楽しく学べる子どもにするための働きかけ
前回は、学ぶ楽しさを味わう体験の重要性についてお伝えしました。ただし、現実には「そう言われても、子どもはもう勉強を嫌がっている」と、ため息をつくような思いをしている保護者もおありでしょう。就学年齢に達した子どもは、学校に通い、塾に通い、勉強というものに向き合っています。まっさらな状態ではありません。そこで今回は、今から子どもに対してどう接したら、学ぶことに前向きな姿勢を引き出せるかをともに考えてみようと思います。
まず保護者にお伝えしておきたいことがあります。子どもにとって、親からの評価はまだまだ絶対的なものです。親が命令や指示で子どもをコントロールしがちなのは、子どもが言うとおりになると無意識のうちに思っているからでしょう。しかし、それは結果として子どもの成長を阻むことになりがちです。親の影響力が強い今だからこそ、子どもの何を認め、何をほめるべきかに心を砕きたいものです。そうすれば、親の望みは何かを子ども自身が考え、率先して実行に移すようになるでしょう。勉強も自分から取り組めば、自ずとその面白さにも気づくようになります。以下は、このことを前提にした提案です。当たり前のことばかりですが、意識して実行に移せば必ず効果があります。
① 子どもを注意深く見守り、よい行為を指摘してほめる。
「子どもはほめて伸ばせ」とよく言われます。では、なぜほめると子どもは伸びるのでしょうか。おそらく「自分は親の期待通りのことができるのだ」という自己肯定の気持ちや、「自分は親に愛されているのだ」という安心の気持ちを得ることで、ものごとを前向きにとらえられるようになるからでしょう。
ただし、重要なのは何をどうほめるかです。たとえば、子どもに何事も率先してやる自律性を期待するなら、それを口に出して求めるより、子どもの行為をよく観察しましょう。わが子の自発的行動を目撃したら、その瞬間を見逃さず大げさなくらいにほめたり喜んだりしてやるのです。この経験を通して、子どもは親の期待が何かを悟ります。勉強への向き合いかたも、自然と自発性を帯びてくるでしょう。
② 親子一緒の楽しい会話の時間を設ける。
親子一緒に過ごす団欒のときには、なるべく楽しい話に花を咲かせ、子どもの気持ちを活性化させてやりたいものです。できるなら、子どもが興味や関心をもっている話題をもちかけ、「ふーん、よく知っているね」などと返してやると、子どもはさらにいろいろと調べて学ぶようになるでしょう。会話は、基本的に双方向でなければ意味がありません。親が子どもの言いたいことにもしっかりと耳を傾けてくれると、子どもはうれしいものです。そして、自分自身も聞く耳をもつようになります。
親子で楽しい時間を共有すると、子どもは心の安定を得ることができます。すると、自然と親は自分にどうすることを期待しているのか、自分は何をすべきなのかに思いを馳せるようになります。「おかあさん、今から予定していたプリント課題をやるからね!」と笑顔で机に向かうことでしょう。親子で過ごす楽しい時間は、子どもを前向きな行動に駆り立てるうえで大きな役割を果たしてくれるんですね。親子団欒の時間を、これまでより双方向なものになるよう努めてみませんか?
③ 子どものことは子ども自身に決めさせる。
子どもにまつわる大切な決め事は、基本的に子どもに決めさせるようにしたいものです。そうすれば、「これは、自分で決めたのだ」という自覚が芽生えますから、実行力も高まります。よいことは誰しも自分からやったのだと思いたいものですが、親の配慮あってのこととは言え、実際に自分が決めて実行に移したのですから気持ちがよいし自信につながります。そうして、勉強にも積極性や実行力が伴うようになり、意欲的な取り組みが浸透するようになっていくでしょう。
むろん、子どもの意思決定をすべて受け入れるわけにはいきません。ときには間違った選択をしているときもあります。そういうときは、誤りをストレートに指摘して修正させるのではなく、子どもの考えと親の考えをすり合わせ、一緒に妥当なやりかたを見出すようにするとよいでしょう。そうすれば、子どもも意地を張らず、納得してやるべきことに取り組むことができます。
④ 親子一緒に調べ学習を楽しむ。
おもしろそうなことがあったら、「一緒に調べてみようか」と親からもちかけるのも効果的です。図鑑やインターネット検索、さらには実地探索などを通して、知りたいことを自分で調べて解明することの楽しさを味わう体験をさせてやりましょう。そうして、新しい知識をアクティブな活動で得る楽しさを体感させるのです。こういう経験が、勉強の楽しさを知ることにもつながります。
近年はユーチューブ(YouTube)が小学生にも浸透していますが、この方法は踏み込んだアクティブな探索活動と比較すると受け身であることが気になります。動画に頼るだけでなく、自らの積極的な活動を通して新たな知見を得ることも体験させてやりたいものです。自分の頭を使い、工夫を凝らしながら知りたいことを自分の知識にしていくほうが楽しいし、得るものも多いことでしょう。
⑤ 親が成績主義にならない
中学受験をめざした勉強をしていると、避けられないのが塾の成績とのにらめっこです。科目や単元、分野ごとに成績を分析し、足りないところの穴埋めをしなければなりません。ただし、親が成績に対して意識過剰になると、子どもはよい成績を取ることが第一義となり、勉強の楽しさを味わうどころではなくなってしまいます。それは、長い目で見ると子どもの伸びしろを狭めることになります。
中学受験準備のための勉強には、子どもの知的興味を刺激する面白い課題が無数にあります。しかも、中学高校課程での勉強の基礎となるものですから、受験のためにしかたなくやるのはもったいないことです。私自身は、中学受験を志す子どもたちには、勉強を楽しむぐらいの余裕をもって取り組んでほしいと願っています。それを実践した子どもは、成績に過敏な状態で勉強した子どもよりも概して受験結果も良好です。さらには、中学高校での学業成績も優秀です。学習に能動性があり、自律性の高い勉強ができるからでしょう。
親はわが子の受験合格に早く見通しを立てたいので、どうしても大人主導で勉強をやらせたくなります。それは子どもを思うゆえのことで、ある程度しかたのないことですが、子どもがどういう気持ちで勉強に取り組むかということの重要性も決して忘れるべきではありません。同じ勉強をするなら、その価値や楽しい部分に触れさせるとともに、自分から学ぶ自律性を育ててやりたいものです。そのほうが子どもの先々の人生にとってもプラスになるのは間違いありません。

