一見、結果オーライの子育てのようだけど?
日本では、子育てで思い悩むおかあさんが少なくないようです。「うまくやらなければ」というプレッシャーや、子どもの行動をよい方向へ導けないもどかしさが原因でしょうか。みなさんはどうですか? 今回は、そんなおかあさんがたのメンタルケアを話題に取り上げてみました。
おそらくほとんどのかたがそうであろうと思いますが、「よい親でありたい」と正面切って考えすぎると、却って些細なことで思い悩むことになりがちです。親はわが子に対して完璧であろうとする必要はありません。むしろ、そうでないほうが子どもは親に親しみをもてるし、心理的な距離も近いものになるのではないでしょうか。たとえば、こんなことがありました。あるとき、担当していた6年生の男の子が私にこんなことを言ってきたのです。
「先生、うちのおかあさんったら、ひどいんだ。いつもボクの算数の成績を見てはくどくど文句を言ってくるんだけど、そのくせボクができなかった問題、何ひとつ解けないんだよ!」
会話の際、相手の目を見れば真意がわかるものです。そのときの彼の目はキラキラと輝き、ほほえんでいるかのように見えました。咄嗟に私の心に浮かんだのは、「彼のおかあさんはよい子育てをしておられるな」ということでした。なにしろ、こんなにも明るい眼差しを携えた魅力的な男の子に育てておられるのですから。そのとき、彼はおかあさんに多少の不満はあったのかもしれませんが、決して咎めたり批判したりしているようには見えませんでした。むしろ苦手な算数の成績を心配し、声をかけずにはいられない母親を丸ごと受け入れているように感じられました。
以後、私はこのエピソードをおかあさんがたの集まりでしばしばご紹介しています。そして、子育ての勘所についておさらいをした後、つぎのように締め括ります。「このおかあさんは、すばらしいおかあさんですね。なにしろ、息子さんを11歳にして『もはや母親は頼りにならない。自分でやるしかない!』と、見事に自立させておられるのですから!」 すると、会場がどっと沸いたり、会場いっぱいに笑顔が溢れたりしたものです。実際、その通りだと思いませんか? 完璧な子育てばかりがよい結果をもたらすわけではないのですね。
上記の例は、一見「結果オーライの子育て」のように見えます。しかし、親の愛情を子どもがしっかりと受け止めているという点で、よい子育ての一例と言えるでしょう。親子関係が良好であったり、お子さんが前向きな生活を送っていたりする家庭を見てみると、おかあさんの子育てスタンスにある種の共通するポイントがあるように思います。それを簡単にまとめてみましょう。
子どもにどう向き合うべきか
① 親がイライラしながら小言をくり返すと、子どもの反発を招くだけでなく、親自身の精神衛生にもよくありません。落ち着いた家庭の雰囲気も台無しになりがちで、よいことはひとつもありません。子どもは日々成長するもの。「やがてはきっとやれるようになるさ」と、のんびり構えてわが子に接してやりましょう。そういった親の心の余裕は、必ず子どもに伝わるものです。
② 子どもの失敗をやる気のせいにして叱っても、子どもは反省するでしょうか。そもそも子どもはやる気に満ちた存在なのです。やる気を発揮できない状況があるにすぎません。どんなときにも子どもを信じて励まし続けるようにしたいものです。親が自分を信じてくれることほど子どもにとって幸せなことはありません。親の思いを受け止めてがんばり始める日が必ず来ることでしょう。
③ 原因無くしてことは起こりません。子どもの逸脱にしても、ただ「子どもが悪いから」ではなく、相応の理由があると考えるべきでしょう。そう思えば親にも心のゆとりが生まれ、感情的に叱ることもなくなります。冷静に話し合ったことで、意外な理由があることが判明することもあるでしょう。
④ 子どもを叱るのを苦手にする親(特におかあさん)が少なくないようです。おそらく、叱ると感情が昂って思わぬ暴言を吐いてしまい、あとで落ち込んでしまうからでしょう。すでにお伝えしたかと思いますが、子どもの人格に関わるような叱りかたをするのではなく子どものした行為を叱るなら、叱られた子どもも傷つくことはないし、叱った親も感情を昂ぶらせることにはなりません。叱るときはきっぱりと。そして、手短に切り上げましょう。お子さんもそのほうが素直に反省できます。
<押さえておきたい!> 子どもの成長を引き出す子育ては家庭の数だけあります。
1.子育ての勘所は、「気長に粘り強く」だと思ってください。
子育ては思うに任せぬものです。常識にかかる途上の子どもが相手なのですから。そんな子どもを否定したり、暴言を吐いたりしても、子どもはよい方向には向かいません。気長に、粘り強く、楽観的な気持ちで日々子どもに向き合いましょう。親の思いは伝わっていないようで、確実に伝わっています。また、イライラしたり癇癪を起したりすると、親自身気が滅入るだけでなく、気持ちのよい生活ができません。
2.欠点のない子育てなんてありません。重要なのは愛情が伝わることです。
上例のように、親の行為としてはベストでなくても、子どもが立派に成長するケースはいろいろとあるものです。よい子育ては、それこそ家庭の数だけあるのです。「私は子育てに向かない」「子育てに自信がない」と思わないでください。むしろ、自分を「子育てに向いている」「子育てに自信がある」と思う人などめったにいません。重要なのは、親の愛情や期待がわが子に伝わるかどうか。そこに思いを込めた子育てに失敗はありません。