正しい睡眠が優れた頭脳育成に役立つ!

 夏休みも残り少なくなってきました。年間を通じていちばん長い休暇である夏休みは、ちょうど夏の盛りと重なるため、体調管理の難しい時期にあります。したがって、毎日の過ごしかたがどのようであるかによって、心身のコンディションはずいぶん変わりやすく、学習の成果にも影響が少なくありません。規則正しい生活習慣を崩さないようにしましょう。

 ところで、健康にも学習成果にも大きな影響を及ぼすものの一つが睡眠です。公的調査によると、小学生にとっての最適な睡眠時間は8時間 ~ 9.5時間です。睡眠時間は学習成果とも密接にリンクしており、睡眠は少なすぎても多すぎてもよくありません。また、できるだけ決まった時間に決まったパターンで就寝することが大切です。そこで今回は、(中学受験を控えている)小学生が夏を上手に乗り切るための睡眠のありかたを話題に取りあげてみました。

 さて、そもそも睡眠の果たす役割とはどのようなものでしょうか。多くのかたは「体や脳の疲労回復」を真っ先に思い浮かべられるのではないでしょうか。ただし、育ち盛りの子どもたち、それも中学受験準備の学習に励んでいる子どもたちにとっての適正な睡眠という観点に立つと、もう少し厳密に睡眠の役割や重要性を知っておく必要もあるでしょう。

 よく知られているように、睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠という質的に異なる睡眠があります。この2種類の睡眠は、朝の目覚めまで交互に何回か(8時間睡眠なら5回程度)繰り返されています。眠りに入ると、まずはレム睡眠の状態になり、次にノンレム睡眠に変わります。1回の周期に要する時間は、大人で90分ほどだと言われています。子どもの成長にとって大切なのは、この睡眠の周期が適切に繰り返されることです。中学受験生について言えば、学んだことを記憶として定着させ、望ましい覚醒状態でテストに臨むうえでとても重要なことだと言えるでしょう。

 なかには「レム睡眠という言葉はよく耳にするけれど、“レム”ってどういう意味?」と思われたかたもおられるでしょう。レムとは、英語のRapid Eye Movementの綴りの頭(大文字で示した部分)をつなげたものです。日本語で言うと「急速眼球運動」となりますが、この呼称からわかるように、眠っているときに閉じた瞼の下で眼球が頻繁に動いている状態を意味します。このとき、眠りは比較的浅い状態にあります。いっぽう、ノンレム睡眠ではこの活発な眼球運動が収まり、安らかで深い眠りの状態になります。以下は、それぞれの眠りの特徴をご説明したもので、専門家の著作からの引用です。

 睡眠の最初の3時間の中に最も深い眠りが含まれています。いわゆる熟睡です。その後の睡眠では、浅い段階のノンレム睡眠とレム睡眠が繰り返されていきます。最初の深い眠り、すなわち深い段階のノンレム睡眠は、大脳の回復あるいは修復にとって大切なものであり、この時に成長ホルモンが分泌されます。したがって、入眠からの3時間は、子どもの成長にとってとくに大切な時間といえます。この時の睡眠が邪魔されないように気をつけなければなりません。
 これに対し、レム睡眠は大脳の情報の整理あるいは定着に大切だと考えられています。レム睡眠では、脳は覚醒に近い状態にあります。眠りのこの状態にあるとき、起きて活動していた折に学習された情報の整理整頓が行われるのです。睡眠中のノンレム睡眠とレム睡眠の占める割合は、子どもと成人では異なっており、発達的に子どものほうがレム睡眠の占める割合が大きいことがわかっています。新生児や乳児のレム睡眠の割合はほぼ50%ですが、大人になると、20~25%ぐらいになります。

 これを読むと、子どもが大人よりも長い睡眠時間を必要とする理由がわかるような気がしますね。では、上記で参考にすべきことを簡単にまとめてみましょう。

 
① ノンレム睡眠の働き(特に入眠後3時間のノンレム睡眠)
 眠りについてからの3時間のうち、ノンレム睡眠の状態にあるときが脳の休息と回復、体の成長という重要な役割を担っています。したがって、このときに深い眠りにあることが重要です。
 就寝前にテレビやゲームに興じるお子さんはおられませんか?これはお勧めできません。テレビやゲーム機の画面が放つ強い光で脳が興奮状態になり、寝つきが悪くなります。穏やかな精神状態で眠りにつく習慣を築いていただきたいですね。ノンレム睡眠が始まってからの3時間の重要性に着目を!

 

 

 
② レム睡眠の働き
 体は眠って機能を止めているが、脳は覚醒に近い状態で活動している。これがレム睡眠です。
 なぜこのような状態が必要なのでしょうか。毎日の体験がすべて記憶に残されると、脳の記憶容量が追いつきません。そこで、記憶の整理整頓をし、重要な情報を選択して脳に残す必要があります。そのための時間が睡眠中に割り当てられているのですね。
 子どもの場合、大人よりもレム睡眠に多くの時間が必要です。とかく「勉強は長く、睡眠は短く」になりがちですが、十分な睡眠の確保は優れた頭脳育成にもつながるわけです。

 
 

 
 1日24時間のうち、約半分は活動するための時間、残りの半分は眠るための時間として脳にプログラムされています。このバランスが重要です。毎日決まった時間に就寝し、決まった時間に起きる習慣が身についていれば、脳や体の活動水準が常に良好な状態にありますから、何をするにつけても成果をあげやすいと言えるでしょう。近年は大人も子どもも睡眠時間がかなり減っています。よいことではありません。

 中学受験を控えた子どものおとうさんが、「睡眠は時間の無駄だ!」と、わが子の睡眠時間を大幅に削られたという話を聞いたことがあります。また、あるおかあさんは「親も夜中まで働いているのだから、あなたも一緒に起きて勉強をしなさい」と6年生の息子さんに命じられたという話もあります。これらは、子どもの脳の健全な成長や働きにとってマイナスでしかありません。勉強の成果は時間だけでは決まりません。むしろ早寝早起きを励行し、昼間の活動水準を上げ、夜はしっかり眠る。これによってメリハリや集中力の伴う生活を送ったほうが勉強の成果も上がり脳の成長にもプラスになるでしょう。

『充実した一日を過ごせば、幸せに眠れる』 レオナルド・ダ・ヴィンチ

※上記引用文は、「子どもの脳を育てる教育」永江誠司/著 河出書房新社2007 によります。