子どもの将来を決める二つの“ジリツ”って!?

 今回の表題をごらんになって、即座に何のことかピンときた保護者は相当に教育熱心なかただと思います。とはいえ、本コラムでもこの二つのジリツについて再三触れていますので、今お読みになっている方々はすでにお気づきかもしれませんね。いずれも子どもの将来の歩みを決定づける要素であり、子育てにおいて柱とすべき重要なものです。

 一つ目のジリツとは、「自立」です。「自分で立つ」ということですから意味は明白でしょう。要するに他の人(小学生なら主として親)に頼ることなく、自分で自分のことをやれるということです。毎朝、親に起こしてもらわずに自分で起きているか、自分の身の回りのことは自分でやれるようになっているか、その日に着る服を自分で選んで整えられるか、食事の後に自分の使った食器は自分で片づけられるか、などは子どもが一人の人間として成長していくうえで重要なことであり、「基本的生活習慣」と呼ばれています。おたくではこれらの自立が進んでいるでしょうか。

 ある調査によると、朝の起床は子どもの自立にとって最も厄介な壁になっているようで、小学1年生から6年生までのどの学年においても自分でできるようになっている子どもの割合は3割に届いていません。就寝時間が昔よりも遅くなっているからでしょうか。親に起こしてもらっている子どもの割合は、1~4年生で4~5割ですが、5~6年生でも3割~4割弱は親に依存しています。年齢に応じて自分で起きられる子どもは若干増えているものの、4年生以上になっても半数近くは「自分で起きたり、親に起こしてもらったり」の中途半端な状態にあるようです。

 考えてみてください。自分のことは自分でやる。このことを小学生までに基本的な生活姿勢として確立しているかどうかは、親の世話の負担が少なくなるかどうか以上に、子どもの将来の歩みに大変な違いをもたらします。「子どもも成長していくうちに、自然と自立は進んでいくだろう」とお考えのかたはありませんか? それは当てにしないほうがよいでしょう。親への依存や甘えの姿勢が染みついてしまった子どもは、中学生や高校生になってからも自立できず、そのくせ外見も内面も大人に近づいていきますから、親の働きかけで改善するのは不可能になっていきます。

 以前本コラムでご紹介したことがありますが、ある私立一貫校の先生は保護者会で「朝、お子さんを起こさないでください」と言っておられます。理由は、「朝の起床は自立した生活の第一歩です。それができない生徒は、遅刻をしたら、それをおかあさんのせいにしてしまいます。そんな生徒が高いレベルの勉強を自分の力でやり遂げられるでしょうか?」とおっしゃっていました。その通りでしょう。一事が万事です。「自立」は、社会に通用する一人前の人間になるうえで必須条件の一つなんですね。まずはわが子の身の回りのことから自立させましょう!

 二つ目のジリツは「自律」です。「自分を律する」ということですから、「他の人に依存することなく、自分の判断で行動する」ことを意味するでしょう。自分のことなのに、いつすべきか、何をすべきか、どんな順序でやるかなどを自分で判断できず、他者(家庭内ならほとんどは親)の指示を仰いだり、他者の考えに依存したりする姿勢が染みつくと、大人になってからも優柔不断で自分の立ち位置や主張を明確に示せない人間になりかねません。自律性の高い人は、人間としての芯を感じさせ、頼もしく輝いて見えるものです。こうしてみると、「自立」と「自律」は相互に深いかかわりがあり、自己を確立した人間となるうえで車の両輪のように大切なものだと言えるでしょう。

 行動の自律性は、子育てを通して育むことができます。何かにつけ親が命じたり促したりすると、子どもに関わることがスムーズに進むので、つい親はそうしてしまいます。しかし、「宿題、いつやったらいいと思う?」「これについてどう思う?」「あなたならどうするかしら?」など、子どもの考えや判断を引き出すような関りを心がけておられるでしょうか。そして、「いい方法を思いついたね!」「なるほど、それはいいかもしれないね!」などと応じたなら、子どもは親に依存するよりも自分で判断することを志向するようになるでしょう。小学生時代までは自己が確立していませんから、親がどう出るかで子どもの行動基準は変わりやすいものです。何事も自分でどうすべきか考える姿勢を示したときに親が喜んでくれる体験を繰り返すのはその意味で重要なことです。このような親の対応は、子ども特有の他律性から抜け出し、自律性を伴った行動へと成長させていくことにつながるでしょう。

 今回は、子育ての柱に位置づけられる二つのジリツ、すなわち「自立」と「自律」についてお伝えしました。内容的にはどなたも意識しておられる当たり前のことですが、普段の生活場面ではつい忘れてしまいがちです。自分のことを自分でできない様子を見て手伝ったり、「~しなさい」と指示や命令をしたりしてしまうのが親というものです。子ども自身に行動を委ねたり、どうすべきか考えさせたりするのは、忙しい生活を送っている親にはまどろっこしいものです。このようなとき、今回お伝えした二つのジリツのことを思い出し、子どもの自発的行動や判断を尊重する視点に立って接してあげていただきたいですね。こうした親の苦労は、お子さんの将来の歩みに莫大な好影響をもたらすことでしょう。