夏休みは、子どもの自律性を高める絶好機!

 子どもたちにとって待望久しい夏休みがやってきました。年間でいちばん長い休暇であり、プールでの水浴び、海水浴、野山の探索、キャンプ、遠方への旅行、お盆の帰省、花火大会と、開放感に浸れるイベントがふんだんにある夏休みは、昔も今も子どもたちにとって憧憬の的とも言える存在です。

 ただし、子どもの成長を見守る親として注意すべきは、夏休み独特の開放感が子どもにもたらすマイナスの作用です。「できるなら面倒なことを投げ出したい!」という内なる願望が、行動面に表れやすくなるのです。たとえば、学習の習慣などはその代表的なものでしょう。毎日、決まった時間になったら机に向かう習慣を身につけていたお子さんが、いつの間にか怠惰に流れた生活に陥りがちなのが夏休みです。よい習慣は、築くまで長い期間にわたる繰り返しが必要ですが、崩れるのはあっという間のことです。いったん失ったよい習慣を再び手に入れるには、大変な努力が必要になります。

 そこで玉井式にご縁をいただいている保護者のみなさまには、お子さんの学習習慣が崩れないよう、夏休み中の十分な見守りとケアをお願いするしだいです。いっぽう、これまで学習の態勢が整っていなかったお子さんにとって、夏休みは学習の習慣づけをはじめ、勉強に向き合う態勢を整える絶好のチャンスです。というのも、夏休みは学校への通学がないため、1日をどう過ごすかを自分で考えて行動する必要があります。この経験が随分と子どもの成長に役立つでしょう。夏休みの期間は、毎日のスケジュールを立て、それに沿って生活されると思いますが、それを義務的に実行に移すのではなく、自律的な生活姿勢を育むチャンスととらえましょう。うまくいくかどうかの鍵を握るのは親の関わりや働きかけです。児童期までの子どもは、親の意向に沿った行動をし、それを認められることが何よりも心の張りになり意欲につながるからです。

 では、具体的にはどのような点に留意したらよいでしょうか。重要なポイントを三つほどあげてみましょう。

 まずはごく基本的なことになりますが、「生活上、自分のことは自分でする」ということができていないと、自律性の伴った学習は実現しません。
 お子さんの現状を振り返ってみてください。身の回りのことを自分でするのは当たり前になっているでしょうか。たとえば朝の起床です。親に起こしてもらわないとベッドから離れられないといったようなことはありませんか? 行動の自律性は、生活面の自立と深くつながっています。「自分でできることを自分でするのは当たり前だ」という意識を子どもにもたせ、実行することを奨励してあげてください。今なら夏休みは始まったばかり。親子で夏休みの行動目標について話し合いの場を設け、その第一弾として、「基本的生活習慣の自立を図ろう!」を合言葉に掲げてはどうでしょうか。
 この目標をお子さんが達成するにあたっては、親が子どもの生活の様子を見守り、タイミングよく声掛けをしたり、ほめたりすることが肝要です。自分で起床するなどということは些細なことですが、それがなかなかできなかったお子さんができるようになったなら大いなる進歩です。それを親が見逃さず、「自分から起きたんだね。頼もしくなったね。その調子!」などと反応してあげると、お子さんは自分を認められたのですからうれしいに決まっています。継続的にそれを実行に移そうと張り切るでしょう。そうして、生活面全般にわたる自立が少しずつ進んでいくよう促してやりましょう。
 

