまねをすることにかけては天才だ」という言葉もあります。気をつけてくださいね。
2.子どもを変えたければ、親が変わるのが最も効果的です。
上述のように、子どもは親の様子を見て学んでいます。裏返しに考えれば、子どもの気になる点を改めさせるには、親が同じことをやっていないかを振り返り、それを改めるのがいちばん効果的ではないでしょうか。たとえば、子どものネガティブ思考が気になるとき、おかあさん自体がそういう思考を引き出している可能性もあるでしょう。おかあさんが「何でもあきらめずにやっていれば、いずれ何とかなるよ」と、お子さんにポジティブな考えかたで接したら、きっとそれがお子さんにも伝わるはずです。一度、発想を逆転させてお子さんに接してみてください。