命令・禁止・否定の言葉にサヨナラを!

 今回は、家庭で使用する言葉が子どもの知的能力や人となりを形成するうえで大きな影響を及ぼすということを話題に取り上げてみました。みなさんのご家庭の現実に照らし、多少とも参考になる点があれば生かしていただきたいと存じます。

 子どもは親の期待通りに行動してくれないものです。「子どもは、親の我慢の限界を試すような行為に及ぶものだ」という専門家の指摘がありますが、幼児期までは特にその傾向が強いようです。わざと叱られるようなことをして、「見て、見て、私を!」と、親の気を引こうとしているのでしょうか。それとも、親の愛情を確かめようとしているのでしょうか。しかしながら、こういった行動は子どもの成長とともに収まります。みなさんのお子さんはどうでしたか?

 いっぽう、小学校の中学年以降になると子どもも自分なりの考えをもち、親の言うことが意に沿わなければ口答えをするようになります。また、親の期待に反すると知りながらそのときの気分に任せた行動をとることも増えていきます。その様子を見かねて、「早く勉強しなさい!」「ゲームをやめなさい!」「あなたは何をしてもいいかげんね!」と命令や禁止、否定の言葉を我知らず口にしてしまうことはありませんか? こんなとき、子どもは自分をコントロールしようとする親の意図を感じ、自分が悪いと知りながらも反発します。そしてますます事態は親の望まぬ方向へ向かっていく。気がつけば、命令や禁止、否定の言葉が家にあふれかえる。――そんなことにならないようにしたいものですね。

 子どもを思うが故とは言え、命令や禁止、否定の言葉の裏には感情の高ぶりがあります。子どもの側も気分がよくありません。それが親子互いの思いを落ち着いて伝え合う雰囲気をぶち壊しにしてしまいます。このような言葉が飛び交う家庭で育った子どもが、理性に基づいて自分の行動を適正に選択できる人間になれるでしょうか。おそらくは難しいでしょう。また、子ども時代の親とのやり取りは原体験として子どもの脳に刻み込まれますから、親から受けた対応をそのまま再現してしまう恐れが多分にあります。それ以外の方法を知らないのですから当然のことでしょう。

 親が留意すべき重要なことの一つは、自分でどうすべきかを考え、行動を適正に選択しようとする姿勢、言い換えれば思慮深さを子どもに植えつけることです。上述のように、命令や禁止、否定の言葉で子どもの行動を制御しようとすると、子どもの自発的行動や自律の姿勢が育ちません。私はかつて中学受験の専門塾で学習指導の仕事をしていましたが、親が過剰に子どもの勉強に関わり、指示や命令で子どもの勉強を取り仕切る例を多数見てきました。未熟な小学生の受験勉強ですから、親の気持ちはよくわかります。しかし、それも程度の問題です。過剰な介入を受け入れても受け入れなくても子どものためになりません。中学高校生になってから苦労するのは目に見えているからです。

 では、どうしたらよいのでしょうか。上述の受験勉強の例に沿って言うと、親からの命令や統制による受け身の取り組みではなく、やるべきことを自分で考えて自ら取り組む勉強のほうが成果も喜びもはるかに大きいことを実感する体験をさせることに尽きるでしょう。そこで、このような方向に子どもを向かわせる方法を一緒に考えてみましょう。

適切な行動を選択できる子どもにするための働きかけ



 何かをする場合、予め子どもにどうすべきか考えさせるよう働きかけましょう。どうすべきかを考えるとき、子どもは必ず「どうしたいか」という欲求だけでなく、「どうすることが望ましいか」「親はどうすることを望んでいるか」も意識します。また、親から命じられたのではなく、自分が行動を選択するのだという意識が、行動の自発性や自立性につながります。
 もしも子どもが安易な選択をしたり、いい加減な考えをしていると感じたりしたなら、問題点を感想として伝え、もう一度考えるよう促しましょう。






 子どもの失敗の原因が、自覚の欠如や努力不足によるものとわかっていても、それを親から先に指摘して叱るのは避けたいものです。子ども自身の自覚や反省につなげなければ同じ失敗が繰り返されるだけですから。
 親はじれったいかもしれませんが、まずは「どうしてうまくいかなかったんだと思う?」など、失敗の理由を子どもに振り返るよう促しましょう。そして、「どうすべきだったのか」を子どもと一緒に考え、「つぎは同じ失敗をしないぞ!」と子どもに意気込みをもたせるよう導いてやりましょう。この我慢がきっと功を奏します。






 親の愛情深い励ましや言葉かけは、他の何にも増して子どもの心に響くものです。
 たとえば、テスト結果が思わしくなかったとき「残念だったね。でも、おかあさんは、あなたがよくがんばっていたのを見ているよ。つぎはだいじょうぶ。めげずにがんばろう!」と励ましてあげていただきたいですね。「こんな成績じゃ、ダメね」と親から言われるのと、どちらが子どもの奮起につながるかは明白でしょう。
 無論、努力不足なら上述のような励ましはできません。②のような対応で粘り強くフォローしてやりましょう。




 子どもを評価する際に重要なのは一貫した基準と姿勢です。成績がよかろうと悪かろうと、「やるべきことをやっていたかどうか」をまずは振り返りましょう。そして、成績がよくても努力していなければ、③の場面などにおいて、「成績がよくてよかったね。でも、ちゃんとやっていたかしら?おかあさんには努力が少し足りないように見えたよ。もし、決めたことをちゃんとやっていたら、もっとすごい結果が得られたんじゃないかな?」などと言葉をかけ、「結果よりも努力」の方針を子どもに伝えることが必要だと思います。

 親子が一緒にいる時間が多い児童期は、子育ての仕上げ期としても欠かせません。勉強だけでなく生活面全体を見通し、親の方針を一貫して貫きたいものです。子どもは、親から授けられた考えかた、行動様式に基づいて成長していきます。そのことを胸に、お子さんと共に生活する日々を大切にしていただきたいと存じます。