 つぎは、自分がすべきことをやり遂げようとする姿勢を育むための働きかけをとりあげてみました。
 これまでも、家庭での学習にあたっては時間を決めて取り組むようお子さんを促されたと思います。ただし、残念ながら「時間になっても勉強を始めない」という悩みをもつ保護者が多いのが現実です。しかし、やらない子どもに「早く勉強しなさい!」という命令は逆効果を招くだけです。なぜなら、勉強よりも好きなことをしているほうが楽しいに決まっているからです。それは子どもに限りません。
 つぎの引用文は、阿刀田高氏の「アラビアンナイトを楽しむために」という著作(新潮文庫)の一節です。
 「イギリスの随筆家ロバート・リンドが<怠け者の怠けた考え>の中で『この世でなにが楽しいと言って、やらなければいけない仕事が山ほどあるのに、それをぐずぐず伸ばして、もう少し暖炉にあたっていよう、音楽を聴いていよう、と思うあの瞬間ほど楽しいものはない』と書いているが、たしかに仕事を一寸伸ばし、五分伸ばしにして遊んでいるときには、なにか屈折した充実感がある」
 世の東西を問わず、大人か子どもかに限らず、やるべきことがあるのに怠けているときに湧きあがる不思議な心地よさは同じなのですね。随分前に読んだ心理学の本にも、「人間怠け者説」という言葉がありました。親はそのことを認めたうえで、わが子に接する必要がありそうです。
 では、どうわが子に対処したらよいのでしょう。ポイントは、お子さんに「自ら取り組む」ことの気持ちよさを味わわせることです。いつまでもテレビを観ている子どもに癇癪を起さず、「あれ? 勉強の時間が来たみたいだね」と、声をかけてやりましょう。そうすれば、子どもも反発しません。「あっ、そうだね」と、机に向かったなら子どものメンツも保たれます。誰だって、よいことは「自分からしている」と思いたいものです。そういう子どものプライドに配慮する声かけが有効なんですね。そして、やり終えたのをさりげなく見届け、「よくやっているね」「感心だね」などとほめてやりましょう。親に言われてするのとは格段に違う心地よさが勉強の実行力を後押ししてくれることでしょう。
 

 三つめは、学習に取り組む姿勢のみならず、生きるうえでの姿勢を育む意味においても、非常に重要な親の働きかけについてお伝えしようと思います。
 テストの成績を親からほめられるのは、どの子どもにとってもうれしいものです。ただし、親の評価が「成績が悪いと叱られる」ということとセットになっている場合、子どもの健全な成長を促す方法とは言えないかもしれません。というのは、「親は成績さえよければ嬉しいんだ」などのように、間違った観念を子どもに植えつけることにもなりかねません。ズルをしてもよい成績をとろうとするようになるかもしれません。
 いっぽう、成績も気になるところではありますが、子どもへの評価の基準を、「どれだけ努力していたか」に置くことをお勧めしたいですね。これなら子どもは親にほめられる喜びを数多く味わえるのではないでしょうか。成績はある程度上がると頭打ちになるものです。するとほめるチャンスはぐっと減ります。しかし、努力を見てほめるのなら、いくらでもほめてやることができます。成績でほめるよりも、結局はこのほうが子どもを伸ばすことになり、さらには陰ひなたのない健全な人間に成長させることにもなるでしょう。成績を見てほめられるよりも子どもは努力をほめられることを望みますし、親のそういう姿勢は子どもからの信頼や尊敬にもつながるに相違ありません。

 以上の三つは、親にとって負担や忍耐を強いるかもしれません。しかしながら、子どもの自立を促すだけでなく、高い次元の学問領域に到達するうえで欠かせない学びの姿勢を育んでくれることにもなります。また、子どもを健全な人間へと成長させることになりますし、親子間の強固な信頼関係を築いてくれることでしょう。

 本コラムをお読みくださっている保護者のなかには、お子さんの中学受験を視野に入れているかたがたくさんおられると思います。中学受験は、当面の志望校合格を視野に入れてするものですが、言うまでもなく根底には子どもの将来の歩みに対する親の夢があります。その夢を現実のものにするにあたっては、受験で第一志望校に合格したかどうかも大切ですが、「受験をめざした生活を通して、人間としてどう成長したか」も重要なことです。学力形成面でのサポートは学習塾の仕事ですが、人間としての成長に関してはご家庭のバックアップや配慮が欠かせません。ぜひがんばっていただきたいですね。

 ともに協力して、お子さんが学力面でも人間的な面においても大きく成長する受験生活を実現したいものです。ご理解ご協力をよろしくお願い申し上げます。