中学受験を軸とした学力開花の流れ

 前回は、中学受験のもたらす意義についてお伝えしました。無論、わが子に中学受験をさせるのは中高一貫校の恵まれた教育環境に保護者が目を向けた結果に留まらず、さらに先の大学への進学、社会への参入までを見通したうえでのことでしょう。つまり、わが子が高い知性を備えた人間に成長し、より善い人生を歩んでほしいという願いが根底にあるのだと思います。このことを大前提とし、お子さんの学力状態や性格などを勘案して志望校を絞り込み、適切な受験対策を実践すれば中学受験で後悔するような事態にはなりません。大切なのは、目先の入試結果のみに振り回されないことです。

 このことを踏まえ、今回は児童期前半、児童期後半、中学高校の6年間という三つのスパンに分け、中学受験を経た望ましい学力形成のステップがどのようなものかを共に考えてみようと思います。なお、学力はまっとうな人間性とのバランスが取れていてこそ意味をなすものだと思います。これからお伝えする事柄は、この点を踏まえたものだということを予めご了承ください。児童期を前半と後半に分けたのは、相応の理由あってのことです。読み進めていただければおわかりいただけるでしょう。もしも興味をおもちくださったなら、最後まで目を通していただきたいですね。よろしくお願いいたします。

 以下は、子どもの小学校入学から中学受験を経て、高いレベルの学力へと成長していくまで(中学高校生時代まで)の流れを簡単にまとめたものです。

 子どもが系統立てた学習活動を正式に始めるのは6歳になる小学校への入学からです。そして、中学受験をする12歳頃(すなわち約6年のち)には文字や数字という記号を介して情報を得たり、他者とコミュニケーションをはかったりすることがかなり達者にできるようになります。さらには中学高校生ともなると、どの科目も相当に高次元の内容を学ぶ段階へとグレードアップしていきます。上表に記している諸事項は、この流れをうまく築いていくうえで必須と思われる要件をリストアップし、簡単にまとめてみたものです。児童期と中学高校生時代との間に中学受験を挟むことには大いに意義があります。というのも中学受験準備学習は、素性のよい頭脳を形成するうえにおいても大いに役立ちます。中学受験での結果に関わらず、中等教育の期間に高次元の学業を修めていくうえで必要な態勢を整えることができますから、まさに二兎を追える格好の体験になるのです。

 ただし、児童期において子どもの生活が勉強面に偏るのは避けるべきです。私は中学受験を視野に入れておられるご家庭(おもに小学校低~中学年児童をもつ保護者)に、今からどのようなステップを踏んで備えをしていくべきかについてお話しする機会がしばしばあります。その際に必ずお伝えしていることの一つが、「小学校時代は子どもにとって人生の原風景を築く時期であり、親にとっては子育ての仕上げをする段階にあります。したがって、それらを十分に踏まえたうえで受験準備の学習をしていくことが大切です」ということです。目先の受験のことにばかり注力すると、たとえ受験での合格を得られても、先々悩み多き人生を送ったり、社会適応に苦しんだりすることになりかねません。上表に記した内容も、そういった要素を踏まえたものになっています。

 まず「学力開化の土台形成」と題した小学校低学年期ですが、この時期の学習は先々の学習活動の土台となるもので、この時期を逃すと後付けが難しいものがかなりあります。それらは先々の高度な学習領域に進んだ段階で成果をあげるうえでの大前提となるものです。たとえば、算数の基礎計算技能習得、理数系で必須とされるセンスの形成につながる体験(これは、9歳前後までの遊びや学習で磨かれます)、数を現実場面でイメージする力の醸成、読み書きの基本の習得、学習習慣の形成、勉強に対するプラスのイメージを築くことなど、実に多岐にわたります。

 これらをバランスよく身につけた子どもは、中学受験対策の勉強にもスムーズに対応することができます。中学受験に備えた勉強は受験終了後の中等教育期間における勉学の基礎となるものですから、それがスムーズにやれたなら、後々までも勉強に望ましい流れを形成することができるでしょう。つまり、学業で成功するための鉄則は、常に前段階の学習がしっかりやりこなせていること、学習に向かう姿勢を整えるうえで必要な手続きをしっかりと踏んでいることなのです。くれぐれも早くから「受験は競争だ」と思い込み、子どもを無理やり難しい勉強に追い立てないよう保護者にはお願いしたいですね。基礎学力の定着と、学習の態勢づくりというバックグラウンドができあがった子どもは、本格的な中学受験対策の勉強に至ったときも決して音を上げることはありません。勉強の大切さをよくわかっているし、自己向上心も備わっています。厳しい勉強を大人が押し付けるまでもなく、子ども自らが自分に課してがんばるようになるのです。ここまでをうまく乗り切ったなら、大学受験への見通しも大いに明るいものになること請け合いでしょう。

 次回は、学力形成の大本となる児童期前半の学習と生活にスポットを当ててお伝えしようと思います。4~5年生になるお子さんをおもちの保護者におかれても、現状を点検するための資料として活用いただき、不十分な点をテコ入れするための参考にしていただけると思います。よろしければ目を通してみてください。