子どもの“聞く耳”をどう育てるか

 近年、子どものコミュニケーション能力が低下しつつあるという指摘をよく耳にします。特に、「人の話を傾聴する」ということができない子どもが多く、それが様々な問題を引き起こしていると言います。おたくではどうでしょうか。今回は、どうしたら人の話をきちんと聞けるようになるのかについて考察してみようと思います。

 聞く耳をもたないことは人生における大きな損失ですが、子ども時代に懸念されることをまずは考えてみましょう。なんと言っても影響するのは勉学面でしょう。学校や塾での授業がきちんと機能しません。何しろ、先生の話をろくに聞いていないのですから、わかるはずがありません。家庭での勉強も学校や塾で学んだことをベースに進めていきますから、はかどらないに決まっています。家族や友達との会話においても、相手の言っていることを受け止めることができないと、正確な意思疎通ができないため、心を通じ合わせることができません。こういう子どもは、往々にして自分のしゃべりたいことを一方的に話す傾向があり、クラスの仲間や友達から「あいつはわがままで、自分の言いたいことだけしゃべる」などと煙たがられている恐れもあります。

 実際のところ、親から見て特別聞く姿勢に問題があると感じるほどの子どもはそんなにはいないでしょう。毎日生活を共にしている親子なら、会話を交わさずとも互いの言いたいことがある程度わかります。そこで、多少問題があるくらいでは親もわが子の抱える問題点に気づかない可能性もあるでしょう。一度、お子さんの現状を冷静にチェックしてみてはいかがでしょうか。今回の記事が、お子さんの対人対応のありかたを捉え直すきっかけになったなら幸いです。

 では、子どもの聞く耳を育てるために、親としてどんなことに配慮したらよいでしょうか。思いついたことをいくつか箇条書きにしてまとめてみました。

① まずは、親がわが子の話を聞いているかどうか振り返る。
 家事などに追われているとき、子どもが「おかあさん、あのね・・・」と話しかけていることがあると思います。そんなとき、多くのおかあさんは「あとで!」とおっしゃるでしょう。ところが、そのままわが子が話しかけてきたことを忘れてしまうかたが多くおられます。そんな傾向はありませんか?
このような親の対応は子どもにてきめんに影響します。すなわち、「人の言うことは聞かなくていいよ」ということを、身をもって教えているに等しいのですから。

② 子どもを主役にし、勝手放題しゃべらせていないかどうかを振り返る。
 少子化がすっかり定着した今日において、家庭内の会話においては必然親子間のやり取りの比重が高まります。その際、親が一方的に指示や命令を伝えたり、逆に子どもが言いたいことを勝手にしゃべったりするなど、一方通行の会話になる恐れもあるでしょう。おたくではどうでしょうか。
欧米では、子どもが小さいうちは大人の会話に割り込むことを戒め、まず人の言うことに耳を傾けるようしつけると聞いていますが、日本では子どもを会話の主役にし、好き放題にしゃべらせる傾向があります。このような環境で育つと、人の話を傾聴せず、自分のしゃべりたいときに他者への配慮無しに口をはさむ習性が染みついてしまう恐れがあります。現状を振り返ってみてください。

③ 会話のときには、互いの目を見て話すよう心がける。
 親子の会話の際は、互いの目を見て話をするようにしましょう。昔から日本人は相手の目を見て話すのを避ける傾向があると言われています。これはシャイな国民性や相手への敬意の表れによるものかもしれませんが、近年はだいぶ認識も変わりつつあるように思います。
親が子どもの目を見つめて話をすれば、子どもも「おかあさんは真剣に話をしているんだ」と受け止めますから、しっかりと耳を傾けるでしょう。また、自分の気持ちを伝える際も、おかあさんの目を見て話すとなると、いい加減な話しかたはできなくなります。こういう会話の積み重ねが、コミュニケーションの大切な基本を浸透させることになります。

④ 子どもの話を頷きながら聞いてやる。
 自分が話しているときに、相手が頷きながら聞いてくれると会話に活気が生まれます。自分の話に同調し、肯定的に聞いてくれているという手ごたえが感じられるからでしょう。そうなると必然、相手が話をし始めたとき、今度は自分が頷きながら聞くようになります。
家庭での親子の会話のとき、おかあさんには子どもの話に頷きながら耳を傾けてあげてほしいですね。このときのおかあさんの姿はミラーリング効果を引き出します。すなわち、おかあさんの聞く姿勢を子どもはそのまま写し取って自分のものにするのです。

 生活態度や勉強への取り組みなどにおいて、親はわが子にいろいろと言い聞かせる場面もあるでしょう。せっかく心を込めて伝えているのに、子どもがきちんと聞いていないと残念ですし、おかあさんの努力も無に帰してしまいます。そんなことにならないために、ちょっと気を付けるべきことがあります。それは、「今、おかあさんは何て言ったかな? もう一回言ってみてくれないかな?」などと反芻させるのです。ただし、聞いていなかったとしても腹を立てて叱るのではなく、もう一度同じことを伝え直してやりましょう。そうして、再び反芻させるのです。はじめはいい加減にしか聞けなかった子どもも、これを繰り返すことで聞く耳をもつようになるでしょう。

 このほかにもいろいろと効果のある方法はあると思います。大事なのは、「ちゃんと聞きなさい!」と子どもに命じるよりも、おかあさん自身が会話の手本を示すことだと思います。感情的にならずに、聞きかたのレッスンを根気よく継続するぐらいの気持ちで接してやりましょう。そのほうが子どもも素直に受け入れるし、自分のものとして身につきやすいのではないでしょうか。今回お伝えしたことのなかに参考になる点があったら試してみてください。