子どものタイプに合った学力伸長の方策を!

 子どもにもいろいろなタイプがいます。一見勉強には不向きなように見える子どもも、周囲の対処しだいで学力を伸ばすことがあるのがおもしろいところです。とかく親は勉強したことをすぐに理解することを求めがちですが、大概の子どもはそうはいきません。「うちの子は中学受験に(勉強に)向いていないんじゃないか」と心配しておられる保護者はおられませんか? まずはわが子がどんなタイプの子どもかを捉えなおしてみましょう。たとえば、以下の4つのタイプの子どもは勉強に不向きだと思われがちですが、短所と長所は背中合わせの関係にあります。うまくサポートすれば、学習状況が大きく変わる可能性も十分にあります。
 

① 何をするにもゆっくりの子ども (→やることが丁寧で積み重ねが効く)
 何につけてもゆっくりの子どもがいます。「もっとてきぱきできないの?」と、親はイライラさせられるのですが、こういう子どもを急き立てるのは禁物です。というのも、「ゆっくり」は「ていねい」であるという長所をあわせもっています。いずれ力を発揮してくる可能性が大いにあります。何事もていねいに取り組む姿勢は、学力形成においても必須条件の一つなのです。
 おたくのお子さんはどうでしょう。もっと小さい頃、お絵描きをしたときに満足がいくまでいつまでも時間をかける傾向はありませんでしたか? ていねいさや粘り強さは、あとから身につけるのは難しいもので、それがすでに備わっているのは貴重なことです。成長につれて思考と行動の連携がスムーズになり、やがては時間の問題は解消します。お子さんのノートを点検してみましょう。ていねいに書いてありますか? ○つけをしっかりとされていますか?これも学力形成で大切なことです。

② 優しいけれど意気込みが足りない子ども (→習慣づけの過程で自信を引き出す)
 優しいけれど、何につけ意気込みが足りないように見える子どもがいます。こういう子どもは叱咤激励して勉強に取り組ませるべきでありません。子どもに足りないのは自信とやる気であり、無理強いによって勉強に取り組ませると逆効果を招くことになりかねません。
 習慣が定着するには時間がかかります。その代わり、いったん身についたなら簡単には崩れません。気が優しく従順な子どもは、親の言うことを素直に聞きますから、無理のない範囲で習慣化を促していけば、やがて親の働きかけがなくても自分から机に向かうようになります。自発性が感じられたときには大いに喜びほめてやりましょう。すると子どもは自分に自信がもてるようになり、勉強に活気が出てきます。やがては高いレベルの学力のもち主に成長していくことでしょう。

③ 気持ちが勝ちすぎて空回りする子ども (→長い目で見守ると大成する)
 熱心に取り組んでいるわりに、さっぱり成果が上がらない。そんな子ども(特に男の子)は結構いるものです。しかし、能力がないわけではありません。好奇心や向上心が旺盛な代わりに、気持ちが勝ちすぎるために行動が空回りしてしまい、うまく成果に結びつけられないでいるのです。また、精神的に幼いことも災いしがちです。決していい加減な気持ちでやっているのではありません。
 いろいろなことに興味関心をもち、結果に関わらず熱心に取り組もうとする。――こんな行動力や冒険心をもった子どもは、自分で自分の可能性を広げる力を秘めています。ですから、今は多少気持ちが空回りしているようでも、やがては伸びていける可能性が高いと言えるでしょう。

④ 頑固で融通が利かない子ども (→やり遂げる力が花開く)
 何事につけ、一度始めたら中途半端を嫌い、突き進んでしまうタイプの子どもがいます。そういう子どもは、勉強であれ、スポーツであれ、習い事であれ、ある程度のレベルに漕ぎつけるものです。ただし、いろいろな角度から物事を捉えなおし、やりかたを変えてみるなどの柔軟性を欠いているため、本人や親が求める域になかなか達しません。
 ただし、簡単にはあきらめない、最後までやり抜こうとするという資質は何にも代えがたい価値があります。まどろっこしいかもしれませんが、すぐにアドバイスしたりやりかたを変えさせたりせず、子どもの試行錯誤を辛抱強く見守ってやることが肝要でしょう。時間はかかっても、やがていずれかの段階でやり抜く姿勢に取り組みが追いつき、そこから一気にギアが上がっていきます。

 

 

4つのタイプの子どもが中学受験をめざしたら!?

