“ごほうび”や“評価”の功罪について考える

 みなさんは、子どもをがんばらせるため、あるいは意欲を刺激するカンフル剤として、“ごほうび”を与えることはありますか? ごほうびを与えているかたは、何をごほうびにされていますか? また、その効果はありますか? ごほうびを与えない主義のかたもおありでしょう。それはなぜですか?

 ごほうびについては賛否両論があります。そして、一般的には「ごほうびは、やりかたによって効果が得られることも、得られないこともある」と思われているようです。そこで、ごほうびの効能を調べるために行われた外国の研究者による実験の結果をご紹介してみようと思います。

実験①
 スタンフォード大学の学者レッパーらによって行われた実験です。保育場面で、自由時間などに絵を描くことが好きな幼児を研究対象にして、それぞれに好きな絵を描くことを依頼しました。実験者は、幼児たちを一人ひとり保育室とは離れた別の部屋に呼び、依頼内容を個別に伝えました。なお、幼児たちは依頼内容を意図的に区別し、つぎの三つの群に分けられました。

第1群:「よくできたらごほうびをあげる」という約束をして絵を描かせた(「ごほうび予期」群)
 ※ごほうびは、金星と赤いリボンの飾りがついた賞状で、子どもの名前と園名が印刷されていた(幼児にとって大いに魅力的に映るごほうびとして設定された)。

第2群:特別ごほうびの約束をせず、ただ「絵を描いて見せてほしい」と依頼して描かせた(「予期せぬごほうび」群)
 ※ただし、終了後に第1群と同じごほうびを与えた。

第3群:ごほうびの約束はなく、描いてもごほうびを与えられなかった(「ごほうびなし」群)

 子どもたちには同じ部屋で絵を描いてもらいました。何枚絵を描くかは、特に依頼や指示はしませんでした。さて、描いた絵の枚数が一番多かったのはどの群だったと思いますか? 多分、みなさんの想像通りだと思います。正解はごほうび予期群(第1群)でした。ただし、描かれた絵の質は低かったそうです。たくさん描いたほうがごほうびを確実にもらえると思ったのでしょうか。

 さらに1~2週間後、保育場面での自由遊びの時間に子どもたちの絵を描く様子が観察されました。

 進んで絵を描こうとする姿勢を3つの群で比較してみようという試みでした。その結果ですが、ごほうび予期群、すなわち予め「よくできたらごほうびをあげるよ」と言われていた子どもたちは、他の2群の子どもたちと比べて、自発的に絵を描こうとする者が少なかったと言います。いっぽう、絵を描いたら思いがけずごほうびをもらった子どもたちや、そもそもごほうびをもらっていなかった子どもたちは、普段と変わりなく楽しそうに絵を描いていたことが観察されています。

 もう一つ、大人による評価が子どもたちの取り組みにどのような影響を及ぼすかについて調べた実験をご紹介してみましょう。
 
実験②
 心理学者ハーターは、バラバラにした文字を組み合わせて意味をもつ単語をつくる課題(アナグラム課題)を小学6年生に取り組ませました(例:いすかいくよ→かいすいよく)。アナグラム課題は、3文字から6文字まで、難易度の異なる4種類が用意されました(文字数が多いほど難しい)。子どもたちに、いろいろなアナグラム課題に答える練習をさせた後、4段階の難易度の課題を合計8種類用意し、「どの課題を選んでもいいよ」と子どもたちに伝え、自由に取り組ませました。ただし、実験者によって子どもたちは2つの群に分けられ、それぞれ異なることが伝えられていました。

第1群:「これは単なるゲームだよ」と伝えた

第2群:「でき具合で成績をつけて評価するよ」と伝えた
 (課題の難易度に関係なく、いくつ正解できたかで、優・良・可・不可などと評価をする)

 さて、評価の予告が取り組みにどんな影響を及ぼしたでしょうか。結果は、予め「評価をする」と伝えられていた子どもたち(第2群)のほうに、4文字以下のやさしい課題を選ぶ傾向が明瞭に認められたそうです。いっぽう、「単なるゲームだ」と伝えられていた子どもたちが選んだ課題の文字数は、平均して5文字近くで、適度な難易度の課題を選択する傾向が見られたそうです。

 こういった課題が好きな子どもたちは、評価がない条件の下ではある程度難しい課題を選びたがるものです。そのほうが楽しく、達成感が得られるからでしょう。実験の後、子どもたちに直接尋ねてみたそうですが、ゲームと聞かされていた子どもは、「ちょうどよい難しさの問題にやりがいを感じる」(5文字近くの課題を選択した)と答えたのに対し、評価が予告されていた子どもたちは、「きっとそれならできると思ったから」(4文字以下の課題を選択した)などの返事が多かったと言います。

 以上2つの実験の結果をどう解釈すべきでしょうか。上記の2つの実験を著書で紹介した研究者は、「ごほうびを期待しての取り組みは、子どもの自発的な興味を低下させてしまうらしい」と述べておられました。こうしてみると、ごほうびや評価は、子どもの自律的行動や取り組みをスポイルする性質をもっているようです。ごほうびをあてにしたり、評価を気にしたりすることが、子どもが本来携えている興味や向上心、達成感などの発現を阻害し、「ごほうびをもらうため」「よい評価をもらうため」という、目先の功利的な目的の成就に走らせてしまうのでしょう。

 ごほうびも評価も、いわゆる報酬の類として括ることができます。報酬を目的にしたりあてにしたりすることがなく、取り組みや行為それ自体を楽しんだり、自己をスキルアップさせることの喜びを味わったりするほうが、子どもをより高いレベルへと後押しするのは間違いないようですね。ただし、報酬は一概に悪いとは言えません。たとえば、ごほうびの実験で、「予期せぬごほうび群」の子どもたちには、自発性を損なうというマイナス効果は見られませんでした。「がんばっているから報いてやりたい」という思いからのごほうび(思いがけないごほうび)は、子どもに励みを与える効果をもたらします。いけないのは、報酬をあてにさせてしまうことではないでしょうか。みなさんはどう思われたでしょうか。
※今回の記事は、「無気力の心理学」波多野誼余夫・稲垣佳世子/著 中公新書599を参考にして書きました。
 

<押さえておきたい!> ごほうびや評価より大切なものがあるのを忘れずに!

1.ごほうびよりも、達成感や成就感を味わわせるアプローチを!
 子どもの物事に真摯に取り組む姿勢は、取り組みを通じて得られる達成感や成就感によって育まれるものです。「よくできたね!」「がんばったね!」などの声かけに勝るごほうびはないのだと心得ましょう。ごほうびが習慣化すると、子どもはそれを“あて”にするようになり、ものごとに取り組む自発性が損なわれる恐れがあります。がんばっている子どもに報いてあげるには、週末の食事のメニューに子どもの好物を加えるなど、親の愛情を感じさせる方法がよいでしょう。

2.安易な評価は子どものチャレンジ精神をスポイルするおそれがあります。
 ランク付けによる評価を安易に用いると、子どもは難易度の低い課題を選んでよい評価を得ようとするようになりがちです。より高いレベルの課題に挑戦しようという気概を育てるには、ランクや点数指標による評価だけでなく、努力の度合いや熱心さなど、取り組みのプロセスを評価する方法も組み合わせるほうが効果的です。上記のごほうびと同様に、子どもが本来もつ探求心や向上心によい刺激を与えるアプローチが、見守る大人に求められるのではないでしょうか。