結果が伴わないときこそ、親の対応が問われる

 児童期は、人としての基本的な枠組みが形成される時期にあたります。どんな人間になるかにおいて、特に大きな作用を果たすのは、毎日絶え間なく繰り返されている行為だと言われています。たとえば睡眠や食事、家庭内会話、学習の取り組み、着替え、学校のしたくなどがそれにあたるでしょう。これらについてよい習慣を身につけておくと一生の財産になります。

 さて、みなさんのお子さんは、月当たりどれぐらいテストを受けておられますか? 学習塾に通っておられるお子さん、まして中学受験をめざしておられるお子さんなら、その頻度はかなりのペースであろうと思います。学習したことがどの程度定着しているか、また、同じ目標をもつ集団の中でどれぐらいの位置にいるかを知るうえでテストは欠かせません。このテスト経験もまた、子どものものの考えかたや生きかたを形成するうえで、少なからぬ影響を及ぼすものだと言えるでしょう。

 ご存知のように、テスト後には「点数」が提示されます。子どもの現在地を把握するための「順位」も知らされます。学校のテストなら得点のみが指標となりますが、入試では一人ひとりの学力に優劣をつけなければなりません。そこで相対的評価基準(順位など)が必要になります。ただし、100人テストを受けたら1番から100番まで存在します。したがって、励みにもなればショックを受けることにもなります。もしもおたくのお子さんが、思わぬ悪い点数や順位を取ってきたら、どのように対応されるでしょうか。現に、そういう経験を何度もされている保護者もおられるでしょう。点数や順位を突きつけられる経験は、小学校卒業後も数多く繰り返されます。テスト結果をどう受け止めるかは、子どもたちの人間性や人生の歩みにも少なからぬ影響を及ぼしかねません。

 たとえば、よくない成績が続くとたいていの人間は「自分は能力がない」というレッテルを貼りがちです。それは妥当な考えかたでしょうか。やるべきことを準備していなかったから成績が悪かったのかもしれません。テストに出される問題は、きちんとした手順を踏んで学んでいれば大概はクリアできる水準のものです。やらなければ期待通りの結果が得られないのは当たり前のことであり、能力だけに目を向けるのは妥当ではありません。先々の人生まで見通すと、うまくいかないのを能力のせいにするような価値観を染みつかせるのは子どもにとってよくありません。

 ところが、親自体が我知らず子どもにそういった観念を植えつけてしまうような言動をしていることがあります。たとえば、期待とかけ離れた成績をわが子がとり続けたとき、「あなたは全然だめね」「やる気があるの?」「どうせまたさぼっているんでしょ」などと口走ってしまったことはありませんか? 多くの場合、子どもは親の愛情や期待を理解していますから、「おかあさん、怒っているな」ぐらいに受け止めるでしょう。しかし、成績不振が続いたり、それがもとで親子喧嘩を繰り返したりしていると、子どものやる気や自信がなし崩し的に失われていくことになりかねません。「ちゃんと努力をしていたかどうか」を振り返らせ、努力を怠らない人間になることが親の願いなのだということをぜひ繰り返し伝えてあげていただきたいですね。そこで、テストへの望ましい向き合いかたについて例を挙げてみましょう。

 上記のような受け止めかたをすれば、失敗を能力不足のせいにするような人間にはならないでしょう。やったことはすべて自分に跳ね返ってくる。努力すれば相応の手ごたえが得られるし、努力を怠れば成績は素直にそれを伝えてくれる。そのことをまずはお子さんと一緒に確認し、「努力の人であり続けよう!」と、お子さんを励ましてあげていただきたいですね。中学受験生が入試を見事に乗り越えて合格を得たとき、「『努力はきみを裏切らない!』を合言葉にがんばりました。ほんとうに努力してよかったです!」などと喜びの声をあげているのを何度も見た経験がありますが、児童期にそれを心から実感したことも、そのお子さんにとって得難いすばらしい体験となったことでしょう。

 ところで、何事もあきらめずに努力を続ければ、やがては自分の思い描くレベルに近づいていけるということが、近年の脳科学の進歩によって明らかにされつつあります。たとえば、高校生になった子どもでも、努力の継続によって知能のスコアが向上することが確認されています。具体的には、数学の学力が伸びた生徒は、脳の中でも数学に関連する領域が強化されており、英語の学力が伸びた生徒は、言語に関する脳の領域が強化されていたのです。また、新しい課題を克服しようとがんばっていると、脳はそれに応じて変化することも確認されています。さらに、脳は完全に「固定」してしまうことは一瞬もなく、生きている限り、神経細胞は互いに新しい結合を増やし、既存の結合を強化する能力をもっていることが明らかにされています。つまり、人間の脳は常に進歩発展する可能性をもっているのです。こうした所与の能力を信じ、「やればいずれ何とかなる」という楽観的な信念を子どもに授けてやりたいものですね。

 もう一度同じ場面に戻りましょう。親は子どもが散々なテスト成績をもらったとき、つい「これはいったいどういうことなの!?」と怒鳴ったり問い詰めたりしたくなるものです。しかし、「あれ?今回はやらかしてしまったね。うーん、残念だね。どうしてこうなったんだと思う?」などとフォローしたならどうでしょう。子どもはそんな親の対応に落ち着きを取り戻し、自分なりの振り返りをする心理的余裕をもつことができるでしょう。また、「つぎはがんばるからね!」と奮起するかもしれません。

 親は「きっとできる」という信念をもち、それをどんなときにも一貫してもち続け、常にわが子を信じて励ましてやりましょう。いきなり変わることはできませんが、少しずつ向上することは間違いありません。そんな親のもとにいる子どもは幸せではないでしょうか。どんなときにも自分の味方であり、自分を信じている人がいる。それも自分の親なのですから!そして、そんな親のもとで育った子どもは、自分の可能性を見限ることなく、前を向いて努力を続けることができるでしょう。