①のタイプ
 ていねいに書くことと速く書くことは、なかなか両立できないものです。ていねいにゆっくり書いている子どもを見ていると、大人は「テストなどで不利だ」と心配し、「もっと速く」と思ってしまいます。しかし、“ていねい”は“確実”に繋がり、強みでもあるのです。というのも、正確にミスなくやれる力こそ試験で求められるものであり、時間の問題は内面の成長とともに解決できるのです。まどろっこしい取り組みに見えても「速くやりなさい!」と急き立てないようにしましょう。学習のペースは、年齢や成熟とともに変わっていきます。「テストで時間が足りない」といっていた子どものほとんどは、受験が近づくにつれてこのハンディを克服しています。

②のタイプ
 このタイプの子どもは、大人の水向けや指示を受け入れて素直に勉強しますから、塾に通わせてもそれなりにがんばります。この点は親にとって安心できる子どもです。しかし、自ら勉強に打ち込もうとするエネルギーが若干足りません。こういう子どもには周囲の大人(保護者や塾関係者など)が上手に声をかけ、「何を期待しているか」を示し、がんばりを称えるなどのサポートが有効です。特に自発性が出てきたら、「やる気が出てきたね!」などとほめてやりましょう。そうすることによって、子どもは「自分に対する自信」や「親の期待に応えようという意気込み」を得ることができます。こうなると、もともと真面目なのである程度の学力ベースができていますから、飛躍を果たす可能性が十分に期待できるでしょう。

③のタイプ
 何にでも興味を示しやってみようという姿勢は、学力形成においても威力を発揮します。ただし、前述のように気持ちが勝ちすぎて空回りし、取り組みに融通が利かない傾向があるため、そのまま放っておくと中学受験の段階では好結果を得られないおそれがあります。また、精神的な幼さゆえに、文学的文章における人物の心情の読み取りにも苦労しがちです。ただし、こういうお子さんは焦らせたり細かすぎる指示を与えたりすべきではありません。それよりも、勉強のおもしろさやすばらしさを実感する体験をたっぷりとさせてあげたいですね。「受験に間に合うだろうか」と周囲の大人はハラハラさせられますが、勉強がかみ合ってからの学力伸長ぶりには目を見張るものがあります。

④のタイプ
 このタイプの子どもには、「時間枠の中でベストを尽くす」ということを教えてやりたいですね。完璧にやろうとする姿勢は尊いものですが、「限られた条件の中でやれる範囲の努力をする」という姿勢も学業成就に欠かせません。満点を取る必要はないのですから。また、「自分はどんなやりかたをしたか。それでよかったのか」を振り返りながら勉強を進めていく姿勢も身につける必要があります。これはメタ認知的視点(自分の認知の状態を認知する)と言われますが、それを稼働させながら勉強する姿勢を身につけると勉強に柔軟性が加味され、頑固なぐらいやり抜こうとする性格が他の子どもにない強みになっていきます。

 

 子どもの勉強ぶりに問題がいろいろあったとしても、大人が一方的に押しつけたり命令したりする形での取り組みの改善を慎むことが肝要です。子ども自らが、そうありたいと願い率先して努力しようという姿勢を引き出すことが、先々の大成につながるからです。子どもが年齢なりに自立し、自分の意志でものごとに関わるよう導いてこそ、もちまえの資質が花を咲かせるのだと思います。目の前のわが子のよさをしっかりと見て、そして認めてやり、そのよさが大きく育つよう応援してやりましょう。また、それが前提にあってこそ問題点の改善もうまくいくのだと心得てください。