児童期前半の重要な学習 ③ 算数の感覚的素養を磨く

今回は、「児童期前半の重要な学習」と題したテーマの3回目となりますが、算数の感覚的素養についてお伝えしようと思います

理系の学問には、知識や思考では対応できない領域があります。たとえば、中学受験の算数でおなじみの図形や速さなどの単元で求められる感覚的素養などがそれにあたるでしょう。考えて対処するのではなく、瞬間的に識別したり反応したりする能力のことで、‟センス”や‟閃き”などと呼ばれているものです。心理学では、“神経系の知能”とも言われています。

この種の能力に自信がない人は、解法知識を詰め込んだりパターンを記憶したりすることで答えを引き出そうとします。しかしながら、よほど類似した課題が出ない限りその努力は報われません。「あんなに勉強したのに」と、がっかりすることがほとんどです。「自分もそれで苦労した」とおっしゃるかたもおられることでしょう(不快な過去を思い出させたならすみません)。

たとえば、こんな経験をしたことはありませんか? 中学校数学において、入り組んだ図形のなかに補助線を引くことで解決できる問題があります。これを解くにあたり、筆者などは「どこに補助線を引いたらよいか」と、図形を点検しながらあちらこちらに線を入れてみたりします。しかし、専門家によると「そういう人はセンスがない」のだそうです。センスに恵まれた人は、図形を見た瞬間に「ここにあるべき線がない!」と反応します。どこに線を入れたらよいかを検討するのは思考を働かせることに他なりません。そうではなく、反射神経的に見抜くべきものなのです。

このような能力に対応する知能は、思考や記憶などを稼働させる「※1結晶性知能」とは異なるもので、「※2流動性知能」と呼ばれています。言語が介在しない(思考を伴わない)知能なのです。

ここで誰しも思うことは、「流動性知能は生まれつきの才能なのか」ということではないでしょうか。専門家の文献をあたってみると、流動性知能は幼児期から9歳前後までの生活や遊び、学習体験によって誰でも伸ばせるもののようです。
また、「理系の学問は男子に適性があり、女子は苦手にしがちである」という見かたがありますが、これはほんとうなのでしょうか。

実は、女子に適性がないのではなく、幼児期からの遊びの志向性の違いが主要な原因の一つだと言われています。男子は動くもの、組み立てたりバラしたりするものに強い興味を示し、おもちゃの自動車や積み木などで飽くことなく遊びます。それに対し、女子は静かで動きの少ないもの、色彩豊かなものを好むという違いがあります。たとえば、塗り絵や着せ替え人形遊びなどです。その結果、流動性知能の発達に男女差が生じるのです。

また、「女子は理系の科目に弱い」「女の子に専門的な知識や学問は不要」といった、古くから日本社会に存在する思い込みや偏見が、理系科目への取り組みに影響し、結果として「男子のほうに理系に強いタイプが多い」といった現象をもたらしているという指摘もあります。しかし、今や時代が大きく変わり、理系分野に強い女性が産業界で求められていますし、「女性に学問は不要」といった偏見も随分薄れています。むしろ学業面全体を見ると、女子のほうがまじめに勉強するために総じて成績がよく、「女子のほうが優秀だ」と言われています(この傾向は大学受験などで如実に表れていますね)。これからは、理系分野での女性の台頭は大いに期待できるのではないでしょうか。

さて、ここでもう一度確認しておきたいことは、流動性知能が最も発達する時期は、幼児~9歳前後までだということです。この時期の体験次第で子どもの流動性知能の伸びは大きく変わります。それを生かさない手はありません。そこで玉井式の話になりますが、玉井式の学習教材は流動性知能の発達期にピタリ符合しています。アニメーションの特性(画面を自在に動かせるなど)を生かした学習は、子どもたちの興味を引くだけでなく、形あるものの瞬間的な識別や、空間把握能力、動くものへの反射神経的な反応力を磨いてくれます。大いに生かしてほしいですね。

なお、結晶性知能は思考や判断、知識、記憶など、言語と深いつながりがあります。資料でもわかるように、この知能はかなり高齢まで伸ばせますが、12歳の時点での中学受験を考慮すると、「児童期前半の重要な学習①」でお伝えしたリテラシーの基盤形成は必須事項です。また、流動性知能は誰でも人生のピークが15歳頃であり、後から伸ばすことはできません。上記グラフの発達カーブをみてもわかるように、9歳前後頃までが才能開発のチャンスです。このタイミングを生かした学習が必要です。
※1.結晶性知能:経験や学習で培ったものが結晶化し、以後の知的活動に生かされる知能。言語性の知能。ほとんどの学問分野で必須の知能。
※2.流動性知能:予期せぬ状況に対応して流動的に働く知能。言語や思考が介在しない神経系の知能。理系の学問の特定の領域で欠かせない。
※3.結晶性知能と流動性知能の発達グラフは、「『頭のでき』 リチャード・E・ニスベット/著」より引用しました。

<押さえておきたい!> 算数の感覚的素養を磨く方法は?

1.レゴ®やタングラムで遊ぶ経験も有効です
形あるものに触れたり、組み立てたり、バラしたりする経験は、流動性知能の発達に効果的な刺激を与えてくれます。遊びのような感覚でよいのです。夢中で取り組む体験が脳に刺激を与えてくれるのですね。レゴ®やタングラムなどの遊具や教具を購入され、お子さんの自由に使える時間にたっぷりと触れさせてあげてください。お子さんに備わっている資質が、自然と磨かれるでしょう。

2.理系に強い女の子を育てるには!?
玉井式の講座は、流動性知能を磨くうえできわめて有効であることがわかっています(特に女子)。私が勤務していた学習塾では、玉井式出身者が高学年に達したときのテスト結果をみると、図形や速さなどの単元で大いに強みを発揮しています。お子さんに、理系の学問での感覚的素養を身につけてほしいと願っておられるなら、「図形の極®」や「国語的算数教室®」をご利用になるほか、1でお伝えしたような遊具や教具などを使った体験をさせてあげるとよいでしょう。

児童期前半の重要な学習 ③ 算数の感覚的素養を磨く” に対して1件のコメントがあります。

コメントは受け付けていません。