子どもの学力は親の熱心度で決まる!?

 私は35年以上の長きにわたって進学塾に勤務していました。その経験に基づき、小学生をおもちの保護者にぜひお伝えしたいことがあります。それは、「小学生の子どもの勉強ぶりや成果は親しだいであり、親の適正な熱心度が決定的な役割を果たす」ということです。今回はそのことについて少し詳しくお伝えしようと思います。

 児童期までの子どもにとって、親は絶対的な存在です。特におかあさんは、毎日の生活で圧倒的に接する時間が長く、立ち居振る舞いや言葉遣いの基本を教えてくれるかけがえのない先生でもあります。したがって、自分のしていることについて、おかあさんがどのように評価してくれるかは、子どもの心理状態に大きな影響を及ぼします。そうした生活の繰り返しを通して、子どもの価値観や行動様式も形成されていきます。

 勉強も例外ではありません。子どもの勉強に対する関わりかたや評価のありようが、そのまま勉強の取り組みや姿勢に反映されがちです。ちょっと考えても想像がつくことでしょう。おかあさんが常に自分の勉強に関心を示し、応援やアドバイスをしてくれたりほめてくれたりするか、それともいくらがんばっても認めてくれなかったり無関心だったりするかで、子どもの気持ちに大きな違いが生じるのは疑いありませんね。ただし、重荷に思わないでください。お子さんとの信頼関係を大事にしておられる限り、お子さんはまっとうな成長を遂げられるものです。

 かつて低学年部門の責任者をしていたとき、指導現場の担当者に「勉強に活気があって伸びしろを感じる子どものおかあさんに、何か共通して感じる特徴はありませんか?」と尋ねたことがあります。この質問に対していちばん多かった回答が、「お子さんの提出したプリントにたくさんのコメント、激励を書き込んでおられることです」というものでした。

 多くのおかあさんは、わが子の書いた答案のマルつけをしておられますが、わが子の努力に花丸で報いているかたがたくさんおられます。それも同じパターンではなく、様々な種類の花丸で「よくがんばったね!」という思いを伝えているかたもおられます。さらには、情熱的なコメントを書き込んでいるかたもおられます。それらを読むと、おかあさんの愛情や期待がひしひしと伝わってきます。「こんなふうに期待や関心を寄せられ、承認や激励を繰り返されたお子さんはうれしいだろうな。やる気がさらに高まるだろうな」と、心底感心したものでした。

 なかには気になるケースもあります。たとえば、大きなバツを書き入れているかたもおられます。また、随分厳しめのコメントを書き込んでいるかたもおられます。「何度も書き直しを命じられたのだろうな」と思わされる痕跡のある答案もあります。ただし、これだけでは親として望ましくない対応だとは一概に言えません。厳しいタイプのおかあさんだったとしても、子どもがおかあさんを信頼し、ついていこうと一生懸命がんばっているケースもあります。要は親の気持ちがわが子に伝わっているかどうか、子どもが親の方針に納得しているかどうかの問題だと思います。

 どんなタイプのおかあさんであれ、わが子の成長を望む気持ちには変わりありません。しかしながら、期待通りにやれないわが子に苛立ち、「こんな簡単な問題に、いったいどれだけ時間がかかるの!?」と、大声で叱っているおかあさんを目撃したことがあります。いくら熱心でも、これでは子どもはいつまでも自信をもてませんし、自らの「知りたい!」という欲求に突き動かされて学ぶ人間にはなれないでしょう。さらには、おかあさんに対する尊敬や信頼の気持ちも喪失してしまいます。

 ここで、私からおかあさんがたに考えていただきたいことがあります。子どもの勉強におかあさんが関わる場合、常に心に留めていただきたいのは、「今手伝っているのは、明日はわが子が自分でできるようにするためなのだ」という意識です。そして、少しでも子どもが自分の力でやれそうな気がしたら、子どもに一定の裁量を与え、やらせてみることです。親の言いなりでよい成績を残すよりも、自分の力で這い上がって成績をあげていくタイプの子どものほうが、将来の飛躍が期待できるのではないでしょうか。

 そのためには、「今は手伝っているが、やがては子ども自身でやれるよう応援しよう」という意識をもつことが必要です。たとえば右図の②のように、子どもが自分の裁量で物事をやり遂げる範囲を少しずつ広げていくような接しかたが望ましいでしょう。①のように、いつまでも子どもに裁量を与えずに親が行動を取り仕切ってしまうと、子どもはいつまでも自分で判断して物事を行う主体性や行動力は育ちません。

 このような自立に向けた親の配慮があると、失敗を恐れずに自らの力で問題解決を図ろうという姿勢が育っていきます。子どもというものは、自分の力で何かをやり遂げるとうれしいし、自信をもてるようになります。また、自分から率先してよいことをしたときには周囲に対して(特におかあさんに)胸を張りたい気分になります。そういうときにはすかさず大いにほめ称え、喜んでやりましょう。こうした体験の積み重ねで、子どもは自主性や実行力を伸ばしていくことができるでしょう。

 「つかず離れず」という言葉がありますが、これは小学生の子どもに対する親の望ましいスタンスを端的に言い表している言葉ではないでしょうか。子どものすることに関心をもち、必要なときには手を貸すが、自分でできそうなときはそっと見守る。そうして、最後までやり遂げたときには何よりもそのことを喜んでやる。このような自立を念頭に置いた愛情深いサポートは、子どもの望ましい成長を引き出さないはずがありません。気配りも労力も求められますが、成果の大きさは投じたエネルギーや時間を補って余りあるほどのものになることでしょう。がんばっていただきたいですね。