脳がよく働く条件を生かして勉強を!

 学力向上は毎日の継続的な取り組みの賜物です。計画に基づいて取り組む勉強がルーティンとして定着しているでしょうか。学習計画を立てるにあたっては、脳の働きがよくなる条件がどのようなものかを踏まえ、効率的な取り組みを心がければより一層成果も上がることでしょう。そこで今回は、「人間の脳はどういうときに活性化するのか」ということを一緒に確認し、効率性の高い勉強の実践につなげていただこうと思います。

 おたくのお子さんは、ご家庭の勉強をどのような時間帯に、どのような条件の下でしておられるでしょうか。勉強の成果は取り組みの環境や状況しだいでかなり違ってきます。たとえば、やや室温が低めで多少肌寒さを感じるぐらいのコンディションのほうが、温かい室温の下で勉強するよりも効率がよいと言われていることをご存知だと思います。しかしながら、それがわかっていても勉強に生かしておられないご家庭もあるようです。

 なぜ少し寒いぐらいの室温のほうが勉強にふさわしいのかというと、脳が危険を察知して鋭敏な状態にシフトするからです。これは大脳辺縁系という古い脳部位にある扁桃体の働きによるものです。人間の脳のうち、構造的に古い部位は生き残りや生存に直結した働きをします。人間を取り巻く周囲の温度が低くなると、扁桃体が危険を察知してその働きを鋭敏な状態にするわけです。適度な緊張状態は集中力の発揮や記憶の働きにもプラスの影響をもたらします。いっぽう、心地よく満ち足りた室温状態だと、脳の働きは緩慢になりがちです。

 今頃の季節はしのぎやすいいっぽう、どうかすると勉強も緊張感を欠いたものになりがちです。お子さんが勉強しているときの室温を一度チェックしてみてください。勉強の能率が上がり、集中状態が維持しやすい室温は、おおよそ18~22、23度ぐらいです。また、あったかいと感じるか、やや寒いと感じるかは、服装によっても変わってきます。ちょうどよいコンディションになるよう配慮してあげてください。部屋の換気にも気を配ってくださいね。

 もう一つ、勉強のはかどりに影響を及ぼすのが満腹感や空腹感です。みなさんの子どもの頃、学生の頃を思い出してみてください。学校の授業で最も辛い時間帯は、昼食後の午後いちばんの授業だったのではありませんか? おなかが満たされると、人間の脳は緊張感を失って注意散漫になるうえ、眠気が襲ってきて先生の話に集中するのを邪魔するんですね。いっぽう、多少おなかがすいている状態のほうが勉強ははかどります。なぜでしょうか。飢えとの闘いは太古の昔から人間にとって生命の存続を左右する大きな問題でした。そのため、空腹感を覚えると脳は危機を感じ取ってその働きを鋭敏にするからです。

 このことに鑑みると、勉強の時間は食事のサイクルを考慮し、やや空腹の状態になる時間帯に設定したほうがよいと言えるでしょう。家庭での勉強にそれを適用して考えてみましょう。どういう時間帯が当てはまるでしょうか。

 ①から順に少しご説明しましょう。夕食前の子どもはかなりおなかをすかせています。ですが、「これをやり終えたら、おいしい晩御飯が待っているぞ!」というシチュエーションが子どもの背中を押します。また、やるべきことを早めに済ませておけば安心です。学校の宿題や塾の課題などを先にやり終える習慣をつければ、大事な勉強を後回しにしてしまうような、望ましくない勉強癖もつきません。小学生にとって、特に低~中学年児童にとって「夕食前の時間帯」は勉強のゴールデンタイムと言えるでしょう。

 ②ですが、本来は家庭勉強にいちばんお勧めの時間帯です。十分な睡眠をとった後の朝は、前日の様々なできごとや勉強の記憶が整理整頓されており、脳がすっきりした状態にあります。また、夕食を摂ってからだいぶ時間が経過しており、おなかがすいていますから、勉強に最適の条件が整っています。ただし、朝の苦手なタイプのお子さんもおられるでしょうから、お勧めの二番手にしました。親子共々早起きのご家庭なら、ぜひ早朝の時間帯のメリットを生かしていただきたいですね。

 ③は、勉強の時間を最も長く設定できるため、実際には最も活用されている時間帯かもしれません。ただし、勉強時間は長ければよいというものではありません。また、夕食後にゲームやテレビに興じるお子さんも多いと思います。その場合、勉強への切り替えを一工夫する必要もあるでしょう。できるなら、夕食後の20~30分を家族団らんの時間にし、楽しい会話から勉強に切り替えるという流れをつくってあげてほしいですね。会話は親子の信頼関係を強固にします。親子の会話の豊かな家庭では、子どもは親が何を期待しているのかを承知していますから、「あっ、勉強の時間だね!」という親の一言で、すぐに日課として定めている勉強に向かうことでしょう。

 なお、本コラムをお読みのご家庭の多くは、お子さんが学習塾に通っておられると思います。学習塾での勉強が夕方の1時間程度なら必要ないかもしれませんが、夜の8時、9時ごろまでかかるなら、予め軽食を摂っておくとよいでしょう(多くのご家庭ではそうしておられると思います)。おにぎり2個程度なら、満腹にならないし空腹でもない状態がしばらくは維持できるでしょう。脳の活動にちょうどよいコンディションでがんばれると思います。以上、参考にしていただければ幸いです。