才能開花の道筋は家庭教育で形成される その1

 暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。長い夏休み休暇は、普段できない様々な体験の機会を与えてくれます。しかし、いっぽうで朝の起床や夜の就寝のサイクルが不規則になったり、学習習慣が乱れたりする恐れもあります。お子さんのご様子に変化はありませんか。夏休み明けには、元気いっぱいで学校再開日を迎えられるよう、生活面や勉強面への目配りをお願いいたします。

 さて、今回は7月上旬に実施したセミナーの内容をご紹介します。このセミナーは、私の元勤務先からの要請で実施したもので、対象は小学1~5年生をおもちのおかあさんでした。なぜおかあさん限定かというと、日本では子育ての大半を母親が引き受けておられるからです。何かと苦労の多いおかあさんを励ます意図で開催しました。参加者同士、テーマに沿って自由に話し合えるよう、座席のレイアウトに融通が利く貸会場を使いました。そのせいか、笑顔の絶えない盛り上がりのある催しになりました。この催しの意図は玉井式の保護者にもリンクするので、今回ご紹介してみようと思いました。

 催しの導入として、有名な遺伝学者の著書にあった、「文明社会から取り残されたアフリカの奥地にも、ノーベル賞級の才能を授かった人は必ずいる。しかし、ほぼ全員がそれに気づかぬまま一生を終えている」というくだりをご紹介し、そのメッセージに込められた意味を考えていただきました。誰にも優れた才能が宿っている可能性があります。しかし、その才能が芽吹き花開く環境が得られないと、せっかくの宝物は誰にも気づかれることなく埋もれてしまいます。

 かつて欧米では、「人間の能力は遺伝よりも才能で決まる」と考えられていました。しかし、現在は「才能と環境の相互作用で決まる」という説が一般的です。実際のところ、人として生まれたからには誰でも高学歴のもち主になれるし、社会で活躍できるだけの潜在的能力をもっています。重要なのは、この流れを意図して築くことです。家庭教育は、この流れを築くための基盤として重要なものです。

 以下、この催しに参加したつもりでこの記事をお読みください。まず上図をご覧ください。学力というと、大概の人は「何をどう学んだら力がつくのか」に目を向けがちです。それは誤りではありませんが、その前に目を向けるべき大事なものがあります。それが、真ん中にいくつか例示している「非認知能力」と呼ばれる諸能力です。これらは学習の効率性や成果に大きな影響を及ぼすうえ、社会に出てからの有為な活動を保障してくれる重要な知力です。この非認知能力を育むのは主として家庭教育です。家庭教育は幼児期からの積み重ねが重要で、そのプロセスにおいて、行動様式や性格、学問適性など、子どもの人となりを形成する役割も果たしています。

 中学受験をお考えのご家庭は、大概2~3年ぐらいはお子さんを学習塾に通わされると思います。その場合も、お子さん自身が自らの行動を適切に律する姿勢を身につけ、主体性をもって受験勉強に取り組む必要があります。お子さんの携えている非認知能力が、学習塾の指導成果に大きな影響を及ぼすからです。勉強を受動的に受け止め、学習塾の指導についていくだけでは十分な成果は見込めません。

① 主体的な行動様式を備えた子どもにする
 ここから、セミナーのテーマに基づいた話に移ります。ある私立一貫校の掲示板に「基本的生活習慣の確立」という大きな張り紙がありました。「進学校の生徒に、今さらこんな呼びかけをするのか」と訝しく思い、先生に理由を尋ねました。すると、「これが勉学の取り組みに影響するからです」という返事が返ってきました。さらに、「母親に起こしてもらっているような生徒は、遅刻したらそれをおかあさんのせいにしてしまいます。そんな生徒が自立した勉強などできるはずがありません。親はお節介しないことです。遅刻して恥をかけば、子どもは自分で起きるようになります」とおっしゃいました。

 今日の少子化社会では、子どもは甘やかされがちです。この現実を踏まえるなら、「子どもの主体性や自律性は自然と育つものではなく、親が意図して育てるべきものだ」と考えるべきではないでしょうか。その大前提となるのは、「生活上、自分のことは自分でする」ということです。これが当たり前になってこそ、人間としての主体性や行動の自律性も備わってくるのだとご理解ください。

 みなさんのお子さんの現状を振り返ってみてください。毎日の生活で、自分のことは自分でする習慣は確立していますか? 1.朝、自分で起床しているか。2.学校で必要なものの準備はできるか。3.衣服の支度や着替えは自分でできるか。4.宿題は、その日のうちにやり終えているか。5.机の上の整理整頓はできているか。これらについて、振り返ってみてください(低学年児童の場合、こういった事柄が自立の方向へ向かいつつあるかどうかという視点で結構です)。

※セミナーでは、テーブルごとにおかあさん同士で「基本的生活習慣」の自立状況について話し合っていただきました。苦労している点やうまくできている点を披露し合ったり、互いにアドバイスをしたりすることもお願いしました。部屋中に、おかあさんがたの話し声が響き渡る楽しいひとときとなりました。

 前半の話題の最後は、ある問いかけについて全員で考えていただきました。それは何かというと、子どもの行動の主体性や意欲を育てるうえで、A.「親が子どもの行動をほめるのと、B.子ども自身のやり遂げた喜び・達成感を味わうのと、どっちが有効かというものです。みなさんはどう思われますか?

 会場で挙手をしていただいたら、何とほぼ全員がBをお選びになりました。無理もありません。それが理想だからです。しかしながら、正解はAです。児童期までの子どもは、自分の内なる評価よりも親の評価のほうが自己肯定感やモチベーションに強い影響を及ぼします。だからこそ、親は子どもの様子をよく観察し、タイミングよくほめることが大切なんですね。このことの繰り返しで、子どもは何をしたら親が喜んでくれるのかを知り、その行動を積極的に実行し、やがて自分自身の価値観や行動様式にしていくのです。昔は大家族が一般的で、親の手が回らなくても誰かが子どもの自立を促すサポートをしてくれました。ですが、今日は親が家庭教育の一環として意図的に働きかける必要があるのです。
 

<押さえておきたい!> 子どもの能力開花の鍵は家庭教育が握っています。

1.家庭教育が育む非認知能力が、子どもの知力の源になります。
 人間なら誰でも高いレベルの学力を獲得し、社会の一線で活躍できる可能性をもっています。問題は、個々が有している可能性を顕在化するための環境を用意することです。その役割を担い、才能開花の流れを築くのが家庭教育です。家庭教育で育まれる能力のなかでも注目すべきは「非認知能力」です。具体的には、行動の主体性や自律性、自己抑制力、やり抜く力、段取り力、コミュニケーション力などですが、これらの大半は幼児期~児童期の家庭教育で育まれます。

2.子どもの非認知能力は、親のたゆまぬ観察と働きかけで育ちます。
 たとえば、子どもの主体性や自律性も非認知能力の代表的なものですが、これらは高い知性を獲得するうえで必須であるだけでなく、人生の歩みにも多大な影響を及ぼします。しかし、特別な能力ではありません。親が毎日子どもをよく観察し、望ましい行動や態度をほめることをくり返せば、子どもは自己肯定感を育むことができ、前向きな性格の人間に育つでしょう。それが行動の主体性や自律性の涵養へとつながります。毎日の家庭教育を大切に!

※上記催しは、除菌や換気などのコロナ対策を施した貸会場を使用しました。また、参加者には検温とマスク着用を徹底し、座席間の距離を十分にとって実施しました。