子どもの自律的な行動姿勢を育てるには?

 前回は、ごほうびや評価のもたらすネガティブな側面について考えてみました。ただし、これらがなくなることは決してありません。また、なくす必要もありません。ごほうびや評価の主たる意図は、子どものやる気を刺激して奮起を促すことだからです。うまく生かせば、子どもをがんばらせる効果があるのは間違いありません。

 ごほうびや評価で懸念されるのは、勉強やスポーツなどで成果をあげるために必須の“自発性”が、なし崩し的に失われていくことです。子どもがごほうびを“あて”にするようになったり、よい評価を得るために簡単な課題を選ぶようになったりするからでしょう。ごほうびや評価が親の期待と裏腹な結果を招かないようにしたいものですね。

 そのためのヒントは、前回ご紹介した実験の結果にあります。予期しないごほうびは子どもの自発性をスポイルしませんでした。親の愛情や期待が程よく伝わるようなごほうびを、タイミングを見計らって与えるなら十分な効果があります。また、評価は子どもが自分の取り組みを適正に振り返り、より高いレベルに到達するための指標を得るためにあります。高い評価をもらっても反省点はあるはずですし、低い数値評価(テストの点数や順位など)が下されても取り組み自体は向上している点もあるでしょう。そうした点にも目配りしながら評価すれば、子どもは決して勘違いすることはありません。評価は、子どもの努力の度合いをフィードバックするためにあるのだと考えていただきたいですね。

 さて、ここからが今回のテーマに沿った話題となります。「どうすれば子どもの自発性が高まるか」を、一緒に考えてみたいと思います。まずもって知っておくべきは、自発的な行動は、「自分自身のことは自分で決める。よい結果も悪い結果も自分自身が招いたことだ」という自律性と密接につながっているということです。このような考えを身につけた子どもは、失敗の原因を自分以外に求めがちな子どもよりも、何をするにも高いレベルに到達する可能性が高いのは言うまでもありません。取り組みに主体性があり、実行力が伴うからです。できるならそういうタイプの子どもに育てたいものですね。

 ある研究者は、「自分の勉強を自分でコントロールできる」と思っている子どもは、勉強の結果についての責任も自分にあると考える傾向が強いという実験の結果を紹介しています。アメリカの教育現場での調査も同様の結論を導いています。たとえば、子どもが教師の指導や示唆によるのではなく、自分で何に取り組むのかを決められる環境にいた子どもほど、教室場面での成功に対して、自分の努力や能力を強調する傾向が強かったと報告されています。このことは、自己決定のチャンスをより多く与えられた子どもほど、自律性の感覚を高いレベルで身につける可能性が高いということを裏付けるでしょう。

 上記のことを踏まえると、子どもの自律的行動を促すには、自己決定のチャンスを数多く与えるとよいということがわかります。みなさんのお子さんの日常生活で、自己決定のチャンスを与える機会をもっと与えてみてはどうでしょうか。

 無論、自分が何をどう取り組むべきかを適切に判断できるかどうかは、子どもの年齢によってかなり違ってきます。小学校低学年のうちは、親が子どもに関わる行動について二つ程度の選択肢を示し、子ども自身に選ばせるなどのサポートも必要でしょう。そして、子どもの成長に合わせて自分で判断する範囲を拡大していけばよいでしょう。

 低学年児童の場合、親が勉強の割り振りを全てしてしまいがちです。しかし、できるだけ子どもに「自分が決めたことだ」と思わせるような関わりをしていただきたいですね。それが行動の主体性や実行力を育てるからです。勉強よりも遊びを優先しがちなお子さんなら、「どっちが気持ちいいかな?」、「ご飯を食べた後に勉強して、頭がよく働くかな?」など、子どもに考えさせるような働きかけをすることも必要でしょう。

 高学年児童の場合、行動の自己選択の幅を広げてやりましょう。そして、「あなたならやれるよね」など、信頼の気持ちを伝えてやりましょう。また、自分のやったことを検証し、客観的に振り返る姿勢を身につけるように促したいですね。ただし、まだ子ども任せにはできません。毎週末に一週間の成果と反省を振り返るための場を設けてはいかがでしょうか。それは反省を強いたり、叱ったりするのが目的ではありません。ちゃんとやっていたら、大いに喜びほめてあげてください。それが励みになり、決めたことをやり遂げる姿勢が一層強まるでしょう。

 「~しなさい!」という命令で子どもをコントロールするのは禁物です。それでは子どもに受け身の行動姿勢が染みついてしまい、いつまでも自律的行動姿勢は育ちません。少子化が進んだ今日は、何事も子どもを過保護にしてしまいがちです。そのつけは、子どもが大人になってからの苦労で払わされることになります。「いかに子どもを自律に向かわせるか」ということこそ、今日の家庭の子育ての大きなテーマだと心得ていただきたいですね。子どもの将来の見通しを築ける子育てを!
※今回の記事も前回同様に、「無気力の心理学」波多野誼余夫・稲垣佳世子/著 中公新書599を参考にして書きました。
 

<押さえておきたい!> 子どもに自己決定のチャンスを与えてやりましょう。

1.低学年期の子どもは、自分でやろうとすること自体をほめてやりましょう。
 児童期の子どもは何事も親しだい。親が何を望み、何をほめてくれるかが子どもの人間形成に大きな影響を及ぼします。できるなら、「自分のことは自分でやろうね」と子どもに伝え、子どもがそれを実践しようとしたなら結果に関わらず大いにほめてやりましょう。そうすれば、子どもは何でも自分でやろうとするようになることでしょう。また、何をどうするかの判断も、徐々に子ども自身に考えさせるようにすれば、行動の自律性はより高まっていくに相違ありません。

2.高学年の子どもには、やり遂げたことの達成感を味わわせましょう。
 親に認めてもらいたい、ほめてもらいたいが故にがんばるのが児童期の子どもです。しかし、高学年になるとやり遂げたことで得られる達成感や充実感が子どもにとって物事への取り組みに影響を及ぼすようになっていきます。それは人間として健全な成長を遂げている証拠です。このような兆候を感じたなら、「やり遂げたあとのあなたは、とてもよい表情をしているね!」などと声をかけてやりましょう。そのことが、さらに自律に向けた成長を後押しすることでしょう。