子どもの学業成就の秘訣はどこにある?
本コラムをお読みの方々の多くは、お子さんの中学受験を視野に入れておられると思います。そんなみなさんに、唐突な質問をして恐縮ですが、みなさんはわが子の勉強ぶりや学業成績に満足しておられますか? おそらく、「はい!」と笑顔でお答えになる保護者よりも、「いいえ」と、首を横に振る保護者のほうが圧倒的に多いことでしょう。なぜなら、わが子の学力形成に高いレベルの期待をかけている保護者ほど、わが子の現状に満足できないからです。また、親はわが子のことになると冷静にサポートできないものです。わが子の欠点ばかりが目につき易く、イライラを募らせることが多いのではないでしょうか。したがって、わが子の現状への不満やイライラは中学受験生の親につきものと言えるでしょう。それをどう乗り越えるかが受験の結果や先々の学業成就に大きな影響を及ぼします。今回は、わが子の教育に熱心な保護者が見落としがちな知育のポイントについて考えてみようと思います。
子どもの学習成果を期待する保護者の多くは、「何をどれだけやったらよいか」「どの学習塾に通わせたらいいか」ということには熱心です。しかしながら、同じ勉強、同じ仕事をしたら全員が同じ結果を得られるわけではありません。では、何が成果の差を生み出すのでしょうか。「頭のできが違うからだ」と考えるかたもおられるでしょう。しかし、もしもそうなら遺伝や才能がすべてを決めてしまうことになります。私はかれこれ40年中学受験に関連する仕事に携わってきましたが、親の学歴で子どもの入試結果が決まるという事例はそんなに多くありません。また、いくら才能に恵まれた子どもでも、その才能を生かしきれずに入試で思うような結果が得られないケースが多々あります。
たとえば、あるお子さんの父親は東大卒で母親が京大卒でしたが、そういう家庭でありがちなのが、「うちの子はできて当然」「私はこんな問題、苦も無くできた」という親の態度が子どもに強いプレッシャーを与え、勉強に悪影響を及ぼすことです。「うちの子には才能があるから、全て自分で何とかするだろう」という思い込みが災いすることも少なくありません。恵まれた家庭に生まれたがゆえに生じる悩みに、誰も手を差し伸べなかったとしたらどうなるでしょう。子どもは悩みを解消できないまま入試を迎え、残念な結果に終わってしまうことでしょう。また、6年生の秋ごろまでは飛ぶ鳥を落とす勢いで好成績をあげていたのに、入試勉強が佳境に入ったころから成績が振るわなくなり、思いもしない残念な受験結果に終わってしまうこともあります。こういうお子さんは、なまじ頭がいいため、テスト前にちょっと勉強しただけでよい成績を得られ、継続的な取り組みをおざなりにしていることが少なくありません。その結果、勉強をなめていたつけを払わされることになりがちです。こういう例は男の子に多いのですが、せっかく恵まれた資質を備えているというのに残念なことです。
今、おおざっぱな例を二つあげました。この例をもとに私から保護者にお伝えしたいのは、学業成就にあたっては、子どものテスト成績よりも勉強に取り組む際の心の状態や取り組みかたへの目配りが大切だということです。具体的には、「子どもが伸び伸びと勉強に取り組めるよう親がサポートしているかどうか」や、「勉強を継続的に積み重ねる習慣を身につけているかどうか」への配慮です。この二つに問題がなければ、ほとんどのお子さんは学力形成で躓くことはありません。以下の図を見てください。
これを見て、「そんなことはわかっている」と思われるかたが多いことでしょう。しかし、大切なのは「ほんとうに親はそのようなサポートをしているか、子どもはほんとうにちゃんとやれているか」を冷静に見極めることではないでしょうか。「そのつもり」が、実際にそうなっていないことが多々あるものです。
