中学受験は、その過程にこそ意義がある!

 2月も中旬を迎え、年明け早々の1月から全国各地で行われていた中学入試もあらかた終わりました。受験生のご家庭におかれては、新たな年の始まりを祝う余裕もないまま、ひたすら目の前に迫る入試への備えに注力されてきたことでしょう。入試を終えた今、親子共々やっと一息ついておられるのではないでしょうか。

 長い準備期間に投入する時間とエネルギーは半端ではありません。それに比して、入試本番のあっけないこと。それはまさに瞬きの時間にたとえられるほどです。そのわずかな時間にもてる力を集約させ、最善の結果を引き出せるかどうかで結果は決まります。成長途上の小学生にとって、それはいささか酷だと思わずにはいられません。厳しい受験生活を乗り越え、見事志望校合格を得られたお子さんと保護者の方々には心よりお祝い申し上げます。

 言うまでもありませんが、入試とは入学者を選抜するための試験です。受験生の全てを受け入れてくれるわけではありません。なかには不本意な結果に肩を落とし、親子共々いまだにそれを現実として受け入れられない心理状態のご家庭もあるかもしれません。しかし、肝に銘じていただきたいのは人間として完成の域に程遠い年齢の子どもの受験なのだということです。いわゆる奥手のタイプと早熟タイプの子どもとでは、同じ勉強をしても対応力や吸収力に随分な差があります。また、メンタルに課題を抱えたお子さんは、本番で極度の緊張に見舞われて我を忘れ、実力が全く発揮できない事態が生じるケースもあるでしょう。入試結果を能力判定のように受け止めてはなりません。

 受験生の子どもたちはまだ12歳。これからいくらでも取り返しは可能です。そのことを踏まえたうえで、次なる展望をどう切り開いていくかを考えてこそ、中学受験での努力や苦労が報われるのではないでしょうか。そこで目を向けていただきたいのは、中学受験への挑戦の過程で何を得たか、問題点は何だったかということです。ぜひ一度親子で成果を検証するとともに、反省点も確認していただきたいですね。それらをつまびらかにして中学進学後の学習活動に臨んだなら、先々の人生での飛躍は大いに期待できるでしょう。まだ幼さの残る年齢期の受験は、こうした観点に立って振り返ることで、他の受験では得られない成果を得ることができるのだということにぜひ気づいていただきたいと存じます。

 私は約40年もの長きにわたって中学受験の世界に関わってきました。そして、おびただしい数の受験生と保護者を見守ってきました。この経験から明確に言える中学受験のメリットがあります。そして、このメリットは受験での志望校合格よりも価値が高いということを確信しています。今現在中学受験をするかどうか検討しておられる保護者がこの拙文をお読みでしたら、ぜひこれからお伝えする中学受験の価値について心に留めていただきたく思います。そして、「なるほど」と思われたなら、ぜひお子さんと話し合いのうえ中学受験にチャレンジしていただきたいですね。



中学受験がもたらす真の価値


1.学問適性の高い人間に成長することができる。
 中学受験準備に要する期間は、小学4、5年生から6年生にかけてのおよそ2~3年です。それはちょうど人間としての枠組みができあがる時期と重なります。このような時期に心血注いで勉強に打ち込んだなら、それが脳の発達に影響しないはずがありません。たとえば子どもが様々な情報を脳に入力し、何らかの知見を得よう、疑問を解決しようとする過程は、脳内で新たなシナプス結合を物凄い勢いで生み出します。まして2年、3年もお子さんが中学受験をめざして勉強に励んだなら、脳内の神経ネットワークには大変な変化が生じます。つまり、受験勉強はテストでの得点力強化という表面的な効果をもたらすだけではなく、知力の全体的な発達に大きく貢献するのです。中学受験をめざした勉強で投入した努力は子ども自身にフィードバックされ、極めて高い学問適性を築いてくれるに相違ありません。


2.行動の自主性や自己管理能力が養われる。
 受験勉強には、小学校生活との両立という前提があります。当然、限られた時間を有効に使うため、毎日のスケジュールを立て、それを時間枠のなかで実行に移したり、勉強の進捗状況に合わせて適宜調整したりする必要が生じます。無論、小学生の受験勉強には大人のサポートが必須です。しかし、受験生活が軌道に乗ってくるにつれ、しだいに子どもはやるべき勉強を自覚し、「いつ、何を、どこまでやっておくべきか」をある程度自分で考えてやり遂げるようになっていきます。こうして培った勉強の自主性や自己管理能力は、中学進学後も大いに生かされることになります。これは、中学受験をめざしたことの成果として大いに着目すべきことではないでしょうか。


3.親子の深い信頼関係が築ける。
 小学生は、まだ自分のとるべき行動を適切に判断できません。したがって、上述のように保護者の関わりが不可欠となります。実際、子どもは親のサポートなしにうまく勉強をやりこなすことはできません。しかしそのいっぽう、中学受験後にはすぐさま子どもには思春期が訪れます。その時期が来ると親の影響力は一気に後退します。このことを踏まえると、親は命令や指示でわが子に勉強させるのではなく、できるだけわが子が自分でやれそうなことは信頼して任せるべきでしょう。それが受験での好結果に寄与するだけでなく、子どもの自立にもつながります。まだ心もとない面の多い子どもの勉強を見守るには忍耐が必要ですが、うまくやり遂げたなら一生継続できる親子の深い信頼関係が築けることでしょう。


4.子ども自身の長所や短所が明確になる。
 中学受験をめざし、勉強に打ち込む過程で子どもは自分がどんな方面に向いているのか、好きなのかを感じ取るようになります。それが将来の進路選択にも少なからぬ影響を及ぼします。また、努力しても突破できない壁に突き当たり、自信を失うような局面にも出食わすことでしょう。この経験は高い目標をもったからこそできることです。それをもとに、自分という人間を客観的に評価し、足りない点をどう埋め合わせるかということに目を向けたなら、さらなる能力開化の道が拓けるのではないでしょうか。一生懸命打ち込んだ結果は正直な現実を映し出してくれます。それを上手に生かしたなら、受験の結果に関わらず中学受験をめざした勉強をしたことが後々まで活かされることでしょう。


 ほかにも中学受験のもたらす恩恵はいろいろありますが、特に強調したい4つを取り上げてみました。これらはいずれも知性主義を根幹とする現代社会を生き抜くうえで求められる大切な能力や姿勢です。受験には親子ともども時間やエネルギーの投入が必要で、しかも相当な費用がかかります。しかし、中学受験でどんな成果が見込めるかをよく理解し、お子さんの成長につながる受験を心がけたなら、先々の人生の歩みに思いもしない展望が開けてきます。そのことを実際に体現するような親子を私は多数見てきました。お子さんのこれからの人生展望について考えておられる保護者の方々には、ぜひそのことを知っていただき、中学受験への挑戦を検討していただくことをお勧めするしだいです。

 なお、今回は前回の続きを書くつもりでしたが、中学受験シーズンが終わり、学習塾の講座が次の年度に切り替わる時期だということに鑑み、予定を変更いたしました。今回お伝えする予定だった話題は、いずれ別の機会に取り上げようと思います。ご了承ください。