子どもへの関わりかたを振り返ってみませんか?

 6月になりました。毎年この時期になると蒸し暑くなり、体もだるく感じることが多いですね。規則正しい生活や、行動のルーティンをしっかりと確立していた子どもはさほど心配要りませんが、生活習慣が乱れがちだったり、自律に基づく行動が不十分だったりした子どもは、この時期になるとやるべきことへの取り組みが乱れがちです。おたくのお子さんはどんな様子でしょうか?

 今回の話題は、中学受験生のおかあさんから受けた相談がもとで、家庭での親子関係の重要性について思い知らされたことがあり、それについて書いてみようと思います。お伝えする内容は前回と通じるものがあります。重要なことなので、今回は具体的な話に基づいて再び一緒に考えていただけたらうれしいです。同じように受験をめざしておられるご家庭の参考になる面もあろうかと思います。

 そのおかあさんはとても教育熱心で、日頃のしつけは無論のこと、子どもの受験生活のフォローもしっかりとされていました。お子さんが5年生になり、親がいろいろと口出しをするのはそろそろ控えたほうがよいと思い、家庭での勉強は個室でさせ、勉強の時間は子どもの自主的な取り組みに期待することにしたそうです。ところが、テストの前になって状況を確認すると、全然備えができていません。塾の授業を受けて理解しているはずの基本的なこともわかっていないので愕然とされたそうです。

 そこで、お子さんが自室で勉強をする様子をそっとのぞいてみたのだそうです。勉強に集中して取り組んでいることを期待しておられたのは当然ですが、残念なことに実際はその逆で、何をするでもなく椅子に座っているだけでした。テキストを読んだり、ノートを点検したり、問題に取り組んだりといった、受験生としてやるべきことが全然できていませんでした。ただし、怠けて遊んだり嘘をついたりすることを厳しく戒めておられたせいか、ゲームをしたり漫画を読んだりするなど、遊びに興じるようなことはしていませんでした。

 おかあさんは「わが子は塾での授業を理解できていない」「集中力を発揮した勉強ができていない」ということを心配され、私に相談されたわけです。当初私は「おとなしくてまじめだけれども、少しぼんやりしたところのあるお子さん」というぐらいにしか思っていませんでした。ところが、塾の担当者にそのお子さんの状態を尋ねると、「授業に耳を傾ける姿勢が全然なく、すぐにあたりをきょろきょろと見回して他の子にちょっかいを出して困っている」「クラスの仲間と話しているときも、人の話を傾聴できず、自分の話したいことを強引にしゃべる傾向がある」とのこと。これにはいささか驚きました。

 そのおかあさんは、ほんとうに熱心にお子さんの勉強をフォローしておられたのだと思います。お話をしても、子どもの発達に関する学問的知識を豊富に携えておられました。ほんとうに「しっかり者のおかあさん」という印象のかたでした。どうしてお子さんはこんな状態になったのでしょう。

 いろいろ考えているうちに、少し思い当たることがありました。おかあさんがあまりに気が回るので、お子さんは反論することができず、自分を抑えて言うことを聞いていたのではないでしょうか。その反動で、一人の時間になるとタガが外れ、溜まっていたストレスを発散していたのでしょう。親の目が届かない場所にいるときに、思う存分勝手気ままな行動に走ってしまった原因がそこにあったのです。それでいて、家に帰るとおかあさんの言うことを再び聞かざるを得ません。何しろ、おかあさんのサポートなしに塾の成績を維持することはできないのですから、おかあさんには頭が上がらないに決まっています。

 さて、どう対処すればいいのでしょうか。前回のコラムでお伝えしたことを覚えておられますか?子どもの行動に一定の裁量を与え、自分の判断で物事を行う姿勢を少しずつ強化していくのが子育ての原則です。少しでも自分のやるべきことをわきまえ、自発的に行動する様子が見られたら大いに喜んでほめる。結果ではなく、そういった子どもの自制心や自己コントロール能力を養うことを重視し、年齢とともに少しずつ適正な行動管理のできる人間に成長させるべきだと思います。もちろん、できもしないことを突き放してやらせても子どもは成長できません。「これは、子ども自身でやれそうだな」と思ったことを一人でやらせてみるのです。

 今、わが子の自立的行動管理に問題を感じているご家庭がおありでしたら、折を見てお子さんの行動の現状を振り返る場を設け、つぎのような対処をお勧めします。

・自分の日頃の行動姿勢について、自分なりによいと思っている点と、改めるべき点を振り返らせる。

・1日の行動のスケジュールを子ども自身に立てさせ(子どもの案を見て、アドバイスをする)、自分で行動の管理をするよう促す。

・自分のやるべきことを、親に言われなくても自分からしたときは大げさなくらいほめる。

・勉強は親が見守れるリビングや食卓でさせる。ときどき、「がんばっているね」と声をかけたり、必要な時はアドバイスしたりする。

・日常の親子の会話の際は、親からしゃべり過ぎないよう留意し、子どもの言い分を十分に聞いてやる。

・子どものことに関しては親からの命令や指示を避け、「じゃ、どうすればよいと思う?」と子どもに問いかけ、子どもの考えや判断を引き出す。

・テスト成績は一時的に落ちてもよいから、自分で工夫して勉強する姿勢が身につくよう応援する。

 親のおかげで成績を維持する状態が続くと、子どもはいつまでも自立できませんし、自分に対する自信ももてません。親には一見従順な子どもも、内心は抑えている感情がありますから、外の世界に足を踏み入れるとブレーキが利かなくなってしまいます。前出のおかあさんが自覚されたように、5年生ぐらいになると、親があれこれ口を出したり手を差し伸べたりするのは控える必要があります。こういった過保護・過干渉の状態で中学受験を乗り越えても、自立し損なった子どもの面倒を見てくれる人はいません。中学高校生になってから、大変な苦労に直面するのは必定でしょう。

 自分の行動を適正にコントロールする力は、児童期までの子育てで養われます。この重要な仕事に関われるのは保護者だけです。完璧にはいかなくても、こうした成長の流れを築いているかどうかが、子どもの歩む人生に少なからぬ影響を及ぼします。大変ですが、悔いの残らぬようがんばってくださいね。