子どもの健全な成長を促す叱りかた
親なら誰でも「わが子がまっとうな人間に育ちますように!」と強く願っています。それを叶えるうえで重要なカギを握るのが、「わが子をどうほめるか、どう叱るか」ということでしょう。この二つは、子どもを健全な方向へ導くうえで欠かせないからです。どなたもそれをよくわかっておられますが、いざとなるとタイミングを失することが多く、もどかしい思いをされているかたが少なくありません。また、ほめるにせよ、叱るにせよ、場当たり的な単発の行為に留まると効果を発揮しません。一貫した方針に基づいた働きかけをしてこそ子どもによい影響を及ぼします。特に難しいのは「いかに叱るか」でしょう。そこで今回は、「どう叱るべきか」にスポットを当ててお伝えしてみようと思います。
子どもの勉強の面倒を見ているとき、おかあさんがたは我知らず感情を高ぶらせている自分に気づき、動揺した経験がおありだと思います。普段は意識していなくても、親には子どもを自分の思い通りにコントロールしたいという心理が潜在的にあり、子どもが期待に反した反応を示すと怒りに似た感情が沸き上がってくるものです。他人の子ならそうはなりません、わが子だから、わが子を愛するからこそのことなんですね。では、どうしたら感情をうまくコントロールし、わが子の素直な反省を引き出せるでしょうか。今回はそのことを軸に据え、効果的な叱りかたの原則を考察してまいろうと思います。
① 叱るべきでないことに苛立ち、叱っていませんか?(親の振り返り)
つぎのような子どもの状況は、叱る理由としては適当ではありません。
・呑み込みが悪い(理解力が足りないように見える)
・やる気がない、意欲が足りない
・やたらと時間がかかる、ペースが遅い
・集中力が足りない、すぐ注意が他のことに向かってしまう
子どもにも性格的な特徴があったり、何らかの事情で望ましくない行動様式が染みついたりしていることがあり、その結果として勉強に取り組む姿勢に問題が生じていることが多々あります。親の養育態度に起因することもあります。上例のような子どもの状況は、叱ってすぐに改善できるものではありません。当面の課題として受け止め、日々の生活や学習のサポートを通して辛抱強く対処していく必要があります。叱るのではなく、子どもの内面や取り組み姿勢から少しずつ変えていくべき問題であり、焦っても解決できないことだと認識すべきです。「忍耐が肝心!」と肝に命じましょう。
② 「叱るのは子どものために必要なことだ」と認識しましょう。
叱るのをためらったり、意図的に回避したりするおかあさんがおられます。よくない点があるのに、それを放置されたまま育った子どもは不幸というしかありません。大人になり、社会に出てからそのような子育てのつけを本人が払わされることになります。西欧には、「子どもには叱られる権利があり、叱るのは親としての義務だ」という考えがあります。「子どもの権利」という表現は、親に叱られることが子どもの成長にとっていかに重要かを教えてくれますね。成長の過程で子どもは様々な逸脱行為をしてしまうものです。それを見過ごさず、わが子を叱って正すことは絶対に必要であり、避けてはならないことです。ただし、大げさに構える必要はありません。親の考えを丁寧に伝え、子どもに自分の行為を振り返らせればいいのです。
③ 叱るときに慎むべき言葉があります。それは絶対に守りましょう。
叱るときに口にすべきでない言葉があります。それは、子どもの人格や能力を否定する言葉です。「あなたって、バカじゃない!?」「こんなこともできないの?力がないんだね」などの言いかたは、子どもの自信ややる気を根底から奪ってしまいます。それだけでなく、親への尊敬心を台無しにし、反感を抱かせてしまいます。否定されるべきは子どもの行為であり、子どもの人格ではありません。「あなたはOK。だけど、あなたの行為はNOT OKだよ」という姿勢で臨みましょう。それでこそ、子どもは親を尊敬し、素直に親の言うことに耳を傾けます。子どもが親の愛情を疑うような叱りかたをするのは、子どもの将来という観点からも、親子の良好な関係維持という観点からも絶対に避けたいものです。
④ 男の子と女の子の特性に応じた叱りかたを心がけましょう。
ご存知だと思いますが、同じように叱っても、男の子と女の子では違った受け止めかたや反応をするものです。たとえば、男子には少々きつい言いかたをしたほうが反省の気持ちを引き出しやすいという傾向があります。ただし、スパッと叱ったら、早めに切り上げましょう。そして、あとは何もなかったかのように明るくふるまうことです。女子には、厳しい口調は禁物です。女の子の気持ちに寄り添い、うまくいっていない状況について一緒に振り返り、明るく励ますようなスタンスが望ましいでしょう。学習塾での指導においても、この男女の違いをよくわかっている担当者は人気があり、指導の成果も得やすいことが知られています。
⑤ 「子どものやる気の源は親なのだ!」という自覚をもちましょう。
子どものやる気を左右する最も重要なものは何でしょうか。多くのかたは、やり遂げたことへの成就感、自己向上心、達成したい目標があることなどを連想されることでしょう。それは間違いではありません。しかし、小学生の子どもにはもっと重要な要素となるものがあります。それは親の評価です。子どもには、常に「親に認めてもらいたい」「親の期待に沿った人間になりたい」という強い願望があります。児童期までの子どもにとって、親の存在は絶対的なのです。子どもの人格を尊重して一人前に扱いながらも、叱るべきときはためらわずに叱る(親の気持ちを伝える)べきです。そして、ほめるべきときは最大限にほめる。これが子どもにとって親がいることの幸せであり、やる気に火が灯るのです。
⑥ おかあさんが叱ったあと、おとうさんのフォローがあると効果的です。
おかあさんは生活面で子どもとの接触時間が長いため、叱るときに子どもと適切な距離を保つことができず、感情過多に陥りがちです。特に、子どもが何度も同じことを繰り返すとイライラが募り、冷静さを失ってしまうことが多々あります。おとうさんには、そういうおかあさんをフォローする役割をお願いしたいですね。子どもに、「どうしたんだい?」「何を叱られたのかな?」「どこがいけないと思う?」など、客観的な視点に立って振り返りを促せば、子どもも落ち着きを取り戻します。子どもがよい反応を示したら、「よくわかってくれたね。おかあさんもそれを望んでいたんだと思うよ。これからがんばればいいんだよ!」と応じれば子どもも面目を失わずに済み、問題はうまく収まることでしょう。
いかがでしたか?叱るという行為は、子育てのなかで最も難しいものの一つです。今回お伝えしたことだけでは十分ではありませんが、多少なりとも参考になったならうれしいです。叱るのは勇気のいることではありますが、これもわが子をまっとうに育てるためには避けて通れないことです。親が強い影響力をもてるのは児童期いっぱいまでです。後悔を残さないようにしていただきたいですね。