日本の子どもの自己肯定感はなぜ低いの?

 今回は、これまでにも取り上げたことがありますが、「子どもの自己肯定感」に関する話題です。というのも、日本の子どもと他国の子どもを比較した調査資料がいろいろあるなかで、特に目立つことの一つが、「日本の子どもの自己肯定感の低さ」だからです。

 社会のグローバル化は、お子さんが大人になる頃にはますます進んでいることでしょう。外国人との交流において、日本人の欠点としてしばしば指摘されているのは自己表現や自己主張の弱さです。それには自己肯定感が低いこととも大いに関係があると思います。自分にプライドをもち、自分の考えをしっかりと表現できない人間が国際社会で通用しないのは自明のことです。国際派の人間が少ないのは日本人が英語を苦手にするからだという説もありますが、実は英語力は本質的問題ではなく、日本人が自分の考えをもち、その考えをはっきりと主張する姿勢を欠いているからではないでしょうか。

 つぎの資料をご覧ください。これは日本、アメリカ、中国、韓国の高校生が自分自身をどう思っているかについての調査結果を示したものです。日本の子どもの自己肯定感の低さを痛感する結果となっています。なお、対象は高1~3の男女(韓国のみ高1と高2)で、調査に応じた生徒数はおよそ1,500~2,000名です。概要をご紹介するための参考資料ですので、詳しい属性に関わる数値は省略しました。

 これをご覧になって、どのような感想をおもちになったでしょうか。全体的に他の3か国の高校生よりも自己肯定感が低いのは間違いないようです。日本人は何事にも控えめで、自己主張をあまりしないという民族性がありますから、少し数値が低い程度の項目についてはあまり神経質になる必要はないでしょう。たとえば、よい友人に恵まれているかどうか、他者と協調できるかどうか、感情をコントロールできるかどうか、辛いことを乗り越えられるかどうかなどの面では、相対的に日本の高校生の数値は低いものの他国とさほど変わりません。

 ただし、「私は価値のある人間だと思う」や「私はいまの自分に満足している」という項目においては、「そうだ」「まあそうだ」という回答が他国と比較して著しく少ない点が気になります。「私は、何をやってもうまくいかないことが多い」と思っている高校生の数が半数近くいる点も残念なことだと思います。もう一つ、韓国の高校生はたいていの項目においてアメリカや中国の高校生と似通った数値を示しているのに、この項目に限っては突出して「そうだ」や「まあそうだ」と回答している生徒が多いことに目が留まりました。何か原因があるのでしょうか。

 さらに驚いたのは、「体力に自信がある」という項目に対して肯定的な回答をした日本の高校生が4割に満たなかったことです。日本の中学や高校ではスポーツ関連のクラブ活動が盛んです。世界中を見渡しても、ほかに例がないほどです。このことは他国に比して自己の体力への自信につながると私は思っていました。さらには、近年は日本人の体格も向上しており、他国に比して大きく見劣るようなことはありません。これはどういうことでしょうか。

 また、私が今回の調査結果を見て個人的に意外で残念に思ったことがあります。それは、「私は努力すれば大体のことができると思う」という項目で、日本の高校生の数値が予想外に低く、4か国のなかで最低だったことです。というのは、日本の家庭は伝統的に子どもに対して努力することを求め、何につけても結果が伴わないときには「努力が足りなかったからだよ」と教える傾向が強いとされてきました。子どもの勉学に対するアプローチなどはその最たるもので、常に努力することを教える日本家庭の教育環境がPISAなどの国際比較テストでの好成績をもたらしていると指摘されていました。逆に、アメリカなどでは勉強の成績のよしあしを能力の差や遺伝に帰する傾向が強く、それが国際学力比較調査などでアジア諸国の後塵を拝している原因とみなされていました。

 この「努力すれば大体のことができると思う」という項目の数値が低いのはなぜでしょうか。私の個人的な見解ですが、この調査結果は日本の子どもが努力していないことを示すものではなく、努力をしているからこそもたらされたものだということです。日本の子どもは、親に「努力しなさい」と常日頃教えられ、実際に努力をしているのです。それが世界有数の学力を日本の子どもにもたらしています。しかし、だからこそ「努力すれば大体の問題は克服できる」という見通しや自信をもてないでいるという生憎な結果を生み出しているのではないかと思います。

 次回は、このことを掘り下げて考察してみようと思います。そして、そこから日本の子どもの自己肯定感を上げるための家庭教育のありかたについて有用なヒントが見つかるのではないかと考えています。自分の能力を肯定的にとらえられるかどうかは、お子さんの将来の歩みに大きな影響を及ぼします。みなさんのお子さんが高校生になったとき、これらの質問項目に「そうだ」と、胸を張って答える人間であってほしいですね。