たとえば、①について考えてみましょう。子どもに対して親からは勉強を押しつけるような働きかけをしていないと思っても、子どもの側がそう感じていないかもしれません。「がんばりなさい!」「自分でやるんだよ」と明るく励ましたつもりでも、また、子どもも自分なりにちゃんとやり遂げているように見えても、実際は親から示された期待を受動的に受け止め、辛いと思いながら勉強している可能性があります。そこで保護者として配慮したいのは、子どものほんとうの心の内を推し量ることです。そして、わが子が心からやる気を出すような働きかけ、声かけをするよう努めることです。それには、①で例に挙げているように、子どもの取り組みの様子を具体的に取り上げ、自発的にやろうとしている点を捉えてほめたり喜んだりすれば、子どももうれしいし、勇気づけられるでしょう。また、テストで失敗したときは、子ども自身が情けない思いをしているものです。そういうときこそ、親として結果よりも努力のプロセスこそ重要なのだということを優しく伝えてやるべきでしょう。それなら子どもも奮起します。このようなサポートをしておられるでしょうか。こういうことの繰り返しが、子どもの伸び伸びとした勉強への取り組む姿勢を引き出すのだと思います。テスト結果におびえながら、親の顔色をうかがいながらの勉強では成果はあがりません。
つぎに②について考えてみましょう。決めた時間になったら、ごく当たり前のことにように机に着いて勉強を始める。この習慣が身についた子どもは、「そろそろ始めなきゃ」「でも、もっと遊んでいたい」という葛藤に苦しむことがなくなります。そして、継続的に勉強を積みあげていけるため、着実に成果をあげることができるでしょう。学習の習慣を築くにあたっては、1~3年生までの子どもなら、「この時間は学校の宿題をしよう」などと、やるべきことを親から提案し、一緒に机に着くことから始めるとよいでしょう。それから、少しずつ自分で机に向かうよう応援してやりましょう。4年生以上になると、いつ何をどれだけやるかについて子どもに考えさせ、親の考えも伝えながら妥当な学習計画をつくりましょう。子どもが納得したスケジュールに基づいて勉強するのがコツです。決めた時間になったら決めた勉強に取り組む毎日が実現するよう見守ってやりましょう。
二つは互いにリンクしています。両者は車の両輪のようなものです。学習の習慣が確立するまでには紆余曲折があります。机に向かうのが億劫になることも頻繁にあるでしょう。子どもが自分の弱い気持ちを克服するにあたっては、親の適切かつタイムリーな声かけや励ましが欠かせません。ちょっとの努力を親が見ていてほめてくれたり、テストで失敗して落ち込んでいるときに、「残念だったね。つぎにがんばれば大丈夫だよ!」と優しく親が励ましてくれたりしたならどうでしょう。子どもはうれしいに決まっていますし、「もっとがんばるぞ!」と勇気が湧いてきます。それが学習習慣の定着に向けて大きな支えとなるのは間違いありません。このように、子どもの学びの姿勢と学習習慣とは互いに強い関連性があります。だからこそ、親は常に子どもを見守りながら、励ましたりほめたりする必要があります。そして、親が言わなくても机に着く習慣が定着しつつあるかどうかを気にかけながら、必要なタイミングで子どものやる気を支える声かけをしてやりたいものです。
お子さんが「伸び伸びと積極的に学ぶ姿勢」と「確かな学習習慣」を児童期までに身につけたなら、中学進学後に学業面で後手を踏むことはありません。無論、親の目から見たら不十分でも、小学校卒業までにある程度備わっていたならOKです。なぜなら、勉強の成果をあげるうえで、「意欲」と「習慣」は中学生になってからも必須であり、児童期までに土台ができていればそれが大きな助けになるからです。中学受験準備のプロセスで、ぜひお子さんにこの二つが備わるよう応援してあげてください。たとえ受験の結果が満足のいかないものになったとしても、自分から学ぼうとする意欲と、決めた勉強を着実にやりこなす習慣がある程度身についたお子さんは、どのような学校に進学しても成果をあげることができます。親がわが子の学びに関われるのは小学生までのことです。悔いの残らぬようサポートしてあげてください。