中学入試が近づいてからの保護者の留意事項

 今年も余すところ僅かになりました。みなさんにとって、2024年はどんな年だったでしょうか。長いコロナ禍で息苦しい生活を強いられるなか、食料や資源全般を輸入に頼るわが国は円安の影響を受け、国民の生活に関わる物品がじわじわと値上がりしています。このような状況がいつまで続くのでしょうか。来年こそは日本社会に明るい兆しが見えてくることを切に願うばかりです。

 さて、いよいよ中学入試本番が近づいてきました。お子さんが受験対策の勉強を始めてからこのかた、おとうさんおかあさんは大変なお骨折りをされたことでしょう。とりわけ、生活面の面倒も見ながら受験準備のサポートをされてきたおかあさんには、ひとことで言い表せないほどの苦労がおありだったと思います。まだ受験に向けた明確な目的意識や、やるべきことに向き合う強い意志が定まらぬ児童期の子どものことですから、親は見ているだけでももどかしくストレスが溜まります。自覚もやる気も不十分に見えるわが子を叱咤激励したり、自信を失いかけているわが子を優しく励ましたり、遊びたい盛りの子どもがやりたいことを我慢して勉強している様子を不憫に思ったり…。

 今日まで、おかあさんが投じてこられたエネルギーは並大抵ではありません。それは全てわが子の将来を慮ってのことであり、背負ってこられた苦労の一つひとつはかけがえのないものです。このことに鑑みると、お子さんが無事に入試の関門を突破された暁には、おかあさんこそいちばんに感謝され慰労されるべき存在だと思わずにはいられません。

 しかしながら、受験生活の山場はこれからです。お子さんが万全の体制で入試に臨めるよう、心残りのないサポートをお願いいたします。そこで、何はさておき保護者の方々にお伝えしたいことがあります。それは、お子さんのメンタルが揺らぎがちな入試直前だからこそ、これまで以上に泰然自若とした態度を貫き、お子さんが最後の仕上げに専念できる雰囲気づくりを心がけていただくことです。以下は、最後の詰めを迎えるにあたり、保護者、特におかあさんがたにお願いしたいサポートの心得を記したものです。参考にしていただければ幸いです。

これから入試まで保護者に留意していただきたいこと

① 入試結果を恐れずに立ち向かう勇気をわが子に!
 今までがんばってきたお子さんを、大いにほめてあげてください。受験をしない友達が楽しく過ごしているのを横目に、よくぞここまで辿りついたものです。完璧な準備プロセスを経て入試を迎える受験生など一人もいません。大切なのは今まで培った力を出し切ることです。「どんな結果になっても、私はあなたの味方だよ。安心してがんばっておいで!」と、温かく励ましてやりましょう。

② 入試に関するネガティブな発言を子どもにしない。
 親の心境を子どもは敏感に察知します。まして、「もっと~をしていたら」など、今更言わずもがなのネガティブな言葉を発すると、子どもは、「ぼくが(わたしが)受からないと思っているんだ」と、受けとってしまいます。とは言え、大袈裟に気遣う必要はありません。これまでの家庭の雰囲気を、さりげなく維持するのがいちばんでしょう。自然体で接してあげてください。

③ これまでのルーティンを壊さないように。
 入試へのカウントダウンが始まると、やるべきことが山のようにあることに初めて気づいたかのように焦り出す子どももいます。しかし、急に取り乱して生活上のルーティンを崩すと、勉強の成果が得られないばかりか、頭が正常に働かなくなるおそれがあります。これまでの生活ルーティンをなるべく変えないよう促し、「決めた時間のなかで精一杯の努力をすればいいんだよ」と励ましてやりましょう。

④ 規則正しい睡眠がパフォーマンス発揮に威力を発揮する。
 入試での実力発揮にあたって見逃せない重要な要素が睡眠です。睡眠の役割は、疲れをとったり健康体を維持したりすることだけではありません。心を安定させ、平常心を保つうえで重要な働きをするセロトニンと呼ばれるホルモンの分泌を促します。入試直前期や本番は緊張過多になりがちですが、それを食い止めるのが規則正しい睡眠です。夜更かしは逆効果を招くだけです。

⑤ ときどきは楽しい話題で子どもの気分転換を図ろう。
 ひたすら勉強に打ち込むよりも、適度に気分転換をはかったほうが成果は上がり、追い込みが利くものです。たとえば、お子さんに趣味や好きなものがあれば、それを話題にして「入試が終わったら~ができるね」「入試後には、家族で~をしよう(~へ行こう)」などと声をかけると、気分転換がはかれるし、気持ちを立て直すこともできるでしょう。家族の思いやりを感じ、お子さんもがんばりが利きます。

 何度も言いますが、人間形成途上の小学生の受験勉強は完璧なものにはなりません。反省点がどんなお子さんにもたくさん残るのが中学受験の宿命です。そのいっぽう、結果に関わらず、受験勉強で得た知識や技能、学びの姿勢は誰にも努力に応じて平等に与えられます。したがって、受かった者が勝ちで、受からなかったら全てが水の泡などと言うことはありません。もう一つ私が保護者の方々にお伝えしたいことがあります。中学受験が真に有意義な経験としてお子さんの脳裏に刻まれ、後々まで生かされるかどうかは、保護者がどのような励ましや応援のもとで入試に送り出すかにかかっています。「どんなときにも、おとうさんおかあさんが諦めることなく見守ってくれた」「精いっぱい自分の力を発揮すればいいんだよ、と笑顔で応援してくれた」――このようなサポートを得たお子さんは、以後の人生においても努力を怠らず、前向きに生きることを忘れません。

 お子さんが中学校へ進学すると、それを待っていたかのように思春期が訪れます。何事も親頼みだったわが子が大きく変わるのが中学生の3年間です。この段階をもって親の影響力は大きく後退していきます。それを踏まえるなら、中学受験を乗り越えるプロセスは、子育ての集大成としての意味も多分にあるのではないでしょうか。残されたお子さんとの中学受験までの日々を大切にしていただきたいですね。今、親として何をしてやるべきかを考え、やがて来るお子さんのひとり立ちに向けた確かなステップとなる中学受験を実現してください。

 

 

全てのご家庭にとって実り多い受験になりますように!