ミスをするのは頭が悪いから? それとも…

 前回は、テストでミスをした原因を子どもに振り返らせる必要性について触れました。その原稿を書いた直後、たまたま保護者から子どものミスについての相談がありました。実際のところ、子どもはテストでたくさんのミスをしがちで、それが得点に大きく影響しています。そこで今回は、なぜミスは生じるのかを考察するとともに、それをどう防ぐかをともに考えてみようと思います。

 ミスはテストにつきものです。特に小学生は勘違い、読み間違いが数多くあります。その原因を確かめずにつぎのテストを受けたのでは、同じことを繰り返すばかりです。なかには、100点満点のうち20点もミスで失ったケースもあります。私も指導現場に立っていたころ、「ほんとうにうちの子は慌て者で、テストで残念な失敗を繰り返しています。どうしたものでしょうか」といったおかあさんの相談をしばしば受けたものです。このような現実を掌握せず、成績だけでわが子には「力がないのでは」と思い始めている保護者はおられませんか? 今のうちにお子さんの学びの状態を把握するとともに、「どこをどう間違ったのか」を親子一緒に検証しておきたいですね。

 ところで、ミスをするのは能力がないからなのでしょうか。テスト成績に基づく序列という観点に立てば、たとえ原因が勘違いであっても能力的に劣るとみなされかねません。しかしながら、能力と得点は別物です。心のもちようしだいで失った点は取り返すことができるのです。

 そもそもミスの原因は、ものごとをすばやく判断しようとする脳の習性によるものです。食うか食われるかの太古の昔、遠くに目に映ったものが敵か獲物かを瞬時に見極めなければ生き残れませんでした。そこで脳は、視覚でとらえたものの正体を既知の事象に照らし合わせて迅速に峻別するようになったのでしょう。しかし、社会が複雑化した今日においてはこうした脳の習性が仇となり、見間違いや判断ミスをする機会が増えています。特に、先入観や思い込みがミスの原因になりがちだということも肝に銘じておきたいですね。小学生は日常的な言葉の使用に慣れてきた半面、まだ言葉の遣い手として未熟な段階にあるため、言葉の誤認や誤用がつきものなのだと心得ましょう。

 そういえば、こんななぞなぞが話題になったことがあります。「池に向かって小石を投げました。石は沈んだりもぐったり、沈んだりもぐったりしました。なぜでしょうか」これに対し、多くの人は「沈んだり」と聞いた瞬間につぎは「浮かんだり」という言葉が続くと想像し、石が水面を上下しながら滑走する様子をイメージしてその原理を説明しようとします。ところが、小さな子どもはこのなぞなぞに仕掛けられたトリックに引っかかりません。「沈んだり」と聞けば顎を下げ、「もぐったり」と聞けば、再び顎を下げて反応します。誤答した人たちは、なまじ身につけていた常識が災いしたのですね。このことからもわかりますが、うっかりミスは既存の知識をもとに物事を効率的に判断しようとする脳の働きがもたらすものなのです。言葉の一つひとつに注意を向けていれば、こういう間違いは生じません。

 もう一つ。算数の短い文章題を例に、誤答を防ぐための方法を考えてみましょう。文章を読んで理解するにあたっては、「言語コード」と「イメージコード」を組み合わせる脳内作業が必要です。言葉だけでは正確な状況理解ができません。著述内容をもとにして心的イメージを描く(具体的な場面を絵のように思い描く)必要があります。著述内容が具体的であればさほど苦労は要りませんが、テスト問題などではイメージ形成をわざと困難な状況にして出題されることが多々あります。より注意深く冷静に読み取る姿勢が欠かせません。

 つぎの問題は4年生の初めのころに取り組むごく簡単な練習用の課題です。問題を読んでなんなく答えるお子さんも多いことでしょう。ですが、図と結び付けて答えを引き出すよう学習塾では指導しています。そのほうが具体的イメージを描けるのでミスが生じないし、図を用いて考える手法に慣れておくと、後々取り組み課題が難しくなった段階で効力を発揮するからです。

 最後にもう一つ。日本語の構文では、最後まで読まないと(聞かないと)何を伝えたいのかがわかり(定まり)ません。英語では、まず主語を述べ、つぎに「~する」「~しない」などの述語がきます。ですから、肯定か否定かが瞬時に判断できます。しかし、日本語では、文末になってやっと肯定か否定かが明らかになるケースがしばしばあります。したがって、注意深く最後まで読まないと(聞かないと)とらえ違いをしがちです。それが原因でミスをすることも多々あるでしょう。

 最後にまとめをしておきましょう。ミスの原因となる要素を大雑把に列挙してみました。
・何につけ経験の浅い年齢段階では、読み間違いや勘違いをしがちである。
・人間は既有の知識をもとに、対象が何かをいち早く峻別しようとする習性をもつ。
・人間は常識が身につくにつれ、最後まで聞かずに判断してしまう。
・日本語の文は、末尾で意味が逆転することがある。

 テストの点数や順位だけで能力のあるなしを判断するのは早計というものです。学力形成は長い年月にわたる継続的な営みです。ミスがどうして生じるかを踏まえて対策をすれば、誰でも成績はその分上がりますし、その結果自信もわいてきます。「人間はミスを犯す動物なのだ」という認識の下、ミスの予防に努めましょう。1年間意識して心がければ、成績は違ったものになりますよ。