夏休みこそ、わが子の読書習慣を定着させよう!

 言わずもがなですが、今年の夏も連日猛暑が続いています。日中の外出はほんとうに辛いですね。当然ながら、エアコンの効いた部屋で過ごす時間もおのずと増えることになります。せっかくですから、家の中にいる時間を有効に使う方法を考えてみましょう。

 具体的に何をするかについては、表題を見てすでにお気づきでしょう。読書は一生の友と言われますが、近年は活字に触れる度合いに随分個人差が生じているようです。たとえば、みなさんは大人ですから寸暇を惜しんで読書に没頭するような毎日を送るのは至難の業です。しかし、それでもかなりの読書量を維持している人もきっとおられると思います。逆に、歳を重ねていくうちに読書から縁遠くなっている人もおられるだろうと想像します。この違いはどうやって生まれるのでしょうか。おそらく、子どものころに読書に慣れ親しむ経験をどれだけしていたかが影響していると思います。読書から遠ざかってしまう人は、もともとあまり本を読む習慣が根付いていなかったのでしょう。みなさんはどう思われますか?

 ともあれ、読書は人間が心豊かな人生を実現するうえで、昔も今もかけがえのない存在です。これは、デジタル活字が情報入手の主流になったとしても、そう簡単に変わるものではないと思います。次の展開を予想し、ワクワクしながらページをめくるときの充実感は、デジタル媒体からは得られないものでしょう。できるなら、わが子が児童期のうちに読書の楽しさに触れ、充実した読書生活を送る経験を授けてやりたいものですね。なぜ親からの働きかけをお勧めするのかというと、子どもに読書が根付くにあたっては、親の働きかけが少なからぬ影響を及ぼすからです。読書心理学を専門に研究しておられる東京大学名誉教授の秋田喜代美先生は、子どもの読書活動にプラスの影響をもたらす親のありかたについて、つぎのような見解を示しておられます。

 上記①によると、まずは親が読書好きであることが肝要のようです。それが子どもの読書環境を良好なものにし、読書の自立を促すのですね。また②によると、子どもが読書によい感情をもつかどうかを左右するのは、親自身の読書活動や家の蔵書量よりも、親が子どもを図書館に連れて行ったり、読み聞かせをしたりするなど、直接子どもの読書に関わることだということがわかりました。このことだけでも、子どもに読書が根付くかどうかに、親の関わりが大きな影響を及ぼすことは明らかでしょう。

 本を読む楽しさを知らずに育つと読書の習慣が身につきません。したがって、本のよさもわからず、本の必要性も感じることがありません。このような状態のまま中学・高校生時代に至ると、この年齢期の子どもの心を惹きつける様々な楽しみが増えていきますから、ますます読書から遠ざかることになりがちです。中学・高校生対象の調査によると、本を読まない理由は「読みたい本がない」「読む時間がない」「何を読んだらよいかわからない」などが多かったそうですが、これは小学生も同じだと思います。

 前述の秋田先生は、こうした状況を踏まえて子どもを読書にいざなうための留意事項として、つぎのようなことをあげておられます(大ざっぱに要約しています)。

1.「易しい本は早めに卒業」と考えるべきでしょうか?
 多くの大人は、活字の多さ、話の長さ、知名度など、表面的な情報で難しさや易しさを判断する傾向があり、早めに難しい本を子どもにあてがおうとしがちです。しかし、一見易しい本だからこそ、深く味わって意味を考えることができるのではないでしょうか。読みの未熟な子どもにとって、読み易い本を読み通す経験を積むことは、本を読む楽しさを知り、「自分で読める」という有能感を育てることにもなります。簡単な本だからといって、“卒業”してよいかどうかを決めるべきは子ども自身です。子どもがその本を堪能したら、自然と卒業していきます。

2.他のメディアとのつながりも、読書へのいざないに貢献します。
 大人は、マンガやテレビを“勉強の敵”とみなしがちです。しかし、本も学びの道具の一つに過ぎません。また、視聴覚メディアのほうが子どもの知的発達に役立つ側面もあります。本だけでなく、他のメディアと連携して相互に有効利用すれば、それぞれのよさもわかるでしょう。
 近年は、アニメやテレビ番組、雑誌、マンガなど、他のメディアから本への興味に至るケースが増えています。アニメから本へ、本からアニメへ、インターネットから本へ、本からインターネットへと、これからの時代は様々なメディアと本とが双方向に関わりあうことも、子どもを本の世界へいざなう有力な方法となると考えられます。

3.多様なジャンルの本にふれる機会を子どもに与えましょう。
 一般に読書というと物語絵本や文学がイメージされがちで、大人が子どもに図書の紹介をする際にも、物語の図書と比べて自然科学・社会科学的な本には馴染みのない人が多いのが実態です。しかし、それらの本との出合いを橋渡しする大人に物語志向が強ければ、子どもが科学的な読み物に出合うきっかけを得られません。子どもの頃に読んだ一冊の本がきっかけで将来進む方向が決まるような事例がありますが、そういう本は科学的な読み物であることが少なくありません。
 大人の側にいろいろなジャンルの本についての知識があればいいのですが、現実には難しいと言わざるを得ません。親はそのことを踏まえ、様々な本との出合いをサポートしてやりたいものです。少なくとも図書館や本屋での“本探し”のときには、子どもと様々なジャンルの本との出合いを大切にしてやりたいものです。

 親が子どものために本との出合いをサポートする。それは、子どもがあと少し成長するとできなくなります。読書には子どもを育てる無限の力があります。親の働きかけが有効な今のうちにこそ、読書がしっかりと生活に根づいた子どもになるよう、様々な働きかけをしておきたいものです。この夏休みが、わが子にとって人生の大切な一冊との出合いの場になるよう、みなさんの家庭ならではの作戦を練ってみませんか?

※今回の記事は、「読書の発達心理学」秋田喜代美/著 国土社 の著述をもとにして書きました。