「読み」と「イメージング」を連動させるものは何?
これまで3回にわたり、読んでも理解できない子ども、勉強が空回りする子どもが増えていることを話題に取りあげ、その原因と対策について考えてみました。今回はまとめとして、問題の核心に焦点を当てたうえで、親として配慮すべきは何かをお伝えしようと思います。
みなさんは「読書体力」という言葉を見聞きされたことはありませんか? 読書体力とは、長い文章を集中して一気に読み通すための体力といった意味合いの言葉のようです。近年、この読書体力に問題を抱えている子どもが増えていると言われます。読書体力が足りない子どもは、読むことに集中して取り組める時間が短く、読みの空回り現象に陥ってしまいます。だから読んでもわからないし、勉強しても知識を自己に取り込むことができず、記憶にも残らないのです。
このことは、前回お伝えしたワーキングメモリの働きによって詳しく説明することができます。読みの作業を支えているのは脳の短期記憶を司るワーキングメモリです。文字の連なりから言葉を見つけ出し、言葉と言葉のつながりをたどっていきながら著述内容を理解していく一連の作業はワーキングメモリの働きによるものです。その際、過去の体験や読書などで蓄えた知識も文意を解釈するために一時的に引き出されますが、これもワーキングメモリの働きによるものです。
問題は、このワーキングメモリの容量が大変小さい点にあります。読みのスキルが足りない子どもは、読む作業にメモリの大半を消費してしまいます。そのため、言葉の意味理解、著述されている場面のイメージングに必要なメモリが枯渇してしまうのです。だから読んでも理解につながらない、記憶に残らないという事態を招いているのです。このことは「読書体力の不足」という言葉にそのまま置き換えることができるでしょう。

読書体力の不足は、どうしたら克服できるのでしょうか。人間の脳はコンピュータのようにメモリを増設できません。しかしながら、メモリ機能を強化することはできるでしょう。それによって、読みの作業に費やすメモリを最小限に留めることは可能です。そうすれば、著述内容の理解やイメージングに必要なメモリを確保できるでしょう。
問題はそのための具体的な方法です。ここで思い出していただきたいのは、スムーズで正確な読みは、読みの体験を通じて促進されるということです。前回、往年の名推理小説家であるエドガー・アラン・ポーが、「読書に熱心な者は、その読書能力を幾何学的に伸ばしていく」という言葉を遺していることをご紹介しました。また、「文章を読み易くするのと、たくさん本を読むのと、どちらが読みの理解に役立つか」について、大学の研究者が「たくさん読むことのほうがはるかに読みの理解を深める効果がある」といった趣旨のことを述べていることをご紹介しました。つまり、読書能力は読書によってこそ最大限に伸ばせるのです。

右はつい最近、進学塾で学ぶ小学生の保護者に伺って集めた資料です(回答数127)。子どもが読書を好む理由、読書に熱心な理由について答えていただきました。これをお読みになれば、子どもに対してどうアプローチすれば読書に興味をもち、読書に勤しむ体験を与えてやれるかがおわかりいただけるのではないでしょうか。
逆に、なぜ子どもが読書をしたがらないのか、嫌がるのかについても回答いただいています。「塾が忙しくて時間がないから」「マンガのほうが好きだから」「テレビのほうを優先」「動画のほうを好むから」「ゲームのほうが楽しいから」などが本を読まない理由のようです(いずれも多数)。これらの回答を見ると、本を読む楽しさを知らず、短時間で簡便に楽しさを味わえるものに目が向けられている現状が垣間見えてきます。そうであれば、親のサポートしだいで子どもを読書へといざなえるのではないでしょうか。
まずは子どもの興味に沿ったジャンルの本から出発する方法もあるでしょう。上の資料にもあるように、親と一緒の読書タイムを設けるのもよいでしょう(低~中学年家庭にお勧めです)。男の子には、伝記やノンフィクション、冒険もの、図鑑などが読書の入り口としてよいかもしれません。読書に充てる時間ですが、15分~30分が全回答数全体の約40%、30分~1時間が約31%でした。受験塾に通っている4~5年生の標準的な読書時間として参考にしていただけるでしょう。
もう一つ。読書を苦痛に感じている子どもの多くは、音韻の符号化(前回までのコラム記事を参照ください)が不徹底で、読みの作業が滑らかにできない状態にあります。対策は、音韻の符号化の鍛錬、すなわち音読の練習からやり直すことを強くお勧めします。前回もお伝えしましたが、毎日10分~15分でもよいので音読を継続させたいですね。
音読には声に出して読もうという意志が必要です(これが嫌われる理由でもありますが)。だからこそ、続ければ読みに対する積極性も生まれてきます。大きな声で読めば、話す言葉にも反映され、さらには行動面の積極性につながります。また、声に出して読むと黙読よりも記憶によく残ります。音声の言葉のほうが脳の言語理解中枢とのアクセスがよく、長期記憶への転送もスムーズに行われるからです。以前、ヨーロッパの言語の同時通訳者として有名なかたに、音読に関する質問をしたことがありますが、その際に「欧米の要人との外交の場で通訳をする際には、事前に新聞記事や資料を声に出して読みます。そのほうがよく頭に残るからです」とお返事いただいたことを思い出します。声に出したほうが記憶に残りやすいのは、大人も子どもも同じなのです。
音読が滑らかにできるようになれば、自然と本を読むことへの興味・関心も増していきます。読むことを毎日の日課にし、読む作業に慣れ、読みの作業が自動化されるレベルにまで引き上げれば、読書体力の不足は解消されます。読んだら理解できるし、読むことが楽しくなり、さらなる読書意欲が湧いてくることでしょう。文部科学省の調査によると、教科の学力は読書量に比例しています。読書量が多い子どもほど、教科の成績もよいのです。読みの体力不足を克服することは知識欲の向上にもつながります。勉強のはかどりもよくなります。これは当然のことではないでしょうか。
以上、長々と「読んでもわからない子どもの増加」という問題を取り上げ、その原因と対策について考えてきましたが、多少なりとも参考になったでしょうか。読むことは一生の営みです。それが快適にできるようになれば、子どもの人生の歩みも変わっていきます。今のうちに読むことが生活の一部として浸透するよう、お子さんをサポートしてあげてください。

