子どもが自ら学ぶ姿勢を身につけるには

 今回は、小学生(中~高学年)の子どもをもつ保護者が抱えがちな悩みを話題に取り上げました。それは何かというと、「どうしたらもっと自発的に学ぶ子どもになるか」という問題です。おたくではどうでしょうか? 決めた時間になったら、親が何も言わなくても勉強を始めておられるでしょうか。ゲームやテレビ視聴を切り上げ、やるべきことへの切り替えができているでしょうか?

 この問いかけは意地悪かもしれません。中学受験をめざす高いレベルの学力を有する子どもの家庭ですら、この種の悩みと無縁ではないからです。だいいち、保護者からの相談が多いことが現実を裏付けています。どうして自発的に学ぶ姿勢は育ちにくいのでしょうか。勉強は本来おもしいものであり、ゲームやテレビ、漫画、アニメなどとは比較にならないほどの充実感を与えてくれます。しかしながら、子どもがそれを理解するまでが厄介なのです。残念ながら、大半の子どもがその域に達する前で留まっているのです。ゲームやテレビなどは簡単に楽しさや喜びを提供してくれます。そこが難しいところです。

 また、親は遊びにかまけているわが子を見ていると黙っていられません。「早く勉強しなさい!」「まだ宿題やっていないの!?」とやってしまいがちです。その結果、親の期待と裏腹な勉強嫌いを生み出しているケースもあるでしょう。自主的に学ぶ取り組みを期待しているのに、叱って勉強に取り組ませようとする。これは矛盾以外の何物でもありません。どうしたらよいのでしょう。

 ご存知かと思いますが、学びの動機づけには、外発的動機づけと内発的動機づけがあります。外(主に大人)からの働きかけによるのが外発的な動機づけで、子ども自身の欲求に基づくのが内発的動機づけです。保護者の多くは、後者による勉強を期待しておられると思います。しかし、現実はままならぬようです。他律から自律へ、どうしたら状況を逆転できるのでしょうか。学者によると、外発的動機づけによる勉強から、内発的動機づけによる勉強に移行することは十分に可能です。ただし、一足飛びには変われません。そこへ至るにはいくつかの段階があると言います。以下を見てください。

 上表を見ると、外から(例:親から)の働きかけで学ぶ状態から、自らの積極的意志で学ぶ状態に至るには、4つのステップがあります。まず①を見てみましょう。これは大人に促されて宿題などに取り組む段階です。これが上表の「外的制御の段階」です。この段階においては、まだ内発的な動機付けの要素はほとんどなく、外からの働きかけで受動的に勉強しています。

 児童期の子ども(特に低~中学年)は、ちゃんとやったことは親に認めてもらいたいと望みます。親に促されて勉強した子どもも、やったからには「親に認められたい」と思います。その希望が叶うと子どもは喜び、「つぎもがんばろう」という意気込みが湧いてきます。これが、②の「取り入れの段階」です。まだ勉強の大切さ、勉強から得られる充実感に基づく状態には至っていませんが、親の承認を励みにして多少は前向きに勉強するようになっていきます。そこにわずかながら自律性の萌芽が見て取れますね。

 こうして、徐々に勉強が軌道に乗り、勉強が継続的なものになると、やがて子どもは勉強のおもしろ味に気づくようになり、「勉強は必要なものだ」「やるだけの価値がある」と感じるようになっていきます。これが③の「同一化の段階」です。「がんばれば、自分はもっと勉強のできる子になれるかもしれない」「ちゃんとやっていけば、よい学校に進学できるかもしれない」などと、今やっている勉強を肯定的にとらえ、進んでがんばろうとする姿勢が見えてきます。

 さらに勉強が活性化するにつれて、勉強という行為から得られる喜びや充足感に大きな価値を見いだし、誰に言われなくても率先して勉強に打ち込むようになります。これが④の「統合の段階」です。まさに内発的動機づけに基づく勉強の域に到達したのです。ここに至った子どもは、勉強のもつ意味や本質を理解していますから、先々までも学び続ける姿勢を失うことはありません。

 親にとって配慮や工夫が求められるの①と②の段階です。子どもに手をかけ過ぎても手を放してもいけません。常に見守り、子どもに何を期待しているのかを伝え、取り組みを見守り、承認を怠らないようにする必要があります。4年生頃までの子どもは、まだ自発的な学習姿勢が確立しておらず、勉強の方法もわかっていないのが普通です。少なくとも毎日の取り組みの際、前半は親がそばで見守ったり、一緒に取り組んだりしながら、勉強の段取りや流れが身につくようサポートしてやらねばなりません。この段階からの脱却こそ、親が勝負をかけて取り組む重要課題なのだと心得ていただきたいですね。

 もうすぐ夏休み。親子一緒の時間がいつもより多く確保できると思います。子どもの勉強の様子を見守り、がんばりを見逃さずに承認したりほめたりしてやりましょう。期待通りにがんばっていない場合でも、できる限り小言や命令を避け、計画に沿って家庭勉強を遂行できるよう温かく励ましてあげてください。もしも、取り組みに少しでも積極性や自発性が感じられたなら、「自分から進んで勉強しているね。感心だね。おかあさんは、それがうれしいよ」と大いにほめ、喜んであげていただきたいですね。

 大人であれ子どもであれ、よいことをしているときには「これは、自分から率先してやったことだ」と胸を張りたい気持ちになるものです。その気持ちを理解し、言葉や態度で示してあげると、子どもはより前向きに学ぼうという気持ちを高めるでしょう。そこに、親の働きかけで子どもの学びの自発性を高めていくためのヒントがあるのではないでしょうか。

 
<押さえておきたい!> 自立勉強は、親の愛情と後押しあってこそ!

1.自発的な学びの姿勢は、親の辛抱強い見守りと応援の賜物です
 自発的な学習姿勢は、一朝一夕にできあがるものではありません。問題を解決したり発見の喜びを味わったりする経験を繰り返すことで、少しずつ形成されていくものです。そのプロセスにおいては、親の関わりが欠かせません。学びの自発性は、過保護過干渉でも、子ども任せの放任でも身につきません。親が勉強に興味をもたせ、取り組みを承認し、励ます。そういった親の愛情深く根気強い応援が欠かせないのだと心得てください。

2.まずは、命令や指示による勉強と決別を!
 子どもは大人のような完成形に至っていません。やることとなすことが不完全なのは当たり前のことです。しかしながら、だからと言って親が手を貸したり、叱ってやらせたりしたのでは、いつまでも自立しないし、自ら学ぼうという姿勢も育ちません。まずは、親が命令や指示でやらせる勉強から脱却することが大切です。無論、放任はもってのほか。勉強のとりかかりに付き添い、段取りを教え、一緒に考えてやりながら、自分で勉強していくためのすべを身につけさせてやりましょう。そうして、ちゃんとやれたことをほめ、徐々に手を放していくのです。上表の①と②の段階を、まずは突破しましょう。

※上表の作成にあたっては、「日本の15歳はなぜ学力が高いのか」ルーシー・クレハン/著 早川書房2017、「学ぶ意欲の心理学」市川伸一/著 PHP新書2001 の著述を参考にしました。