子どもの気持ちを慮る会話がもたらすもの

 親としては奮起を促すつもりで声かけをしたものの、思いがけないわが子の返事に戸惑ったことはありませんか? わが子のやる気のない反応に怒りが込み上げてきて、「もっと、ちゃんとやれないの!?」「やってるってば!」といったような押し問答に至ったご家庭はありませんか? 今回は、こうした事態を避けるとともに、子どものやる気を取り戻す会話のありかたについて考えてみましょう。

 さて、今年の夏は異常なほど暑い日が続き、体調を壊されたかたが少なくなかったようです。子どもたちも例外ではなく、せっかく身につけた学習習慣が崩れたり、取り組みのリズムや集中力を失ったりしたお子さんもおられることでしょう。しかし、さしもの今夏の酷暑も10月に入って収まりつつあります。勉強の調子を落としたお子さんは、これから立て直したいところですね。おたくではどうでしょうか。実際のところ、たいていのご家庭は同様の問題を抱えておられるのではないでしょうか。というのも、小学生までの子どもの心身のコンディションは移ろい易く、よい状態は長続きしません。特に悪条件の多い夏は勉強の取り組みに変調をきたす子どもが多いのは無理からぬことです。

 そこで今回のテーマに沿った話になります。小学生までの子どもは、何につけ親の気遣いやサポートなしにうまくやり遂げることができません。特に受験勉強などハードルの高い事柄への取り組みとなると、子どもだけでうまく乗り切るのは不可能です。必然的に、「ちゃんとやっている?」「最近、ボーっとしていることが多くない?」「勉強が全然はかどっていないみたいだね」など、子どもの勉強に介入せざるを得なくなります。いっぽうの子どもは、一人ではちゃんとできない現実はさておき、いろいろ言ってくる親を疎ましく思う年齢に達しています。その結果、冒頭に書いたような押し問答やいざこざが生じることになります。これを毎日のように繰り返すのは、子どもにせよ親にせよ精神衛生上よくありません。無理に親が押さえつけて勉強をやらせたとしても、子どもが自分からがんばろうという気持ちになっていなければ成果につながりません。どうしたらよいでしょうか。

 似たような状況のご家庭はありませんか? もしもそうなら、みなさんはどんな対応をされていますか? 先日、あるおかあさんとお話をしていたら、お子さんの勉強ぶりに不満のご様子で、夏休み以降の塾でのテスト成績が不振を極めており、それがもとで口論になったということをお聞きしました。そのとき、おかあさんは少し感情的になられたそうで、「『こんなことじゃ、入試は無理ね!』って言ってしまいました(これは子どもが最も嫌がる文言で、逆効果を招きがちなタブーの一つです)」とおっしゃっていました。さらには、おとうさんまで「塾の費用がこんなにかかっているのに」ともおっしゃったとか。これまた、代表的な逆効果を招く文言です。似たような小さな衝突はきっと多くのご家庭であるのではないでしょうか。子どもの奮起を促し、がんばらせたいのはどの親も同じでしょう。どういう対応が効果的なのか、ここで一緒に考えてみませんか?

 まず、大前提となることを確認してきましょう。小学生までの子どもは親に全面的に依存して暮らしています。まだ親への甘えが多分に残っており、自立した人間に成長する前段階にあります。そういう子どもの内面を推し量る必要があります。子どもは、うまくやれないでいる自分も丸ごと親に(特におかあさんに)受け入れてほしいのです。うまく自分の気持ちを伝えていなくても、苦しい胸の内をおかあさんがわかってくれている、認めてくれていると思いたいのです。それは大人の世界では通用しません。親子ならではのことです。そういうとき、おかあさんが感情的に叱ってきたり、果ては自分のやる気や能力を疑ってかかるようなことを言ってきたりしたら、子どもはどう思うでしょう。無論、親にすれば「何を勝手なことを!」と思われるかもしれません。しかし、これが小学生の子どもの偽らざる本心なのです。

 では、こんな自分勝手なわが子にやるべきことを思い出させ、前向きな取り組みを引き出すにはどうしたらよいでしょうか。それは意外と簡単ですが、親からは生まれにくい発想です。何をするのかというと、子どもの言い分に耳を傾け、同調するだけでいいのです。いけないことを指摘し、子どもの実行力や能力に対して否定的な言葉を投げかける。これでは子どもは親の言うことを聞かなくなるし、反省を行動に転化することもしないでしょう。子どもを変えるには、親の発想をまずもって変えることです。実行してみませんか? 一つ、例をもとに考えてみましょう。

 子どもの言い分が言い訳に過ぎなかったり、多少の嘘を感じたりしても、テストが散々な結果だったことに対して、子どもが後悔したり残念な気持ちになっているのは間違いありません。その気持ちにまずは添うことを優先した対応をしてやりたいものです。そうすれば、子どもは「おかあさんはボクの気持ちをわかってくれた」と感じて安心します。そうすると、自然と子どもは「ほんとうはどうすべきだったか」や「おかあさんの期待に応えよう!」という気持ちになるものです。どうでしょう。試してみませんか?

 もう一つ。あるおかあさんからお聞きした話をご紹介しましょう。そのおかあさんには3人の息子さんがいました。上のお子さん2人には冒頭の話のように、子どものいけない点や気になる点に注意を与えたり、叱ったりを繰り返したそうです。しかし、その効果はほとんど感じられず、親の期待するような勉強の取り組みをしてくれませんでした。そこで3人目の息子さんのときには、対応を変えたそうです。子どもが努力を怠ったり、やる気が感じられなかったりしたとき、叱るのではなく、「今のままで何事もうまくいくと思う?どういうことになるかしら。親がしてやれることは、チャンスを与えることぐらいだよ。がんばらなかった結果がどうなっても、親は助けられないからね」と少し突き放した対応を貫いたそうです。それが功を奏したのかどうかはわかりませんが、3人目の息子さんは上の二人のお子さんよりも行動が自立し、やがてトップランクの国立大学の医学部に進学されたそうです。

 わが子への期待や愛情は伝えつつも、自分のやったことの責任は自分で引き取るものだということを教え、「今、自分はどうすべきか」を考えて行動するよう促したことが、とかく怠けがちだった息子さんを変えたのかもしれませんね。感情的に叱るのではなく、子どもが冷静にやるべきことに向き合うようサポートする。それが子どもの取り組みを改善するポイントなのかもしれませんね。