才能開花の道筋は家庭教育で形成される その2

 早いもので、夏休みも残り少なくなりました。今回は前回に引き続き、夏休み前に実施したおかあさん対象のセミナーの内容をご報告します。内容は、家庭教育の果たす大きな役割を具体的にお伝えし、子育てに役立てていただくことを意図したものです。また、気苦労や悩みの多いおかあさん同士、励まし合える場があれば元気が出てくるのではないかと思い、双方向性をもたせた催しにしました。では、セミナー後半の内容をご紹介しましょう。

② 行動を適切に制御できる力を養う
 勉強の時間になったのに、ついゲームやテレビ視聴をズルズルと続けてしまう。こういう子どもは、何につけ面倒なことを後回しにし、目先の楽しみにかまけてしまいがちです。大人は、「やることを先に済ませておけば、結局は自分が楽になるのに」と残念に思います。こういうタイプの子どもは、肝心なことが常に疎かになりがちです。いっぽう、少数ですが自制心を働かせ、自分にとってより多くの利益を得られる道を選ぶ子どももいます。

 何十年も前、アメリカで幼児対象の実験が行われました。

4歳児をテーブルの前に座らせます。目の前に、お菓子を一つ載せた皿を置きます。実験者は、子どもに「今から私が帰ってくるまで待っていてほしいんだけど、このおやつを食べたければ食べていいよ。でも、もし私が帰ってくるまで食べるのを待てたら、一つじゃなく二つあげるからね」と言い、部屋を去ります。

 子どもの多くは、お菓子の誘惑に負けてすぐに食べてしまいました。しかし、一部の子どもは食べるのを我慢し、見事お菓子を二つ手にしました。幼児なりの知恵を働かせ、両手でお菓子が見えないよう目を覆ったり、他のことに気持ちを逸らせたりして、誘惑に対抗したのです。この実験の被験者だった子どもたちの、20年後30年後の状況が調査されました。すると、我慢を利かせた子どもは相対的に高学歴を獲得し、実社会に出てからも高収入を得るなど、人生で成功する確率が高いことがわかりました。

 この実験結果を紹介したあと、「おたくのお子さんは我慢が効きますか?」と問いかけ、互いに現状を振り返っていただきました。また、我慢をどう教えているか、披露し合っていただきました。児童期の子どもは、親の働きかけしだいで、「我慢」や「自己制御」の状態を改善することができます。まだ親に依存し、親の期待に応えようとする年齢だからです。そこで、「望ましい行動を選択できる子どもにするには」というテーマで、具体的な方策を三つご提案しました。これをお読みの方々にも参考にしていただけるでしょう。

望ましい行動を選択できる子どもにするための働きかけ

1.親の価値観を浸透させる
 結果より努力を評価軸に置き、一貫して努力を奨励してやりましょう。テストの成績がよいか悪いかではなく、がんばっていたかどうかを重要視するのです。成果が目に見えるまで時間はかかりますが、努力して伸びない人間はいません。今なら、これを子どもの大切な生きざまにしてやれるでしょう。「結果より努力」を合言葉に、児童期終了まで親が励ましたなら、中学受験の結果よりもはるかに子どもの人生にもたらす効果は大きなものになります。
 
2.子どもに行動を選択させる
 とかく親は、どうすべきかを先に子どもに伝えがちです。しかも、指図や命令の口調になりがちです。これをくり返していませんか? 試しに、「どっちがよいと思う?」と、子どもに選択させてみましょう。意外と親の意向に沿った選択をするものです。だいいち、「自分で決めたことだ」という意識が子どもにありますから、取り組みは前向きになるし、子どものプライドも育ちます。子どもを一人前に扱えば、子どもは親を信頼するようにもなります。
 
3.子どもを信じて見守る
 多くの親は、子どもを黙って見ていられません。しかし、途中で口出しや手出しをすると子どもの実行力は育ちません。子どもの試行錯誤を見守る覚悟をし、「きっとできるよ!」と信頼の気持ちを伝えてやりましょう。失敗したら、「残念だったね。でも次はやれるよ」と励ましてやればいいのです。親の忍耐が試されますが、「自分はやれる!」という手応えを子どもが少しずつつかめば、困難でも自分の成長につながる行動の選択をするようになります。辛抱を!
 
 これまで、「子どもに過保護だった。過干渉だった」と反省しておられるかたもおありでしょう。そのようなかたは、上記の三つを根気よく実行してください。そして、その際に「タイミングよく」ほめることを忘れないでください。アメリカの心理学者アンジェラ・ダックワースは、「大人になって成功や失敗をしたとき、その原因を自分の才能に結びつけるか、それとも努力に結びつけるかは、子どものころの「ほめられかたで決まる率が高い」と述べています。才能より努力をほめてやりましょう。それが失敗を恐れず、何事もあきらめずにやり抜く力を育むための原動力になるのですから。

 

<押さえておきたい!> 子どもの‟生きざま”を育むのも家庭教育です。

1.わが子に我慢と自制の気持ちを教えられるのは児童期の今のうちです。
 今回ご紹介した実験結果でもわかるように、我慢や自制心を携えた人間は有意義な人生を送ることができます。わが子が何かを欲しがったりねだったりしたときには、すぐ与えるのではなく、我慢を教えるチャンスにしたいですね。たとえば、やや高額な遊び道具を欲しがったとき、「4か月後の誕生日まで待ちなさい。そして、少しずつ貯金をしなさい。足りない分はおかあさんが出してあげるからね」などと提案し、我慢してほしいものを手にする喜びを味わわせてやりましょう。

2.今回の三つの提案と、‟ほめる”ことをセットで実行してみてください。
 「努力を評価軸にする」「子どもに行動を選択させる」「子どもを信じて見守る」を実行するにあたり、子どもを適切にほめることを忘れないでください。その体験が子どもの健全で望ましい生きざまを築くからです。わが子が「努力すれば必ず報われる」と信じ、より有益な選択をし、失敗をしてもへこたれずにやり抜く人間に成長していくうえで、親にほめられた経験は大きな作用を果たします。親は絶えず子どもをよく観察していなければなりませんが、それが必要なのは児童期の今のうちです。おかあさん、がんばりましょう!

※上記催しは、除菌や換気などのコロナ対策を施した貸会場を使用しました。また、参加者には検温とマスク着用を徹底し、座席間の距離を十分にとって実施しました。