ハビトゥスの形成に向けた親の働きかけ

 前回は、学習塾の新年度講座の開講や学校の新学期の始まりのタイミングに合わせ、子どもの学業成就のための基盤形成を話題に取り上げ、ハビトゥスが大きな力となることをお伝えしました。

 ハビトゥスとは、長い期間にわたる行動の継続や繰り返しによって、ほとんど無意識レベルにまで習慣化された行動様式を言い表す言葉です。たとえば、勉強の時間になったら自然と体が動いて机に着く神経回路がセットされているかのように、条件反射的に体が動くのです。多くの子どもは、「勉強しなきゃ」と思っても、いざとなると気が重くなりがちですが、習慣として浸透するとそれがなくなります。“努力”という文字が意識から消えてしまうのです。習慣というものは、何らかのことを成し遂げるにあたって大きな力になるものなのですね。

 ハビトゥスの形成にあたっては、年齢が低いほどハードルが低くなります。親が愛情深く導けば素直に応じてくれる年齢期だからです。まさに“鉄は熱いうちに打て”の格言が当てはまるのではないでしょうか。このことからもわかるように、ハビトゥスを形成する場は毎日の生活の舞台である家庭です。と言うよりも、家庭教育における大きなテーマの一つと言ってもよいでしょう。

 前回のコラムでは、その実例として「学校から帰る→1日の報告をさせる→宿題に取り組む→遊ぶ」といった児童期の生活上のルーティンを繰り返すことで、確固たる学習の習慣が身に着くことをご紹介しました。みなさんのお子さんは、学習の習慣がしっかりと身につきつつあるでしょうか。この習慣づけがうまくいけば、学力形成における好循環の流れができあがっていきます。間違っても、無理やりやらせたり叱ってやらせたりしないようにしてくださいね。

 ハビトゥスの形成にあたっては、学習塾も重要な役割を果たしています。たとえば、教室指導にせよオンラインでの指導にせよ、指導のプロの導きによって、子どもたちは疑問を解決すべく思考を巡らすことの楽しさや、問題を解き明かしたときの喜びや爽快感を味わうことができます。その繰り返しが、勉強に対するよいイメージを築いてくれるのです。また、基本に叶った考えかたで問題を解決すると納得がいくし気持ちがよいものです。これらの体験は、子どもたちの学習意欲を駆り立て、家庭での学習の取り組みを後押ししてくれるでしょう。

 玉井式の教材やシステムは、こうした子どもの意欲を引き出すべく制作されています。「ああ、楽しかった!」という子どもたちの満足感を保証し得るものだと思います。保護者におかれては、子どもの勉強に対するプラスのイメージをうまく生かし、家庭勉強の取り組みとの連動を図っていただきたいですね。毎日一定の時間、机に向かって勉強する習慣を定着させ、決めたことをやらずにはいられない子どもになれば、中学受験をされる場合の親の負担は格段に軽減されますし、子どもの伸びしろ自体も大きく違ってくることでしょう。

 ここで本題の家庭での働きかけに話題を戻しましょう。「話は一応わかりました。でも、習慣づけに向けて具体的にどうすればよいのか、今一つピンときません」というかたもおありかもしれませんね。そこで、多少具体的な提案をさせていただこうと思います。

 

学習面のハビトゥス形成に向けた親の働きかけ


1.「何をするのか」を親子で共有する。
 まず、家庭勉強としてすべきことは何かを親子で共有することが大切です。学校の宿題、ドリル、玉井式の教材など、欠かせない事柄をリストアップしましょう。そして、どの時間帯に何をするのかを相談して決めましょう(親だけで決めない)。
 取り組みの時間は固定したほうが実行に移しやすいし、習慣づけも楽ですが、塾に通う日、スポーツ・習い事のある日は時間を調整する必要があります。こうして、いつ何をするかを定めると、日々の勉強のルーティン化が容易になるでしょう。あとは、「がんばろうね!」と優しく激励してあげてください。

 

 

2.「自発性」を評価の軸に据える
 やるべきことを親に言われなくてもやると、子どもは気持ちがよいし、誇らしく思います。そういう体験を繰り返したら、自然と子どもは率先してやり始めるようになります。
 「自分からやると気持ちいいよね!」「言われなくてもやれるよね」と、親が何を期待しているかを繰り返し発信してやりましょう。小学生までの子どもは、親の期待に沿った行動をしようと思うのが普通です。行動が定着するまで、叱ってやらせずに「時間になっているよ!」などと、辛抱強く子どもの背中を押すような接しかたが望ましいですね。

 

 

 

3.子どもの行動をフィードバックする。ほめる!
 幼い子どもは、物事をやり遂げたとき、真っ先に親のほうを見ますが、それは承認のサインを求めているからです。この傾向は児童期を通して変わりません。
 5~6年生になった子どもでも、「あっ、自分からやっているね。すごいね!」などと、子どもの望ましい行動に素早く反応してやりましょう。こうしたフィードバックが、子どもに望ましい価値観、すなわち自律の姿勢が一人前の人間の証であるという認識を浸透させます。命令や叱責による強制は、子どもの自律の姿勢を損なうだけです。

 

 

 
 人間の行動様式の土台は児童期までに形成されます。それはすなわち、子どもに望ましい行動様式を授ける重要な時期が児童期だということを意味するでしょう。望ましいハビトゥスを子どもが身につけるかどうかも、児童期の家庭教育の如何にかかっています。習慣は定着するまでに時間がかかります。それゆえこの時期の親の苦労は並大抵のものではありません。しかし、成果は子どもの一生を支えるほど大きいものです。わが子が親の望むような望ましい人生を送れるかどうかも決まってきます。ぜひ、「今こそ親ががんばるときなのだ」とご自身に言い聞かせ、辛抱強くお子さんをバックアップしてあげてください。