「よいほめかた」 おかあさんからの実践報告

 ようやく秋らしさを感じる日々がやってきました。しのぎやすい秋は、スポーツに、勉強に、読書にと、様々な活動が活発になる季節です。この秋を、お子さんが一段と成長する契機にしていきましょう。

 さて、私はこれまで多くのワークショップやセミナーを実施してきました。そのほとんどは、お子さんの中学受験を視野に入れておられる保護者が対象の、子どもを健全かつ優秀な人間に育てるための子育てのありかたを共に考えようという内容です。中学受験に向けたプロセスは、子どもの学力形成面だけでなく、洗練された行動様式を備えた人間に成長させるうえで格好の場にできるからです。この趣旨に基づき、具体的なテーマを設定して参加者を募っています。

 たとえば、最近実施した催しでテーマに掲げたのは、「子どもの自立を促す上手なほめかたって!?」「子どもの素直な反省を促す叱りかた」「親子の信頼を紡ぐ声かけの研究」などです。毎日の生活でわが子と接する時間はほめたり、叱ったり、声をかけたりすることの連続です。その場、その場の親の対応が一貫し、子どもにとって納得がいくものであれば、子どもは必ず親の望むような成長を遂げることができるでしょう。そんな思いでこれらの催しを実施しています。

 本コラムでも、上記テーマに関連する話題をしばしば取り上げてきました。ただし、コラム記事は一方通行ですから、記事を参考にして家庭で実践を試みておられる保護者がどれぐらいおられるのかはわかりません。そこで今回は、私が実際に実施した催しの参加者からいただいた報告の一部をご紹介してみようと思います。あるワークショップ形式の催しで、「ほめかたにもよいのと悪いのとがある」ということをお伝えし、いくつかの例をあげました。そのなかで、「子どもの能力や人格に関わるほめかたはよくない。子どものした行為、努力した点を指摘してほめるのが望ましい」ということを保護者にお伝えしたのですが、後日そのことに関する実践結果を報告してもらったことがあります。

 以下は、おかあさんがたの報告を抜粋したものです。よろしければ目を通してみてください。

Aさんからの報告
 「ほめる」にも、言われると嫌なほめかたやプレッシャーになるほめかたがあることを学びました。私はいつも仕事で疲れているせいか、家に帰ると子どもはすぐに「ぼくにできることは手伝うよ」と声をかけてくれます。本当に助かっているので、「ありがとう。助かるわ」と素直に感謝の言葉が出てお互いプラスのエネルギーが出ます。しかし、子どもも疲れているときは何を言ってもイライラしている様子です。そんなときは私から癒しの言葉かけができればいいのですが、私のほうにも気持ちに余裕がないため余計なことまで言って嫌な気持ちにさせていました。私は子どもの言葉で癒されることが多かったけれど、子どもは私の言葉で癒されることがあまりなかったのではと反省しました。

Bさんからの報告
 今まで「よくないほめかた」をしていたと反省し、「よいほめかた」を意識して声かけをしました。サッカーでがんばっていたり、勉強でいい点を取ってきたりすると、具体的な子どもの努力をみつけて声かけをしました。そういうときは、我が子ながら本当にうれしそうに笑顔になってくれます。「今度もがんばるよ!」という一言が印象的でした。「的を射たほめかたしだいで、子どもはやる気を自発的に起こす」ということがわかりました。家庭内の親子関係では、つい感情的になりがちですが、「ほめること」と「自信をもたせること」を目標にして我が子に接しようと思います。

Cさんからの報告
 講座の後、よいほめかたを意識してやってみようと思い、「いい子」とか「えらい子」などのような表現をしないようにし、子どもの態度ややったことを具体的に取り上げてほめるよう心がけたら、子どもにプレッシャーがなくなったのか、伸び伸びとしてきたように感じます。ありがとうございました。

Dさんからの報告
 運動会で息子ががんばっているのを見て、「よくがんばったね。とてもカッコよかった!!」と言うと、満足そうに「うん」と言っていました。こんなふうに、本心からそう思ってほめるときには上手くいくのですが、「これぐらいでもほめなきゃ」と思ってほめると、「あっそう」で終わってしまいます。親の本音が息子に見通されてしまうのでしょうか。演技力を磨かなきゃと思います。

Eさんからの報告
 子どもが「今年の運動会で、リレー選手になれるかもしれないよ」と私に言ったとき、「ほんとう?すごいね!!」と言ってしまいました。「すごい」というほめかたはまずかったかもしれません。こんなとき、何と言えばよかったのかなと考えてみました。「よかったね。おかあさんもうれしいよ」のほうがいいのかな、と思いました。しかし、とっさによい表現に気づくのは難しいですね。ただいろいろ試した結果、親の考える理想を押し付ける、レッテルを貼った言いかたでほめるより、子どもが素直に喜ぶ表情が返ってくるようなほめかたをしたほうがよいのだということはわかりました。「やったことをほめる」というのは、そういうことなのだろうと思います。

 いかがでしょう、多少は参考になりましたか? あるとき、ワークショップに参加されたおかあさんの娘さん(小5)が、「あの行事をやってくれた人にお礼を言いたいの。最近、おかあさんが優しくなったんです」と言ったという話を伝え聞いて、ちょっとうれしい思いをしました。親の愛情を肌で感じることほど子どもにとって幸せなことはないからです。特に適切なほめ言葉は、子どもの気持ちを落ち着かせ、ものごとに取り組む意欲の源になります。普段の子どもの何気ない小さな努力を見逃さないようお願いします。そして、子どものしたことを具体的に指摘し、心からほめてやりましょう。きっとお子さんは、親の期待をきちんと受け止め、立派に成長されることでしょう。