子どもが学ぶ理由と親の関わり
子どもにとっての重要な仕事は何でしょうか。それは、将来の独り立ちに向けた準備です。小中学生なら、義務教育課程で定められた勉強にきちんと取り組むことであり、まっとうな社会規範を身につけることでしょう。無論、遊びも健全な成長にとって大切ですが、大人の保護の下で衣食住についての心配が要らない代わりに、子どもは子どもなりに多少嫌でもやるべきことがあります。それを怠ると先々そのつけを自分で払わされることになります。

保護者のなかには、わが子に中学受験をさせるかたもおられることでしょう。義務教育期間中に結構な経費のかかる私立一貫校への進学を考えるのも、子どもの将来を見通してのことです。しかしながら、児童期までの子どもに将来を見据えた自発的な勉強を期待するのは無理であり、大人の関わりが欠かせません。このような状況にある保護者が必ず突き当たるのが、「わが子には、もっと熱心に学んでほしい(子どものやる気に不満がある)」という悩みではないでしょうか。そこで、子どもが学ぶ理由について調べた研究資料を一緒に見てみようと思います。
以下は、大学の先生が「子どもはどんな理由で学ぶか」についてアンケートを実施し、その結果をまとめておられた資料を引用したものです。調査対象は、小学5・6年生300名でした。調査の結果、子どもたちが学ぶ理由はつぎの4つのグループに分けられました。

さて、結果はどうだったでしょうか。①の「人に認められたい」という願望は、年齢に関わらず誰にもあるものですが、児童期までの子どもには特にそれが強くあります。何事も親(大人)に依存して暮らしていますから当然のことでしょう。「親が喜ぶから」「親がほめてくれるから」「先生に叱られたくないから」などのように、大人の存在が子どもの取り組みに随分影響します。親(大人)は子どものちょっとしたがんばりを見逃さず、しっかりほめて子どものやる気をサポートしてやりたいものですね。
②の「おもしろいから学ぶ」は、人間が本来もっている好奇心や向上心に基づくものですから、児童期に留まらずいつまでも大切にしたい学びの理由だと言えるでしょう。人生経験が浅い児童期の子どもにとって、日常で見るもの聞くもの触れるものはすべて新鮮な驚きにつながります。お子さんが何かに興味をもったときには、「いいところに目をつけたね」「面白そうだね」「一緒に調べてみよう!」など、知ることや発見することの喜びを味わうための体験をサポートしてあげてください。家庭に図鑑や辞典などを常備しておられますか? パソコンの普及率が高い今日ですから、インターネットの活用(無論、大人のフォローや制限が必須です)もよいでしょう。
以上、二つの学びの理由について簡単にご説明しましたが、児童期終盤の5・6年生になると、子どもの学びに対する意識も徐々に社会性を帯びてきます。したがって、①や②よりも③や④のほうが学ぶ理由としては相対的に重要になってきます。他者と自分を比較したり、自分という人間の価値を客観視したり、先ざきの人生を展望したりすることで、「もっと学ぼう」という意欲が高まるからです。これは親への依存から抜け出し、別の人格をもった人間へと成長しつつあることの証でしょう。
ただし、④は自分の人生を見通せてこそ生まれてくるものであり、5・6年生の段階ではまだそこに至っていません。その証拠に、中学受験をめざして学んでいる子どもの多くは、中高一貫の学校がどのようなものなのかを詳しくわかっていませんし、そこでの学校生活を展望する視野も携えていません。ですから、入試合格に向けた目的意識も大人の目から見るといささか頼りなく見えるものです。親が「いまだにわが子は受験を本気に考えていない」と歯ぎしりするような思いを味わうのも無理はありません。子どもが思春期を通過する中学生後半ぐらいから、④が一番重要な要素になるのだと思ってください。

以上から言えるのは、小学校5・6年生の子どもが学ぶ理由としては、③が最も現実的で有力なものだということです。「親にほめられたいから」、「これをもっと知りたいから」という理由で学んでいた子どもも、学校という集団社会で教育を受けるにつれて、自己の理想と現実に照らした判断、他者との比較という観点から明確な評価目安を求めるようになります。それが「成績」なのでしょう。成績がよければ「自分はやれる!」という自信が湧き、それがまた次なる学びに向けた意欲を駆り立てます。
こうしてみると、中学受験をめざしている子どもたちは、最も成績に敏感な年齢期に学んでいるのだということがわかります。テストでの得点や順位は、順調なときにはやる気を鼓舞してくれますが、同じ目標をもつ集団のなかでの勉強ですから、思うような成績が得られないのが普通です。スランプが長引いたりすると、有能感を喪失する恐れも多分にあります。テスト結果が示されたら、成績に一喜一憂するのではなく、「何がよかったのか、足りなかったか」を常に振り返るようアドバイスしてやりましょう。こうした働きかけは確実にわが子の学びの姿勢に影響を及ぼします。他者との比較に振りまわされず、自分を向上させることに学びの軸が定まっていくのです。これこそが、わが子の受験勉強で得られるいちばんの収穫だと私は思います。悔いの残らぬサポートをしてやりましょう。
今回の記事を通じて、保護者の方々が「やる気を育てる親になろう!」という気持ちを少しでも強くされたならうれしいです。
※今回の記事でご紹介した資料は、「自ら学ぶ意欲を育む先生」(桜井茂男/著 図書文化)より引用しました。

