親子の会話の現状を振り返ってみましょう
今回は、引き続き家庭での親子間の会話についての話題です。前回は、家庭で親子が交わす会話には、大雑把に言って2種類あるということをお伝えしました。一つは、目の前に相手がいて、しかも親密な関係にあるからこそ成立する省略の多い短い言葉のやり取りです。もう一つは、第三者が聞いても何のことを伝えているのかが克明にわかる、丁寧な言葉のやり取りです。この二つは違った意味でとても大切なものですが、学校などの集団での学習の場では、後者の会話に慣れているかどうかが学習成果に大きな影響を及ぼすことを確認しました。
今回は、こうした点を踏まえながら家庭内の会話の現状を振り返っていただこうと思います。おたくでは、毎日どれぐらいお子さんとの会話時間を設けておられるでしょうか。発達途上にある児童期の子どもにとって、家庭で親子の会話がどれぐらいあるか、どんな会話をしているかは人間としての成長に深く関与します。たとえば、会話を通して磨かれるコミュニケーションスキルは、自分の気持ちを他者に正確に伝えるうえで重要な働きをしますし、他者から発せられる言葉を傾聴し、理解するうえでも欠かせません。それを磨くための場が、毎日の生活の舞台である家庭です。子どもは大人のように心の内を的確に言葉で伝えるまでに至っていませんから、親は語彙やコミュニケーションスキルの習得における重要な先生と言えるでしょう。だいいち、まどろっこしくて拙い会話しかできない子どもの相手を辛抱強く務められるのは、親、特におかあさんしかいません。そのことを踏まえて会話の相手をする必要があります。
まずは、以下の10項目のチェックリストに〇か△か×で答えてみてください。なお、同じ小学生でも低学年と高学年とでは会話の状態が大きく異なります。低学年児童の場合は、傾向的に当てはまっているかどうかを基準にし、やや甘めでお答えになって構いません。
なお、×と答えた設問にも1点と設定した理由ですが、親も子も相手を慮りながら会話をしているわけですから、ゼロという評価はないという考えに基づきます。
上記リストは何をチェックする目的で設定したものかお気づきでしょうか。学校や学習塾などの勉強の場でスムーズに成果をあげていけるような言葉遣い、すなわち第三者が聞いても何のことを伝えているのかが克明にわかる、丁寧な言葉遣いがどの程度身につきつつあるかを振り返っていただくためのものです。40点以上あれば言うことはありませんが、30点以上ならまずまず良好な状態と思ってください。30点未満の数値だったご家庭におかれては、△や×だった項目について対策を考えていただくとよいでしょう。
チェックリストの1~5は、お子さんのコミュニケーション能力や話すときや聞くときの姿勢の現状を振り返っていただくために設けたものです。いっぽうの6~10は、保護者がどれぐらいお子さんのコミュニケーション能力発達のために配慮しておられるかどうかを自己診断していただくためのチェックリストです。6~10のうち、6に○がついていない場合、7~10の項目も同様に評価が低くなるのは自然の成り行きでしょう。児童期のお子さんをおもちのご家庭においては、「家庭での親子の会話時間」の確保はお子さんのコミュニケーション能力の発達を促すうえで大前提であることをご理解いただきたいですね。もしも、十分でなかったと思われたら今すぐにでも対処していただきたいですね。
なお、親子間の会話は、中学受験のための勉強が始まってからも大切にすべきです。なぜかというと、勉強の成果は言葉の発達と密接にリンクしているからです。これは読書についても同じことが言えるでしょう。家庭内会話や読書は、受験勉強の開始後もますます重要性を帯びてくると考えるべきでしょう。親は毎日忙しく働いています。お子さんも学校や学習塾などで結構忙しいでしょう。ですが、親子の会話の時間を設けることを忘れないようにしていただきたいですね。
以下は、私がかつて勤務していた中学受験専門塾の4・5年生児童を対象にしたアンケートの結果です。家庭での会話の話題は何か、どんな話題があるとうれしくてやる気がわいてくるかについて調べたものです。多かった回答をリストアップしてみました。
これを見ると、特に特別な話題ではなく、日常生活に関わるありふれた話題が大半ですし、子どもたちが歓迎する話題はごく一般的な関心事のなかにあり、自分が親にほめられることがやる気につながることがわかりますね。子どもが喜ぶ話題なら話も盛り上がりますし、子どもも一生懸命話したり聞いたりすることでしょう。これを参考にして親子間の会話が密になるよう試みてはいかがでしょうか。
中学受験生をおもちのご家庭の場合、親が必要なときだけ子どもと話をし、あとはひたすら勉強させるほうが合格に近づけるとお考えのかたもおありかもしれません。保護者がそういった考えで子どもと接すると、どうしても勉強についての現状を確認し、指示や命令、小言や叱責をする時間に偏りがちです。上記資料でもわかるように、子どもは親との楽しい会話があってこそやる気を高め、がんばりのエネルギーを得ることができます。親からの一方的な伝達に偏った会話ではそれが期待できません。中学受験をめざしているからこそ、家庭での親子の会話は楽しく気持ちの弾むものであるべきだと思います。
今回の記事でお伝えしたことが、普段特に意識することなく送っている親子の会話生活を振り返ってみるきっかけになれば幸いです。