適切な睡眠が、学業成就にも健康増進にも寄与する!

 猛暑が続く今年の夏ですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか?夏休み中は、お子さんの生活も不規則になりがちですから、体調の管理には十分に配慮をしてあげてください。暑い夏を乗り越えるうえで、重要な働きをするのが睡眠です。睡眠は十分な時間を確保するのもさることながら、毎晩決めた時間に就寝するなど規則正しいリズムを保つことも健康維持に大きな作用を果たします。そこで今回は、睡眠の役割や取りかたについて共に考えてみたいと思います。

 2021年のOECD(経済協力開発機構)調査によると、日本人の平均睡眠時間(成人)は7時間22分で、加盟国平均の8時間28分と比べると1時間以上少ないことがわかりました。戦後の高度経済成長が始まる前までは、現在よりも1時間あまり睡眠時間が長く、眠りにつく時間もだいぶ早かったそうです。なぜ変わったのでしょうか。識者によると、平日の労働時間が長くなっていること、IT機器や携帯などの情報媒体が普及して生活に欠かせないものになり、夜遅くまで眠らずに強い視覚刺激を受ける生活が浸透していることなどが原因のようです。睡眠は十分な時間を必要とするだけでなく、その質も健康維持に影響します。本コラムはお子さんの家庭教育に関わる話題を主に取り上げていますが、適切な睡眠は保護者にとっても必要です。これをきっかけに保護者自身の問題としても受け止め、問題点があれば改善に努めていただければ幸いです。

 もっとも、「睡眠時間はどれぐらいが適当か」は、年齢によってかなり違うということをみなさんご存知だと思います。そこで、大まかな目安がどれぐらいかを調べてみました。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、世代別の適正な睡眠時間はつぎのように示されていました。

 これによると、成人の推奨睡眠時間は6時間以上となっていますが、みなさんはどれぐらいの睡眠時間を確保されていますか? 2018年の国民健康・栄養調査結果によると、1日の平均睡眠時間が6時間未満の人の割合は、男性は37.5%、女性は40.6%に及びます。これに該当している保護者はおられませんか? 睡眠は、単に疲労回復のためにあるのではありません。睡眠が不足すると、心身の働きのあらゆる領域に問題が生じます。情緒が安定しない、判断力が減退する、肥満や高血圧の原因になる、糖尿病や心疾患をもたらす、うつ病を患うなど、健全な生活を維持するうえで支障となる症状を引き起こしがちです。特にやむを得ない理由がない限り、1日最低6時間の睡眠時間は確保したいものですね。

 ここまでお伝えしたことを踏まえると、忙しい生活において効率のよい有効な睡眠をいかにして実現するかが大変重要だということがわかります。そのために知っておくべきは睡眠のメカニズムです。ご存知と思いますが、睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠という2種類の睡眠があります。両者は毎日の睡眠において交互に何回か繰り返されており、“睡眠周期”と言われています。眠りに入ると、まずレム睡眠から始まり、次にノンレム睡眠にスイッチします。1回の周期に要する時間は、大人で90分ほどだと言われています。子どもの成長にとって(成人の健康維持にとって)大切なのは、この睡眠周期を適切に繰り返すことです。



 ともあれ、まずレム睡眠とノンレム睡眠の違いを確認しておきましょう。レム睡眠という呼称は、英語のRapid Eye Movementsの綴りの頭をつなげたものです。眠っているときに閉じた瞼の下で眼球が頻繁に動いていることから名づけられたものです。レム睡眠のときは眠りが比較的浅い状態にあります。いっぽうのノンレム睡眠は、眼球の活発な動きがなく安らかな深い眠りの状態にあります。以下は、福岡教育大学名誉教授の永江誠司氏の著作からの引用ですが、2種類の睡眠の役割の違いがよくわかると思います。

 睡眠の最初の3時間の中に最も深い眠りが含まれています。いわゆる熟睡です。その後の睡眠では、浅い段階のノンレム睡眠とレム睡眠が繰り返されていきます。最初の深い眠り、すなわち深い段階のノンレム睡眠は、大脳の回復あるいは修復にとって大切なものであり、この時に成長ホルモンが分泌されます。したがって、入眠からの3時間は、子どもの成長にとってとくに大切な時間といえます。この時の睡眠が邪魔されないように気をつけなければなりません。

 これに対し、レム睡眠は大脳の情報の整理あるいは定着に大切だと考えられています。レム睡眠では、脳は覚醒に近い状態にあります。眠りのこの状態にあるとき、起きて活動していた折に学習された情報の整理整頓が行われるのです。睡眠中のノンレム睡眠とレム睡眠の占める割合は、子どもと成人では異なっており、発達的に子どものほうがレム睡眠の占める割合が大きいことがわかっています。新生児や乳児のレム睡眠の割合はほぼ50%ですが、大人になると、20~25%ぐらいになります。

 以下の図は、上記の引用文に基づいて私が作成したものです。睡眠のメカニズムと適切な睡眠のとりかたを考えるうえで参考にしていただければ幸いです。

 上記引用文によると、一晩の睡眠が6時間なら4度の睡眠周期、7時間半なら5度の睡眠周期が繰り返されることになります。そのうち、入眠後の3時間がとても重要であることに注目すべきでしょう。眠りについてからの二度の睡眠周期において熟睡することが子どもの成長にとっても健康にとっても欠かせないのですから。毎晩、穏やかな精神状態で眠りにつく習慣を身につけたいですね。また、ノンレム睡眠には主として1日の活動で生じた疲労を回復させる働きがあり、レム睡眠には学習や体験によって得た情報を整理整頓する役割を果たしていることも承知しておくべきでしょう。よい睡眠周期を継続することは、健康な毎日を送りながら充実した学習活動を実現し、望ましい成長を遂げるうえで必須のことです。これまでも睡眠には気を配っておられたでしょうが、これを機会により充実した睡眠をとるよう心がけていただきたいですね。

理にかなった睡眠生活を送り、お子さんの健やかな成長を実現しましょう!

※上記の引用文は、「子どもの脳を育てる教育」永江誠司/著 河出書房新社 によります。