秋は子どもの内面が成長する時期

 しだいに秋が深まってきました。戸外は日中でも涼しくてしのぎやすく、室内ではエアコンがなくても快適な空間が約束されます。そんな秋は、「スポーツの秋」「読書の秋」「食欲の秋」「思索の秋」などと形容され、何をするにもうってつけのシーズンとされています。そこで今回は、「読書の秋」を話題に取り上げてみようと思います。

 みなさんは今、どのぐらい読書をしておられますか? また、お子さんは暇を見つけては読書をするタイプですか? 子どもが読書好きになるかどうかは、家庭環境がずいぶん作用すると思います。親が読書好きなら、自然と家のなかにも本がたくさんあるでしょうし、親の読書の様子を見て刺激を受け、おのずと本を手に取るようになるでしょう。

 小学生の読書量は中学高校生よりも多いと言われています。読書が大好きな子どもは、月当たり20冊以上も本を読んでいます。そんな子どもでも、中学生や高校生になると学校での活動や交友関係などの比重が高まり、さらには便利な電子媒体が情報入手の主役になっていきます。毎日が忙しくて、読書をする時間もままならなくなってしまいます。しかし、小学生時代に読書の魅力に触れ、数多くの読書体験をした人は、総じて大人になってからも読書を継続する傾向があります。忙しいなかでも読書の時間を確保しているのでしょう。読書は人生を心豊かに送るうえで欠かせないパートナーのようなものですから、お子さんが小学生のうちに読書の習慣をつけるよう、ぜひ働きかけていただきたいですね。

 ただし、子どもの読書好きも程度問題であり、周囲が心配するようなケースもあるようです。あるとき、新聞誌面の小学生の読書についての投稿が目に留まりました。学校の休憩時間や自由な時間に寸暇を惜しむように本を読み、他の子どもたちのおしゃべりや遊びに加わらない子どもがいるというのです。確かに、クラスメートが集まって楽しい時間を過ごしているなか、集団から離れて読書をしている子どもがいたら、「社会性やコミュニケーション能力が欠落した人間になるのではないか」と、心配になるかたもおられることでしょう。

 しかしながら、これについてはあまり心配要らないようです。長年教育現場に立っておられる先生の著述に、「若い頃はみんなと交わらずに読書をしている子どもがいると心配になりましたが、やがてそういう子どもも問題ないことがわかってきました。授業に普通に参加し、読書以外の時間に他の子どもと協調できていれば心配は無用です」というのがありました。読書に夢中になっているからといって、その子どもは他者との交流を拒絶しているわけではないのですね。学校での自由に使える時間には何はさておき読書をしたい。このような欲求が他よりも上回っているのでしょう。

 ところで、子どもにとって読書は掛け値なしに楽しいものであり、それ以上のことを求める必要はありません。しかしながら、読書にはエンターテインメントとは別の深い意味が見出せます。児童期の子どもが読書に没頭する傾向が強い理由も、そこにあるのだということがわかります。以下の引用文は、小学校高学年期の読書のもつ意味について書かれたものですが、これをお読みになれば読書のもつ意味をより深くご理解いただけるでしょう。出典は、日本子どもの本研究会・編の「子どもの発達と読書の楽しさ」です。

 まず知的発達の面では、具体物を通し外側から見たもので考える段階から、心の中で思考することがはじまる。抽象作用や推理作用が育ってきて、もし自分が、その立場であれば……と仮定した推論が可能になるのである。
 情緒的には、こうしようと自ら決めた課題意図に向かって精力を集中し、持続することができるようになる。「〇〇してはいけない」といった強制的感覚には反発し易く自律的道徳感覚の感情が芽ばえる。
 社会性の面では、自己中心性をぬけ出し、集団的行動、自治的活動に関心が向けられ始め、友情や社会的責任が育ってくる。
 読書に関しては一般的には、幼年童話、生活童話か児童文学、思春期文学へと質的に転換し、内容として、友情をテーマとした少年少女物語とか、冒険物語、スポーツ、SF、探偵、空想科学物語へとジャンルを広げていく時期である。
 読みかたも、作中の主人公と自分とを対比し、もし自分ならといった思考や、人間と自然・社会とのかかわりとか、生きかた、正義、真理、美への価値、あこがれ、探求心などに共鳴したり批判を加えたりできるようになり、大人の読みかたと接近してくる。この年代に読んで深く感動した本の印象は、大人になっても、心に刻まれている場合が多いことは、自分の読書体験からもいえるように思う。

 上記によると、小学校高学年期は、抽象的な思考、自律的道徳感覚、社会性が発達し、内面が大人に近づいていく時期だということがわかります。また、こういう時期の読書は、子どもの人間性の涵養、知的発達に少なからぬ貢献をすることがわかりますね。

 中学入試の国語の出題に目を通すと、思春期前後の子どもの心情に関わる問いがよく見られます。こういう問題に対処するには、内面の思考や人間に対する洞察がある程度大人の域に近づいていることが求められます。いくら国語の問題に数多く当たったところで、思考レベルが幼稚では話になりません。このことに鑑みると、小学校4~5年生の子どもは、読書を大いに励行すべきでしょう。ただし、読書に「~のため」という観念は無用です。ただ作品の描く世界に引き込まれるだけでよいのです。この体験が子どもの成長を促すのですね。勉強の一環と位置づける必要はありません。読書を楽しむ体験こそが、子どもの内面を充実させてくれるのですから。

 とは言え、暇さえあれば所かまわず本をむさぼり読むのも考えもの。まして中学受験をめざしている子どもにとって、読書に割ける時間は多くありません。この条件をむしろ生かし、決めた時間の範囲で読書を楽しむ生活を実践することをお勧めしたいですね。それが時間の割り振りという意識を育て、上手に行動を切り替える姿勢を身につけることにもなるでしょう。このような能力は、今日の社会を生きていくうえで欠かせないものです。

 忙しい毎日の中で、時間を見つけては好きな本を読む。この楽しみを享受した子どもは、先々も読書と縁が切れることはないでしょう。おたくのお子さんをそういう人間に育てませんか? さあ、わが子を読書人にするきっかけをこの秋に!