質問を有効に活用する子どもって!?


 秋たけなわの好季節が訪れました。暑からず寒からずの秋は、勉学に読書にスポーツにと、何をするにつけても没頭できるし成果も上がります。
今、お子さんが力を入れている分野があれば、一気に軌道に乗せるチャンスですから、がんばっていただきたいですね。

 今回の話題は「質問」です。みなさんは、お子さんがわからない問題で難渋したとき、「先生に質問しなさい」とアドバイスしたことがおありでしょう。しかし小学生の場合、どう質問してよいかわからないお子さんが少なくありません。もしお子さんが中学受験をめざしておられるなら、高学年、特に6年生になった段階で先生への質問を上手にできるようになっていると、学習成果が随分違ってきます。その準備として、どんなことを心がけたらよいかをお伝えしようと思います。

 あるとき、ネットの記事だったかと思いますが、「欧米人は、あまりに物事の答えを早く知ろうとし過ぎる。疑問を解消するプロセスを軽視し、すぐ解決に至らないと意欲を維持できなくなる人が多い」というのです。いっぽう、日本ではまず自分で考え、練習や調べをくり返して問題の解決を図ることが推奨されます。したがって、子どもの勉強の場合も「質問に応じる=教える」ではなく、学習者の自己発見を促すことが教員の仕事と認識されているようです。欧米式だと、時期尚早のタイミングで質問するから力がつかない。いっぽう、日本式だと試行錯誤の段階を抜け出せないままに終わってしまいがちなところに問題があるといったようなことが指摘されていました。

 みなさんはどう思われますか? 安易に質問するのも、悶々と突破口を見つけられない状態で苦しむのも残念なことですね。ただし、日本式の質問のしかたは、工夫しだいで多くの収穫が得られます。疑問の解決に至るプロセスを、様々な角度から思考することで頭脳が鍛えられるからです。また、自分なりに解決に向けた努力をしたうえで質問をすると、答えを知った後の応用も利くでしょう。よい先生は解決法をまるごと教えません。子どもの躓きの部分を察知したら、そこから必要な着眼点を教えるだけに留めます。これが「子どもの自己発見を促す」ということだと思います。

 ここで、私が中学受験指導の現場にいた頃のことを少しご紹介してみようと思います。自ら解決しようとする姿勢が高いレベルで備わっている子どもは、丸ごと教わるのをよしとしません。では、わからないときはどうやって解決を図っているのでしょうか。

 ある年、6年生の国語の記述問題対策の補習をしていたときのことです。課題は答案作成に必要な着眼点が見つけにくいうえ、文章を組み立てる能力を高いレベルで要求する難問でした。大半の子どもがてこずっているなか、一人の女の子が「一応書いてみました」と言ってきました。そこで教卓に呼んで答案を点検してみると、結構部分点が取れる答案が書けていました。そこで、小声で着眼のズレを指摘し、解答の記述方法に関して若干のアドバイスをしました。すると、その女の子はすぐに書き直して見事な答案をもってきました。驚いたのはその後です。残りの十数名の子どもが次々に自分の書いた答案をもってきました。それがいずれもポイントを押さえたしっかりとした答案だったのです。どうやら、私が小声で女の子に伝えたアドバイスに全員が聞き耳を立てていたのでしょう。とは言え、それだけで簡単に解決できる課題ではありませんでした。おそらく、どの子も一生懸命に考え、解答の方向性を見出しかけていたのでしょう。できる子がどういうものかをまざまざと見せつけられたひとときでした(あのときのメンバーの大半は、地域でトップランクの中高一貫校に合格しました)。

 また、あるとき6年生男子10数名が授業後に残って算数の自習をしている場面で、興味深い光景を目にしたことがあります。難関中学の算数の文章題に挑戦していたのですが、全員が苦戦しているようでした。しばらくして、一人の男の子が「わかった!」と叫びました。すると、たちまちその子の周りに人だかりができました。感心したのは、答えや解法を知りたくて集まったのではなく、着眼のポイントを知ろうとしていたことでした。ヒントを得ると、「ありがとう。あとは自分でやってみる!」と、楽しそうな笑顔を浮かべて自分たちの席に戻り、再び真剣な表情で問題に取り組み始めました。私は彼らの様子を見て感心するとともに、ほんとうに頼もしい気持ちになったものです。このときのメンバーも、大半が地域最難関の中高一貫校に進学しました。

 上記二例でわかるように、まずは自分で考えて正解に漕ぎつけようと努力する子どもは、ちょっとしたヒントを得るだけで一気に問題を解決することができます。質問を云々する前に、まずは今まで学んだことをもとに自分で考え、様々な角度から解きかたを検証していくことが必要でしょう。そのうえで先生に質問すれば、要領よく質問の意図を先生に伝えられるし、的確なヒントやアドバイスがもらえるのではないでしょうか。すぐに答えを教えてもらおうとせず、まずは自分でいろいろと考えをめぐらす。そういう姿勢を子どもたちには培っていただきたいですね。問題は、どうやったらその姿勢が身につくかです。

 ご家庭でお子さんの算数学習のフォローをされる場合、「どこまでがわかっていて、どこがどうわからないでいるのか」を、お子さんに説明させるようにしてみてください。おそらく、それがちゃんとできるお子さんは少ないと思います。自分がどう考え、どこで行き詰っているかを言葉で説明する経験が足りないからです。「どう考えたのか、おかあさんに教えて」とお子さんに尋ねる形式がよいでしょう。当分はイライラし通しかもしれませんが、話しぶりが要領を得るようになるまで気長に待ちましょう。それをくり返しているうちに、課題の意味をよく考えるようになり、筋道立てて考える力も少しずつ身についていきます。それにつれて「解決したい」という気持ちも高まってくるものです。そこまでたどり着けば、先生に質問しても成果をあげられることでしょう。タイミングを見計らって「先生に質問してごらん」と水を向けてやりましょう。

 親は教え過ぎたり叱ったりしがちですが、それでは子どもの学習によい影響を与えることができません。親が関わるのは子どもの自立促進のためなのだと心得ていただきたいですね。我慢強くサポートをしてあげてください。そして、お子さんが自分で問題解決を図ろうとする姿勢を見せたら、そのことを大いに喜んでやりましょう。それがお子さんの学ぶ姿勢を磨き、学力開化に大きく貢献するに相違ありません。


<押さえておきたい!> 質問が上手にできるようになるための前提って?

1.安易に先生に質問しても力はつきません。まずは自力解決の姿勢を!
 質問すると、目の前の課題を解決することができます。しかし、質問は、問題の解きかたを知るためではなく、問題を解くために必要な考えかたを身につけるためにあります。よく考えずに質問する癖がつくと、自力解決の姿勢も力も養えません。まずは、既習事項をもとに自分で解決の方法を考える姿勢を身につけていただきたいですね。無論、全てを自分で賄える人間はいません。自力解決が難しいと判断したら先生などに質問する。これが望ましい自立学習の姿です。

2.自分の考えていることを言語化する練習をさせましょう。
 小学生の子どもは、自分の考えを言葉で説明するのが苦手です。それは、語彙が少ないうえに思考を言語化する経験が足りないからです。うまく質問できないのも無理ありません。そこで必要になるのは、わかっていること、わからないことを他者に言葉で説明する練習をすることです。その相手は保護者、それもおかあさんが適任でしょう。お子さんがうまく言えなくてもイライラせず、辛抱強く耳を傾けてあげてください。この練習の繰り返しで、徐々に要領よく自分の考えを伝えられるようになります。