子どもに与えたチャンスを親がふいにしている?

 近年は少子化が進み、世帯あたりの子どもの数は、一人もしくは二人の家庭が多くなっているようです。そのせいもあるのでしょうが、子どもへの教育投資に熱心な家庭が増え、学習塾やスポーツ教室などの習い事などに子どもを通わせる家庭がずいぶんと多くなったように思います。子どもの才能を芽吹かせるには、いろいろな体験をさせるのが有効であり、望ましいことですね。ただし、親の目が行き届くことが必ずしもプラスに作用していないケースもあるようです。今回は、そのことを話題に取り上げてみました。

 何年か前、テニスの雑誌(私の趣味はテニスです)を読んでいるとき、ふと目に留まった記事がありました。それは、ジュニア育成で有名なテニススクールのコーチのコラムでした。内容は、テニススクールにわが子を通わせている保護者の言動で、「これでは子どもがかわいそうだ」と残念に思ったことをリストアップしたものでした。親の熱心さは理解できるものの、それが却って仇になることを懸念しておられるようでした。どんなことを指摘されているのか、ちょっとご紹介してみましょう(本コラム用に、若干文面を調整しています)。

① 子どもをもっとほめてほしい。

② 試合内容を勝敗だけで、感情論的に評価しないでほしい。

③ 勝ったらほめて、負けたら怒るはNG。

④ 家族内で意見が食い違い過ぎて、子どもが犠牲になっている。

⑤ 試合後のネガティブなダメ出しは慎んでほしい。

⑥ 試合に負けるとすぐに「テニスをやめさせる」と言う。

⑦ 負けた試合の帰り、車中が地獄(子どもからの報告)。

⑧ 子どもに、お金がないとしょっちゅう言っている。

⑨ スクールを転々とし、子どもはその度に違うことを言われ、混乱している。

⑩ 親がアドバイスをして、それを実行しないと試合後メチャクチャ怒られる。

 私がこの記事を読んで感じたことをそのままお伝えしてみます。①~③は、親に求められる肝心な視点が欠落している様子が感じられます。はじめはそうでなかったはずです。だんだんと上達するにつれ、「もっと上を!」という思いが強くなり、勝敗や結果で子どもを評価するようになったのでしょう。前出のコーチは、「子どもに肯定的な感想を伝え、子どもの意欲を引き出すことに留意してほしい」「勝敗よりも試合を楽しめたかどうか、日頃の取り組みの成果を出せたかどうかを重視してほしい」といったようなことを述べておられました。結果に関わらず努力をほめてもらえることは、子どもにとってこの上なく幸せなことであり、つぎのがんばりへのエネルギーになります。それを忘れないようにしたいものですね。多くの場合、そのほうが子どもも親も得るものが多いと思うのですが、いかがでしょうか。

 ④のように、取り組みに関する考えかたが夫婦それぞれに違い、足並みがそろっていないと、子どもは誰の言うことを聞いたらよいのかわからなくなります。当然プレーが混乱しますし、試合の結果も期待通りになりません。親はそれを願っていないはずです。勉強においても全く同じことでしょう。

 ⑤~⑦のようなふるまいも、子どもをがんばらせようという意図なのでしょうが、親の身勝手が露わなのが気になります。子どものやる気をスポイルしてしまうだけでなく、親への反感や不信の気持ちをもたせてしまうのではないでしょうか。そうなると、テニスをやらせたことも勉強のチャンスを与えたことも無意味になってしまいます。

 ⑧のように、お金のことを話題にするのも保護者に慎んでいただきたいことの一つです。学習塾に通う子どもも、「塾にお金がかかっている」と言われることを大変嫌がります。「こんな成績じゃ、お金がもったいないから塾なんてやめなさい」と言われるお子さんもいるようです。親としては、子どもの現状に業を煮やしての言葉なのでしょうが、これでやる気が高まる子どもはいませんし、むしろ親への尊敬の気持ちが失われてしまいます。

 ⑨⑩については言わずもがな。どなたも、これで子どもがよくなるとは思わないでしょう。子どもを通わせた以上は預け先の指導の方針を信用し、一定の期間は様子を見守る必要があります(もちろん、指導にあきらかな問題があれば別です)。何事もすぐに結果が出ないものです。特に高いレベルを求める場合にはなおさらです。

 わが子が思い通りにならないと、親はなぜか感情を子どもにぶつけてしまいます。溢れるほどの愛情や期待があるからこそのことでしょう。進学塾に勤務しているとき、私は保護者に「受験の見守りと応援は、親にとっては我慢と、忍耐と、辛抱の連続です。最後までわが子の努力を引き出すべく愛情深くサポートしてあげてください。それが子どもの心を奮い立たせるときがやってきます。それを信じましょう。決して親が先にあきらめてはいけません」と申し上げていました。どんな状況でも自分を信じ、最後まで応援してくれる存在。子どもにとって、それは親や家族しかありません。思い通りにならないときは、一緒に悔しがり、「どうしてうまくいかなかったのかな?」と問いかけてやりましょう。そんな親の姿勢が子どもを動かさないはずがありません。きっとお子さんは、「親の期待通りの人間になりたい!」と心から思い、一生懸命にがんばり続けることでしょう。
 

<押さえておきたい!> 子どもは未熟なもの。子どもを信じて辛抱強く応援を!

1.子どもを習い事に通わせる目的はなにか。それを見失わないように!
 スポーツにせよ芸事にせよ、学習塾にせよ、わが子を習い事に通わせるにあたっては、子どもの健やかな成長を願う気持ちが背景にあったはずです。しかしながら、いつの間にか結果でわが子を評価するようになり、「なんでもっとがんばれないのか!」と叱ったり、不満を口にしたりする保護者もおられるようです。そもそもわが子を通わせたのはなぜでしょう。その出発点の気持ちを忘れず、温かく長い目でわが子を見守ってあげていただきたいですね。

2.習い事は、指導の委託先の方針を理解して子どものサポートを!
 子どもの才能を伸ばすにもいろいろな方法があります。専門的な指導をしているところへわが子を預ける場合、親の希望と預け先の方針や実績をよく突き合わせ、選んだ以上は一定の期間はそこでわが子が成果をあげられるよう見守り応援することが大切でしょう。何かあるとすぐに口を出したり、預け先の指導を批判したりされる保護者もおられると聞きます。しかしながら、これでは子どもは安心して物事に打ち込めませんし、期待通りの結果も得られません。わが子と、指導の委託先と、保護者は三位一体でありたいですね。