中学受験を見通した低学年児童期の学習

 もうしばらくすると中学受験のシーズンが終わります。それに伴って多くの学習塾は2月ごろに新年度講座を開講します。こうした流れに刺激を受け、お子さんの中学受験を検討し始めたかたもおありでしょう。今回は、このような保護者、特に低学年児童の保護者に向けた記事を書いてみようと思います。

 言うまでもなく、中学受験で合格の決め手となるのは学力です。学力を決定する要素としてみなさんは何を重視されるでしょうか。私見を言わせていただければ、目を向けるべきは児童期前半までの学習のありかたです。なぜなら、文字や数字の織りなす記号の世界の新たな参入者となってから、それを使いこなして学習を進めていく態勢が整うまでにおよそ3年かかりますが、このプロセスで子どもの学力伸長を支えるポテンシャルや学問適性が定まるからです。遺伝的資質をことさら気にするには及びません。このことは、多くのご家庭に希望の光を投げかけてくれるでしょう。どの子どもも低学年時から望ましい学習を積み重ねれば、高い学力の持ち主になれる可能性が十分にあるのです。

 では、具体的にはどうすればよいのでしょう。以下は、このことについて私の考えを書いたものです。

1.3年生までに活字を正確に迅速に読み進める力を養う。
 小学生の活字の読み取り能力に個人差が大きいのをご存知でしょうか。たとえば、同じ文章を読んでも、5分ほどで読了する子どもがいる一方、その3倍以上もかかる子どももいます。時間がかかるということはきちんと読めていないことに外ならず、理解が及ばないのは当然のことでしょう。
 この読みの能力差は、どうして生まれるのでしょうか。それは、1年生で正式に文字学習を始めてから、黙読の態勢が整う3年生までの学習の差によるものです。文字の一字一字を学習する段階から、文字列を目で追いながら瞬時に文脈に沿って意味を理解できるようになるまでにおよそ3年かかります。この期間こそ、読みの態勢づくりに注力すべきときです。黙読へのスムーズな移行を保証するのは音読です。文字列を目でとらえて声に出して正確に読めるようになると、やがて声に出さなくても目でトレースして著述内容を理解できるようになります。この練習をしっかりと繰り返しましょう。

2.活字を読み進めながらイメージを描く力を養う。
 文章理解に関わるもう一つの要素に、イメージ想起力があります。活字の列から意味の流れをつかみ出し、イメージ化できるかどうかで記述内容の理解度は随分違ってきます。
 言葉をイメージ化する力は家庭教育と連動しています。おかあさんが、状況にふさわしい言葉を上手に使っている家庭では、子どもは場面に似つかわしい様々な語彙を身につけることができるでしょう。また、読み聞かせから読書への流れを築くプロセスもイメージング能力に影響します。さらには、実体験や映像経験もイメージング能力に影響を及ぼします。言葉と対象物を照合する体験が豊かであるほどイメージを起こすのが容易になるからです。

3.書く力は、3年生までの学習体験が決め手になる。
 小学校入学当初は、どの子どもも書くのに難渋します。頭に浮かんだことを言語化して綴るための脳内体制が整っていないからです。しかしながら、上手でなくとも書くことに継続的に親しんでいると、それによって思考内容を言葉にして書き表す力が徐々に上達していきます。
 たとえば、1年生は長い文章は書けませんし著述内容も未熟です。2年生も一見変わりません。しかし、よく見ると内容が確かになっています。そして3年生になるといつの間にか飛躍的に書き表す力が達者になるのです。親にすればじれったい助走期間ですが、それが書く力の飛躍に向けた土台になるのですね。いっぽう、このプロセスが不十分な子どもは大きく後れを取ることになります。少しでもお子さんが楽しく書けるようサポートしてあげてください。きっと実を結びます。

