ネット検索と図鑑の利用をどう使い分ける?

今日の社会において、インターネットは知識を得るために欠かせないツールです。現に私たちは、何か知りたいことがあるとすぐさまネット検索をします。いわゆる“ググる”のですが、もはやこれをしない人はいないと言っていいほど定着しているのではないでしょうか。

 大人だけではありません。小学生の子どもだってインターネットを当たり前のように利用しています。みなさんのおたくではどうでしょうか。お子さんが何かを知りたがったとき、一緒にインターネットを使って調べた経験がおありではないでしょうか。すると、たちまち子どもは自分で検索するようになります(子どもだけのインターネット利用を禁じているご家庭もおありでしょう)。

試しに、「茄子(なす)の原産地」「日本一長い橋」「キリギリスの餌」をネット検索してみました。いずれも、適当に思いつくまま頭に浮かんだ事柄です。予想通り、たちどころに正確な情報が得られました。その便利さに改めて感心させられました。ちなみに、茄子の原産地はインド。日本一長い橋はアクアブリッジで4,424m。キリギリスの餌は、「肉食性が強いのでミルワームやコオロギなどの小型昆虫を餌にするとよい」と説明されていました。さらには、検索した事柄に関わる様々な情報が満載されていました。20~30年前までは考えられなかったことです。

ただし、あまりにも容易に知りたいことがわかるので、「子どもの頭脳形成には貢献しないのではないか」という疑念もわいてきます。探索活動を省き、苦労なく簡単に必要な情報が入手できると、「ああではないか、こうではないか」などと様々に思いを巡らせて思考するプロセスがなくなります。また、いわく言い難い抽象的な意味合いの言葉、たとえば、「神」「平和」「美」などのような言葉は、一言で簡単に説明できるとは思えません。これらの言葉は、数多くの無駄に思えるような体験や調べを通して、状況の文脈に沿った解釈ができるようになるものであり、ネット検索で容易にわかるものではありません。みなさんはどう思われるでしょうか。

そうは言いつつも、インターネット検索はもはや現代人の生活に深く浸透しています。日常で「あれっ?どんなもの(こと)だっけ」と思ったときに、ネット検索以上に助けになるものはありません。現代人は昔の人のようにシンプルな生活をしていませんから、時間の浪費は大きな痛手となります。もはやインターネットは、「頼りになる自分以外のもう一つの頭脳」と化しており、「これなくしては生きられない」と言えるほどです。問題は、安易にネット情報に頼り、子ども特有の好奇心に駆られた探究活動が失われてしまわないよう配慮することではないでしょうか。そのうえで、インターネット検索を上手に利用する方法を子どもに身につけさせることが必要でしょう。

そのために親として配慮すべきことは何でしょうか。まずもって言えるのは、子どもの「知りたい!」という欲求を上手に刺激してやることが必要でしょう。毎日の家庭生活において、「これは何だろうね?」「これについて知っている?」「おもしろいね!」など、子どもの興味や好奇心を刺激する会話を心がけましょう。そして、その会話を突破口にして、ある事象についてより深く知ってみたいという欲求を喚起するのです。ある書物に、「知的水準の高い職業に就いている人の多くは、子どもの頃に親からの熱心な問いかけや語りかけが数多くあった」という調査結果が報告されていましたが、それは頷ける話です。児童期までの子どもにとって、家庭は言葉と知識を得るための基盤形成の場であり、それがあってこそ子どもの物事への興味関心は広がっていくものですから。

こうして、子どもの「知りたい!」という気持ちを刺激しつつ、「じゃ、図鑑で調べてみよう!」と、子どもに働きかけることをご提案したいと思います。さらに深く知りたいことができたら、インターネットで検索すればよいと思います。図鑑は知りたい対象の概論的な説明が整備されています。それを閲覧することで、知りたいことの的が絞れていきます。まずはアナログ的な情報から入り、ほんとうに知りたいことの的が絞れた段階で、専門的な解説に特化したデジタル情報を入手しようというわけです。これなら、子どもの探索行動を減退させることはありません。

おたくには、今何冊ぐらい子どもが利用できる図鑑があるでしょうか。もしもあまり備えておられないようでしたら、一度大きな本屋さんの図鑑コーナーに行ってみることをお勧めします。インターネットでの検索も大いに助けになるでしょう(こういう点でも、ネット検索はほんとうに重宝しますね)。すると、実に様々な分野の魅力的な図鑑があることに驚かれることでしょう。生き物や乗り物、人体、自然、宇宙、健康に関わるもの等々。私が想像もしなかった類の図鑑すらあります。

以下は、小学生に人気の図鑑の一部です。本屋に足を運ぶ時間をつくるのが難しいかたは、ネット検索で今よく売れている図鑑を調べてみるとよいでしょう。

・学研の図鑑LIVE 地球

・学研の図鑑LIVE もののしくみ

・小学館の図鑑NEO 星と星座

・小学館の図鑑NEO 大むかしの生物

・小学館の図鑑NEO いのちの歴史

・小学館の図鑑NEO 宇宙

・KADOKAWA すごすぎる天気の図鑑

ただし、子ども向けとは言え、美しい図や絵、写真を満載しているため、かなりの値段がします。だいたい2,000~4,000円といったところでしょうか。一度に何冊も買うのは難しいでしょう。まずは利用したい図鑑を図書館で探し、借りてみるのもよい方法です。男子と女子ではかなり興味の対象が違いますので、家庭での会話を通してお子さんの傾向を知り、そこから興味の範囲を広げるよう導いてあげるとよいと思います。

先日、物置にある昔の書籍を整理していたら、かつて息子のために買い与えた図鑑がたくさん出てきました。なかには母親の子ども時代から受け継いだものもありました。その多くは荒っぽい利用のためかずいぶん痛んでいました。改めてページをめくってみると、美しい写真やよくできた図解説明に目を奪われ、立ち尽くして見入ってしまいました。日本の出版社の有名な図鑑は、50~60年もの長い間改善が繰り返されているそうです。したがって、ほんとうによくできています。これを利用しないのはもったいないのではないでしょうか。図鑑を親子で楽しみ、わが子の興味の対象を広げてやりましょう。