子どもの自己肯定感と家庭教育の関連性を考える

 早いもので、今年も余すところ僅かになりつつあります。残り少ない2022年ですが、相変わらずコロナウィルスが猛威を振るっています。みなさん、くれぐれもお気を付けください。今年を少しでもよい年にするようラスト1か月をがんばってまいりましょう。今回は子どもの自己肯定感を話題に取りあげてみました。

 日本の子どもの学力水準は、世界的に見ても相当に高いのはみなさんよくご存じでしょう。PISAテストと呼ばれる、有名な国際学力比較調査(OECDが、加盟国を中心に3年に一度15歳の生徒を対象に実施)においても、毎回優秀な成績を収めています。ところが、それと裏腹に日本の子どもは自己評価が低いという調査データがあります。自己評価が低いことは、人生の歩みに少なからぬ影響を及ぼします。特に、今日の国際社会で生きていくうえで大きなハンディとなります。自分という人間に誇りをもち、自らの考えをきちんと主張できないと、自分をまっとうに通用させることができないからです。そこで、その理由を一緒に考えてみたいと思います。

 まず、子どもの自己評価に関する大掛かりな調査の結果をご覧ください。これは平成27年に国立青少年教育振興協会が、小4~6、中2、高2の子どもたち合計2万名以上を対象に行った調査の結果です。

 これを見ると、日本の子どもの自己評価は全体的に低めなのが気になりますが、学力についての自己評価がずいぶん低いことに驚かされます。そのいっぽう、PISAテストで上位にランクされていない国の子どもたちは、意外にも「自分は数学が得意だ」などと自己評価しているケースが多いというデータがあります。これはどういうことなのでしょうか。

 他の国際比較調査の資料を見ると、「自分は勉強ができる」という自己評価の数値が低いのは、日本のほか、韓国や中国など東アジアの国々に見られる現象のようです。おそらく、児童期から大学を出るまでの長きにわたって、順位や序列で他者と比較され、「まだまだだめだ」「自分より上がたくさんいる」という気持ちが染みついてしまうからではないかと思います。

 子どもの自己評価に影響を与えるファクターとして、もう一つ大きな要素と考えられるのが家庭教育です。親の子どもに対する評価は、子どもの自己有能感に間違いなく影響を与えます。日本の場合、家庭教育に関わる最も大きな存在はおかあさんです。そのおかあさんが子どもの成長に対してどのような受け止めかたをしているかについての調査資料がありますので、それを見てみましょう。

 これは、「子どもの成長に満足していますか」という質問に対して、「満足」「やや満足」「不満」の三つの選択肢のなかから「満足」と答えた人の割合(%)を示します。日本のおかあさんの満足度が一番低いことに驚かれたでしょうか。子どもの成長の様子に対して不満の気持ちが強いということは、子どもへの評価が低いことに他なりません。勢い、子どもの自己評価も低くならざるを得ません。また、欧米では子どもの年齢が上がっても満足度の低下が少ないのに、日本では子どもの年齢が上がるにつれて満足度が下がっています。他の子と比較してわが子を見ると、どうしてもわが子への不満の気持ちが湧いてくるのではないでしょうか。お隣りの韓国のおかあさんのデータも、欧米の国々よりも日本に似ています。これは、先ほどお伝えしたように、受験熱の高いお国柄という共通点があるからでしょう。

 ここで着目したいのは、子どもの「自己評価」が高かった国、子どもの年齢が上がっても成長の様子に母親が満足している国々においては、学校教育・家庭教育ともに子どもへの評価の視点が次のようなものである点です。

 どうでしょう。わが子を他の子どもと比較して評価しない。わが子が以前より進歩している点を見て評価する。そもそも評価する目的が子どもに自信をもたせるためである。こういった視点から評価された子どもは自分の能力に疑問をもつことなく伸び伸びと成長できるでしょう。子どもの学力形成という点では世界でも指折りの優れた環境を有する日本ですが、幼いころから順位や序列の評価にさらされるというマイナス面が背中合わせにあるのが、日本という国で生まれた子どもたちの宿命です。そのことを踏まえ、子どもの自己有能感がなし崩し的に失われていくことへの配慮が、日本の家庭教育には求められているのではないでしょうか。

 他の子と比べてわが子を見ない。前より進歩している点は、どんなことでも見逃さずにほめる。子どもに自信を吹きこんでやろうという気持ちを常に持ち、よいところを大いにほめるよう心がける。これらのことをみなさんのご家庭でも実行してみてはいかがでしょうか。
 

<押さえておきたい!> 日本の親にこそ求められる配慮がある!

1.順位や序列による評価からわが子を守るのも親の大切な役割です。
 日本は高校がほぼ全入で、大学への進学率も非常に高い教育先進国の一つです。しかしながら、日本の子どもは児童期から他者と比較され、順位や序列で評価され続けることを余儀なくされます。そのもたらす負の影響が、今回ご紹介した国際比較調査の結果に表れています。グローバル社会では、能力があっても自己肯定感が低い人間は自分を正当に通用させるのは難しいのではないでしょうか。こうした社会の枠組みがもたらす負の影響からわが子を守るのも、親の大切な役割だと思います。

2.何を基準にしてわが子を評価するか。この視点がブレないように!
 順位や序列による評価からわが子を守ることの必要性をお伝えしましたが、ともすれば親もわが子を他者と比較してしまいがちです。そのことに留意し、子どもの健全な成長に向けた評価のありかたを見失わないようにしたいものです。その意味で参考になるのが、今回ご紹介した「子どもの自己評価が高い国の子育ての特徴」です。保護者におかれては、日本の恵まれた教育環境のもつ負の要素にも留意し、大切なわが子をグローバル社会で生き抜いていける人間に育てるべくがんばっていただきたいですね。