4.図形課題の「閃く力」は、形あるものに接する経験で養われる。
 中学受験で扱われる図形単元は、学校のカリキュラムでは4~5年生頃登場します。ところが、この段階に至るまでに図形の識別能力や反応力にかなりの個人差が生じていることが多いものです。
 こうした能力も「読む力」や「書く力」同様、小学校低~中学年までの体験が関与します。たとえば幼い子どもは、積み木遊びを繰り返しながら、積み木の見えない部分の様子を確かめることを繰り返します。こうして、しだいに実物を介さなくても、イメージ操作で見えない部分を想像できるようになります。玉井式の映像による図形学習は、子どものイメージ操作の力をさらに伸ばしてくれます。短い時間で数多くの形あるものに触れる体験を提供してくれるからです。
 以上から、形あるものに直接触れたり視覚的な刺激を浴びたりすることの効能がおわかりいただけるでしょう。実物をいじる体験(具体的操作)、視覚的な体験を通じて、実物がなくても頭の中で同じことができる(形式的操作)へと子どもの思考はグレードアップするのです。

5.小学校低~中学年にこそ、習熟しておきたい技能がある。
 中学受験では、単純な計算問題の出題数はごくわずかです。しかし、計算力は極めて大切な算数能力の一つです。たとえば、算数のテストで点を落としている理由を調べてみると、計算操作のつまずきが数多くあります。せっかく突破口を見つけて計算式を立てたのに、その後でミスをしては台無しですね。
 では、どうすればよいのでしょう。低~中学年のうちに計算操作に習熟しておけばいいのです。この時期の子どもは単純な作業でも飽きることがありません。計算を速く正確にやり遂げる作業自体が喜びや充実感につながり、親が誉めるといつまでもやり続けます。それが卓越した計算力を生み出すのです。こうした低~中学年期の特徴を大人が踏まえ、適切に導いてやりたいものですね。

6.望ましい学習習慣が学問での大成を後押しする。
 やるべき時間になったらスッと机に向かう。この当たり前のことができるかどうかが、実は子どもの一生を変えるほどの影響を及ぼします。なにしろ学習の積み重ね効果を得られますし、親が神経をすり減らすようなバックアップをすることも無用になります。当然ながら中学受験での失敗のリスクも減りますし、中学・高校への進学後もさらなる学力の伸長が期待できるのですから。
 学校から帰ったら宿題に取り組む。まずはこうした単純な約束事から出発し、子どもがやり遂げたら大いに喜びほめてやりましょう。辛抱強い見守りやサポートが求められますが、「決めたことをやるのは当たり前」というレベルに漕ぎつけたなら、ほぼ見通しは立ったようなものです。その後の親の負担には大変な違いが生じるのは間違いありません。

 “鉄は熱いうちに打て”という諺があります。大人の言うことを素直に聞き、がんばろうとする低~中学年のうちにこそ、先々の学力形成に向けた土台を築いておきたいものですね。そのために何をしておくべきかが重要になりますが、このコラムをお読みのかたの多くは玉井式の講座とご縁をいただいている保護者であろうと思います。玉井式は、上述の1~6の備えに呼応しているのでしょうか。つい最近のことですが、お子さんが中学受験で地域最高峰の私学をめざしているご家庭の保護者と話していたら、「玉井式の3年生の学習で経験していたことが、6年生になって役立ちました」という話をしておられました。“速さ”の単元のことのようでしたが、玉井式のカリキュラムは、低学年時で経験したほうが適切だと判断した単元を低学年時からカリキュラムに組み入れています。頭が柔らかいうちに経験したほうがよいと判断したからです。無論、内容は学年の発達段階を考慮して無理のない範囲に留めています。これなら弊害がありませんし、むしろ才能開化に向けて大いに効果があると言えるでしょう。玉井式のカリキュラムを信じて、お子さんの学習をバックアップしてあげてください。

 いつ、どんな学習を体験すべきかについては絶対的な定説はありません。しかし、子どもたちが興味をもち、楽しく取り組める学習課題をどう提供するかについて正面切って向き合いながら編まれた教材なら確実に成果をあげると断言できます。ただし、お子さんの学習に保護者のフォローが求められるのが中学受験の特徴です。一貫した応援や見守りが求められますが、それは毎日の生活を共にしている親にしかできないことです。「今こそ親の出番だ!」という認識のもと、中学受験の終了まで愛情深くお子さんを応援してあげてください。