家庭環境が子どもの学力に及ぼす影響

 このコラムをお読みくださっているかたの多くは、小学生の子どもをおもちの保護者だと思います。みなさんは、わが子の望ましい成長に向けてどのような心配りをしておられますか? おそらく、学力形成面にも高い関心をおもちで、わが子のサポートに熱心なかたが多いことでしょう。

 そこで今回は、家庭環境が子どもの学力にどのような影響を及ぼすかについての調査結果をご紹介してみようと思います。この資料は、ベネッセ教育総合研究所が2007~2008年に実施したアンケートに基づきます。全国の公立小学校の5年生児童2952名、その保護者2744名からの回答をまとめたものです。調査対象が偏らぬよう、大都市圏、地方都市、町村部をほぼ均等にして調査されています。また、調査対象児童の男女比もほぼ半々ずつとなっています。なお、今回の記事は大まかな傾向を見るのが目的ですので、調査の細かい属性については省略していますのでご了承ください。

 まずは、保護者の子どもへの働きかけと子どもの学力との関係について調べた調査の結果をご紹介しましょう。

 上表のA層・D層ですが、これは児童に実施したテストの正答率を上からA・B・C・Dの4段階に分け、最も成績のよかった子どもたちをA層、最も成績の振るわなかった子どもたちをD層としたものです。両者のデータを比較することで、家庭環境の違いが子どもの学力に及ぼす影響の度合いがかなりわかると思います。

 お気づきかと思いますが、保護者の子どもへの接しかたや教育環境の設定の違いは、国語と算数の学力のいずれにも同傾向の影響を及ぼしています。たとえば、最もA層とD層のポイント差が大きい項目は「家には、本がたくさんある」ですが、国語の学力だけでなく、算数の学力にも影響しています。子どもの学力差の要因となっている項目で目につくのは、家に本がたくさんあるかどうかのほか、英語や外国の文化に触れさせているかどうか、小さいころに絵本の読み聞かせをしたかどうか、博物館や美術館に連れて行ったかどうか、ニュースや新聞記事について話をする機会を設けたかどうか、などです。

 この調査を実施したベネッセ教育総合研究所は、上記のデータと保護者へのアンケート結果とを照合したうえで、「A層の保護者は子どもに高い成績や学力を期待しており、子どもが将来『よい学校や会社へ行くこと』『自分の能力や長所を生かすこと』を期待していることがわかる」という見解を示しておられます。こうした保護者の期待が、子どもの養育環境への積極的な働きかけにつながっており、それが子どもの学力にも大いに反映されているということがわかりますね。

 調査結果については、みなさん納得されたのではないでしょうか。子どもにとって、知らない世界にふれたり新規の知識を得たりする経験は掛け値なしに楽しいものです。そういう経験を幼いころからたっぷりとしている子どもは、知ること学ぶことへの高い志向性が育まれますから、国語だけでなく、どの教科の成績もよくなるのは疑いのないところでしょう。加えて子どもの場合、絵本の読み聞かせや読書は活字との接触機会を増やし、読みの能力を磨く体験にもなります。これが学習を快適なものにしてくれるのですね。この資料を見ると、「親の苦労は報われるのだ」ということを痛感せずにはいられません。

 なお、朝食を毎朝摂っているかどうかが学力に影響することに驚かれたでしょうか。脳の活動エネルギーはブドウ糖ですが、1回の食事でつくられるブドウ糖は8時間しかもちません。たとえたくさん食べたとしても、8時間経つと補給の必要が生まれます。ですから、朝食を抜くと、学校に着いた頃には前夜の食事でつくられたブドウ糖が枯渇状態になっており、頭の働きに悪影響を及ぼします。また、朝食の時間を通して経験する親子間のコミュニケーションも、子どもの心の安定や学習意欲に影響するといった側面も、学力に影響するのではないでしょうか。
ここで、もう一つ資料をご紹介します。子どもが家でどのような勉強に取り組んでいるかが、学力にどのような影響を及ぼすかについて調べたものです。この資料も、前出のベネッセ教育総合研究所のアンケート結果をまとめたものです。

 たいていの保護者は、「宿題をちゃんとやりなさい」とお子さんに言っておられると思います。この調査結果を見ると、学校の宿題をよくしている子どもは、学業成績も良好であるということがわかります。宿題を疎かにせず、何よりも優先して取り組んでいると、学習の習慣がおのずと定着するでしょう。それが起点となり、勉強の面白みがわかる→意欲が増す→学習が活性化する→学力が向上する、といったような好循環が生じるのは言うまでもないことですね。

 また、わからない言葉が出てきたときに辞書で調べるかどうかも成績に大きな影響を及ぼしています。「これって、どういうことだろう」という疑問は、子どもの知的好奇心が稼働したことに他なりません。このときこそ、知ることの喜びや醍醐味に触れる絶好のチャンスです。しかしながら、このチャンス到来のときに何もしなければ、子どもの成長につながりません。実にもったいないですね。家に辞書や事典を備えておき、知りたいことがあったときには、お子さんのみならず保護者も「調べてみよう!」とすぐさま行動に移すことをお勧めしたいですね。そうやって、知りたいことをすぐに調べて解決する習慣を身につければ、1年、2年のうちに大きな違いが生じるのではないでしょうか。

 誰にも苦手科目はあるものです。多くの保護者は、お子さんに「苦手をなんとかしようね」と声をかけ、がんばるよう促しておられると思います。上記の調査結果を見ると、苦手な教科に粘り強く取り組むお子さんが成績もよいことがわかりました。

 この資料の結果を見ると、総じてやるべきことを理解し、前向きに取り組む子どもがよい成績を収めているという、あまりにも当たり前のことがわかります。こういう子どもにするにはどうしたらよいのでしょうか。親はつい「やりなさい」と命令口調になりがちですが、これでは子どもの前向きな取り組みは引き出せません。自分のことは何でも自分でするという、生活習慣の自立をまずは大切にしたいですね。そして、そういう姿勢が見えたときには大いにほめる。そういったスタンスでの見守りの地道な積み重ねが大切ではないでしょうか。

 上記資料にある項目のうち、気になるものはありましたか?おそらくお子さんが特定の項目だけ低いというケースは少ないのではないでしょうか。全ては互いに密接につながっているからです。お子さんの生活や勉強の全体を見通し、自発的に前向きに取り組もうとする姿勢を大切にしてください。そうすれば、どの項目も少しずつ上向きに転じていくでしょう。

 小学校の中~高学年になると、一方的な指示や命令で子どもをコントロールするやりかたは子どもの反発を招くだけです。子どもが納得する期待を差し出し、それが行動に反映されたときにはすかさずほめたり喜んだりして、親の気持ちを伝えることが肝要です。この地道な積み重ねが子どもを親の望む方向へ向かわせるのだと思います。自発的な行動の姿勢が育てば、上記の項目のすべてによい兆候が生まれてくるのは間違いありません。

親の働きかけで子どもを変えられるのは小学生まで。今こそ親ががんばるべきときです!